団長の魔力が消えた謎
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「さて、どういうことか説明してもらおうか」
「……そういわれても」
テオドールが、レオン団長に詰め寄られている。
「あの紫色の怪しいポーションを飲んで、俺の魔力は消えた。それ以外考えようがない」
「普通に考えたら、そんなはずないんだけど?」
魔力はこの世界では当たり前の存在。当たり前すぎたせいか使い方は研究されても、その本質についてはそれほど深く研究されているわけではない。
(でも、結局魔力を利用しない限りこの世界に医療を広めるのも難しいわ)
「ポーションはどうやって効くんでしょうか」
―――作用機序
(たぶん、ポーションを飲んだ時の作用機序という概念が抜けている)
七瀬のいた世界でも効果は確認できてもどのような仕組みでその薬が効くのかという作用機序はわかっていない薬もかなりの数あった。しかし、新たな薬を作るうえで欠かせない概念だ。
「うーん。それについては、ポーションの材料が関係しているのかもね。ポーションの作用は光魔法の応用だと僕は考えている」
「光……魔法?」
もしそうならば、闇の魔力を持つレオン団長には効き目がないはず。
「闇の魔力は光の魔力を打ち消す。わかっていることとしては、闇魔法を持つものには回復魔法が効かない。でも、実はその逆もあるとしたら…?」
「それなら、仮説として成り立つかもね。あのポーションは僕の自信作で、ほかの物よりだいぶ効き目があるはずだから」
(光の魔力を含んでいるポーションを飲んだことでレオン団長の闇の魔力が打ち消された?)
「そうなると、レオン団長にはポーションも効かないかもしれないんですね」
「そんな仮説も成り立つね?ふふ。君と話すのは楽しいなぁ」
「……」
「はぁ、心の狭い男は嫌われるよ?レオン」
振り返ると、レオン団長が腰に下げた剣に手を置いていた。
「ああ、無意識だ。すまん」
「余計怖いよ?!もっと君、余裕もった方が良いよ」
2人は、なんだかんだ言っても馬が合うのかどこか楽しそうだ。しかし、リリアには気になることがあった。
「そろそろ帰るか」
「そうですね」
「リリア……少しだけ2人で話してもいいかな」
軽く食い下がってきたレオン団長を置いて、テオドールとリリアは研究室の奥に戻った。
「これ、この間のポーションの残り。ものすごく手間がかかる上に試作品だからほんの少ししか残ってなくて」
前回の紫よりも少し薄い液体が、針のようなものがついた容器に収められている。
「これは……」
「前回の話をもとに、浄化の魔法をかけて血管に注入する前提で作ってみた」
「この容器は、いったい?」
「うん、もともと毒を注入するための武器はあったから、その応用」
(テオドールさまは、本当の天才なのね)
少しだけ、しかめ面になったテオドールがリリアに説明を続ける。
「少し実験したけど、特に影響はなさそうだった。たしかに、リリアの言う通り少量でも即効性があってしかも強力だったよ。作用時間は短かったようだけど」
「まさか、ご自分で使ったんですか?」
「ま、その前に魔獣を使って実験したけどね?一刻も早く完成させたいから」
テオドールは当たり前のように言うが、今までなかった方法でどんな副作用が出るかわからない。リリアの周りは、目的や大切なものの為なら、己を顧みない人間が多すぎる。
「これからは、いきなり自分で試すなんてやめてほしいです」
「ふふ。リリアは心配性だね?でも、レオンのためでもあるんだよ?」
「……テオドールさまも、気づいていたんですか」
「ああ、闇の魔法が打ち消せるなら、レオンに回復魔法が使えるかもしれない」
でも、あのレオン団長が重傷をおっているのだとしたら、たぶんそれは騎士団員にとって、リリアにとっても絶体絶命のピンチだ。その場面で、レオン団長の魔力が失われる。
(たぶん、レオン団長は最後まで命を懸けて戦おうとする。その場面で力が減ることを望まない)
「……リリアも、同じ考えか」
「たぶん、使わせてくれないでしょうね」
「これは、リリアに預けるよ。使わないで済むことを祈ってるけどね」
「――――感謝します。テオドールさま」
リリアは、いつも持ち歩いているポシェットにハンカチで包んだポーションをしまい込んだ。
それから2人がレオン団長のもとに戻ると、レオン団長はそわそわとした様子で待っていた。
「じゃあ、リリア。僕は君を気に入った。また、2人で話そうね?」
「……2人は何の話をしていたんだ?」
「え?2人の秘密だよ。あんまりのんびりしているとリリアのこと誰かにとられちゃうかもね?」
「……」
「テオドールさま?!」
レオン団長の目が暗い感じになったのが気にはなったが、この件についてそれ以上追及されることはなかった。
テオドール「確かにリリアは可愛いけど、それ以上にレオン弄るのが楽しすぎる。」
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