癒し手とドラゴンの邂逅
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ほとんどの怪我人の治療を終えたリリアは、小さな子どもたちに囲まれていた。
(明日には、レオン団長に会える)
離れていた時間は、忙しさの中あっという間に過ぎてしまった。でも、今すぐだって会いたい。
「ねえ、リリア。聖女様ってどうやったらなれるの?」
「んー。私は聖女じゃないからなぁ」
「みんなせんじょうの聖女様って言ってるよ?」
リリアは、聖女ではない。神殿に残っていたら、ほぼその地位が約束されると神官たちには言われていたが、今はただの癒し手だ。
その時、晴れ渡った空が急に暗くなる。ただ、絶望するしかない感覚がその場にいた人々を襲った。
「……早く避難所に逃げて」
「リリアはどうするの?」
「私ね、聖女じゃないけど、実はとても強い騎士なんだ。任せておいて」
(まず、ドラゴンは光魔法に誘われて私のところに来るはず。時間を稼ぐ)
リリアは剣を握りしめる。ドラゴンは、なぜか攻撃することなく、リリアのそばに降り立った。
「芳しい香りがしたと思えば、珍しい落とし子か」
「え?」
「長く生きているが、出会うのは2回目だな」
そのドラゴンは、人語を話していた。
「あの、あなたは」
「ふーん。光魔法まで持ってるなんて、神の愛子か」
「え?」
ドラゴンは長い舌でリリアの頬を舐めた。
「うっ」
リリアが頬を押さえる。なんだかしっとりしている。それに魔力がごっそり失われた。
「うーん。やはり甘美だ。光魔法を持つ落とし子の魔力は最高級だからな」
「あの。あなたの目的は…」
「あぁ、そんなに人に興味がないから素通りしようと思ったけど、気が変わった。落とし子を連れて帰る」
「リリア殿!!」
その時、閃光とともに斬撃がドラゴンに襲いかかった。
「……五月蝿いな。ちっ、人間には関わらないことに決めていたのに、俺はなんでこんなに」
ゆっくり動いたように見えたドラゴンだが、その口元に高密度の魔力が集まっていく。
「ディアス団長!」
「下がって!貴女に何かあれば、レオンに合わせる顔がない」
ディアス団長は強かった。その実力はルード副団長やアイリーンに並ぶだろう。
(だけど……あの、竜には及ばない)
勝敗はすぐに決してしまった。
「思ったより人の子も強い。まあまあ面白かった。機嫌がいいから、落とし子が共に来るなら見逃しても良いぞ?」
「行ってはいけません……」
ディアス団長が止めてくるが、リリアには他に選択肢はない。
(……レオン団長に会えなくなっちゃう。でもこのままじゃ、ディアス団長が死んじゃうよ)
「わかり……」
「……ふざけるな」
「ぐ、貴様?」
ドラゴンの鱗がパラパラと舞い散った。
「なぜ、落とし子が2人もいる?」
「何を言っている。リリアに手を出したな。……お前は討伐対象だ」
無表情のまま、レオン団長が続けてドラゴンに攻撃を加える。闇の魔力が放たれ、ドラゴンの周囲を取り囲む。
「ふふ、ははははは。落とし子は、流石に強い。だが、まだまだ成長途上か」
「うぐっ……」
「レオン団長!!」
レオン団長の体が吹き飛んだ。再び高密度の魔力が、ドラゴンの口元に集まっていく。
「……それだけはさせない。それだけはダメ」
あの日、神殿を離れるリリアに命が危なくなった時にと大司教様が特別に教えてくれた禁呪。光魔法唯一の攻撃魔法。
(あの日怖くて泣いた……。でも木下くんがいなくなった時、七瀬はもっと怖かった)
「もう一度、失うくらいなら」
七瀬の体が白く輝く。
「――――神の裁き」
リリアの精神が光に飲み込まれていく。リリアとしての魂が綻んでいく。
「レオン団長……」
「リリア!」
誰かに抱きしめられたのが、最後の記憶になった。
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