癒し手の苦闘
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災害現場の復興は、まだあまり進んでいないようだった。家を失った人々は、かろうじて屋根があるような場所に集まっていた。
(仮設住宅とか、ないものね)
それよりも、リリアは避難生活の衛生状態が気になった。いくら、回復魔法をかけても、衛生状態が悪ければ、感染症が蔓延してしまうかもしれない。
「リリア殿。飛竜討伐でのご活躍は聞いています。この現場を見てどう思われますか」
ディアス団長から、声がかかった。
「まずは、すべての包帯やシーツを洗って、お湯で茹でてから干して下さい。水も生水はダメです。一度必ず沸騰させないと……」
癒し手なら、怪我人に回復魔法をかけて回るのが通常だろう。第一騎士団の団員の一部から不満の声が上がった。
「……もちろん、重症の方から回復魔法をかけていきます。もし宜しければ、負傷者の移動の協力をお願いできますか?」
第二騎士団内であれば、皆んなすぐに動いてくれるだろう。だが、この場所ではリリアは新参者。
(すぐに理解を得るのは、難しいって分かってる)
その時、黙っていたディアス団長が口を開いた。
「貴女に協力を依頼したのは私だ。この現場では、戦場の聖女殿の意見が優先される」
「……ありがとうございます。まずは、歩ける負傷者の方は、あちらの天幕に移動してもらって下さい」
その時一人の男が声を上げた。
「なぜ、俺が移動せなばならん。癒し手ならば、さっさと回復しろ!俺は子爵だぞ!」
(やはり、こういう声は上がるのね)
「災害現場において、トリアージの優先順位は絶対です。歩ける方は、指示に従って下さい」
「無礼者!」
男は急に抜剣し、リリアに斬りかかってきた。リリアは、身体強化を発動して、その斬撃を避ける。
次の瞬間、男はディアス団長により、地に伏せられていた。
「あなたの技量では、リリア殿に傷の一つもつけられませんよ?実力が違いすぎます」
「くそ。俺を誰だと……」
ディアス団長が、冷たい声で答えた。
「たとえ貴族であろうと、王命によりこの現場の最高責任者は私だ。逆らうことは許さない。――連れて行け」
現場には静寂が訪れた。ディアス団長が、リリアの前に跪く。
「リリア殿、すぐにお助けできなかったこと、恥じるばかりです。どうかお許しを。……しかし、武勇の噂は聞いていなかったが、強いのですね?」
「いえ……。騎士団の中ではまだまだです」
ディアス団長が、爽やかな笑顔を見せる。
「しかしあなたは癒し手だ。これほどの腕を持った方は見たことがない。貴女に興味が湧いてしまいました」
「……ありがとうございます?」
その瞬間、騎士団員たちから小さなざわめきが起こった。
「「あのディアス団長が女性にスルーされた!!」」
どんな女性でも、ディアス団長にあんなふうに言われれば、頬の一つも染める。それが、第一騎士団員たちの共通認識だった。
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あの事件から、リリアはなんとなく第一騎士団の騎士たちに受け入れられたようだ。今も、リリアの周りを数人の騎士が守ってくれている。
「守ってくださって、ありがとうございます」
「いえ、職務ですので」
リリアが感謝を込めて微笑みかけると、なぜか顔を逸らされるのは続いているのだが。
(皆んな、恥ずかしがり屋なのかしら?)
少しだけやりやすくなった現場で、リリアは重症者に回復の全体魔法をかけた。
「凄まじい光魔法だ……」
護衛してくれていた騎士が、感嘆の声を上げた。
(でも、回復魔法だけでは十分ではないわ。脱水を起こしている人も多い。経口補水液が作りたい。塩と砂糖が欲しい。それに清潔な布や水がもっと)
回復魔法をかけて、魔力が切れかけるとリリアは天幕をまわって傷の処置や状態の確認を行った。
休むことなく働くその姿に、いつしかこの場所でもリリアは戦場の聖女と呼ばれ始めていた。
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次回、第二騎士団の様子をお送りします。
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