魔法が使えない団長とトーナメント
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「すまない。大丈夫だから。リリア?」
「大丈夫じゃない。震えてるよ?これから熱が上がるやつだから」
1人で帰れるというレオン団長を放っておくことはできず、リリアは騎士団長室まで付き添ってきた。
「ねえ、本当にここに泊まるの?家に帰ったほうが良いんじゃない?」
「騎士団長室の奥に俺の部屋があるんだよ」
そう言いながらも、レオン団長はだいぶ辛そうな様子だ。リリアは、団長室にずっといるというのはそういうことだったのかと納得した。
「ん……風邪とか引いたことなかったんだけどな」
「無理しちゃダメだよ。早く休もう?」
騎士団長室の奥の部屋は、片付いてはいたが生活感がなく少し殺風景だった。リリアは、そこにある寝台まで付き添い、レオン団長を寝かせた。
「リリア……。おかしいんだ」
「どうしたの?」
「魔力が消えた。……魔法が使えない」
「え?それって」
「は……。ごめ。ちょっと頭が働かない」
「そ、そうだね。休まないと」
リリアは枕元に水を置くと、そっとレオン団長の髪の毛に触れ頭を撫でた。体は熱いのにレオン団長の髪は冷たくて、思ったよりも柔らかくサラサラしている。
「リリア」
熱のせいか潤んだ瞳で見つめて名前を呼んでくるレオン団長に、リリアはどうして良いか分からなくなった。
「寒い。夢ならあと少しだけ、側に……」
「ひゃう?」
夢じゃないと言いたかったのに、冷たいその手と熱い体にリリアは何も言えずにただ引き寄せられた。
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――――暖かい。
こんなに眠れることは滅多にない。この世界に来てから、特に騎士になってからはいつも眠りが浅かった。
昨日は、リリアが部屋に来た夢を見た。なぜかとても心細くて、柔らかいその手を思わず掴んだような気がする。
「え?」
急速に夢から覚める。目の前にはベッドにもたれて眠る、何よりも大切な幼なじみ。そして、どうしてもそれ以上を求めてしまう存在がいた。
「え?夢の続き?」
「んう……」
リリアは、レオン団長の手を握ったまま眠ってしまったようだ。いや、離してもらえずそのうち眠ってしまったというのが真相か。
「木下く……あ、レオン団長。おはよ?だいぶ熱下がったみたいだね?」
「う……寝起きの破壊力っ?」
「何言って?ね、一緒に寝るの、幼稚園の時以来だね?」
まだ、寝ぼけ眼のリリアがレオン団長の額に手を当てたまま、ふにゃりと微笑む。絶対リリアに他意はない。他意はないだけに、レオン団長だって辛いものがあるのだった。
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「えーと。今度はどうしたんだ?レオンにリリア」
「「なんでもないです……」」
そう言いながらも、2人の距離感はいつもよりもやや離れている。喧嘩をしたのかと思えば、時々見つめあっては目をそらすを繰り返している。
「ま、いいことだ。それで、レオンが魔法が使えないっていうのは本当なのか?」
「ああ。思い当たることが一つなくもないが、魔法が使えないな」
「ふーん。ということはレオンも今は普通の人間って事か?」
その日、なぜか騎士団では騎士団長は魔法を使わない、そのほかの団員は全能力を使っていいというハンデありトーナメントが開催されることになった。もちろん、発案者はルード副団長だが、そういうのが好きそうなアイリーンだけでなくまさかのパールまで乗り気なのには驚いた。
「みんな、なんだかんだ言って脳筋の集まりだからな……。絶対優勝するからリリア、応援していて?」
そう笑いながら言うレオン団長自身も、トーナメントには気合が入っているようだった。
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パールは、最近リリアと練習している光魔法の身体強化を駆使してベスト8に残った。
実はトーナメントにはリリアも参加しようとしたのだが、周りの団員に『優勝するのがリリアになるからやめてほしい。』と困った顔で断られてしまった。
第二騎士団には『リリア見守り隊』という隠れファンクラブがある。
レオン団長も怖いが、リリアに怪我でもさせたらファンクラブメンバーの報復が恐ろしいのだった。
もちろんリリアは知らない。レオン団長は把握しているが泳がせている。
そして準決勝は、ルード副団長対アイリーン隊長。
「ふふ。これに勝ったらルードに何聞いてもらおうかしら?」
「そうだな。俺が勝ったらアイリーンはちゃんと書類業務するんだぞ?」
先手はアイリーンだった。軽やかに動いているように見えるのに、スピードの乗ったその一撃一撃は重い。剣がぶつかり合うたびに、会場中が響くような音が聞こえている。
対するルードの戦い方は、防戦一方であまり見栄えがしない気がする。しかしそれは基礎に忠実であり最も的確な場面でだけ攻勢に出るからだ。
しかし、決着は突然つく。アイリーンから少し距離を取っていたルード副団長がゆらりと揺れるとその直後にアイリーンは地に伏していた。いつの間に移動したのか、ルード副団長はアイリーンの目の前に立っている。
「え?うそ……なに今の?」
「縮地。練習してたんだけど、実戦でいきなり使うこともできないからな。うん、成功した」
「くっ、また負けた」
「アイリーンは強いけど、スピードと力に頼りすぎなんだよ。ま、一対一では勝てたって、魔獣討伐では俺はお前に勝ちようがない。……書類業務。約束だからな?」
もちろん、決勝にはレオン団長も残った。闇魔法は自己治癒力のほかに身体強化も常時されるらしいが、それがなくてもやはり団長の腕は一流で危なげなく勝ち進んできた。
「ふふふ。長年の悲願をここで果たす」
「やっと、この状態に体が慣れてきた。手加減しなくて済みそうだな」
騎士学校からの付き合いの2人だが、いつも実技はレオンが1番、ルードが2番。学業ではルードが1番、レオンが2番と総合首位争いを繰り広げていたらしい。
(いや、むしろチートっぽいレオン団長と総合1位を争うルード副団長の凄まじさが際立つわ……)
普段から、温厚な笑顔で話し方も優しいルード副団長は、書類業務をしたり団員のフォローをしている印象が強い。しかしその能力は、全騎士団でも上位。実は、第三騎士団創設の際には団長を打診されたとも噂されている。
「レオン団長、応援してますね?」
「リリア、可愛い。この戦いに勝ったら結婚してくれ」
「それ、実戦前に言っちゃだめですよ?」
「わかった……」
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決勝が始まったが、レオンとルードは見つめあったまま動かない。お互いの打ち込むタイミングを計りあっているのだろう。ざわめいた会場が水を打ったように静かになり、団員全員が固唾をのんで見守っている。
しかしお互いの剣先がわずかに揺れ、その直後にのど元に剣を突き付けられていたのはルード副団長だった。
「くそ、強いな!!これでも勝てないか」
「リリアの目の前で、負けるわけないだろ?」
「それか!いつもより動きが良いくらいだった!リリアの見てないところで戦いを挑むべきだったか」
結局、魔法が使えなくても騎士団長は一番強いことが判明した。
ルード「第三騎士団団長の打診?全力で断ったよ面倒な。それにレオン見てる方が面白いし。」
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