目が覚めたらそこは異世界
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気が付くと七瀬は柔らかいベッドらしきものに仰向けに眠っていた。パチリと目を開けた七瀬のことを、茶色の髪に青い目の女性と薄茶色の髪と瞳の男性が覗き込んだ。二人は穏やかな表情で微笑んでいる。
(外国の方たち?この人たちに助けられたのかな?)
「ジーナ。ほら、目を開けたよ。君の瞳と同じ、青色だ」
「可愛いわね、アベル。髪の毛はブロンドだわ。リリアの髪は、お義母さまと同じね」
七瀬は起き上がってお礼を言おうとしたが、体が思うように動かず声もうまく出すことができない。
(頭がひどく痛んだから、後遺症が出ているのかもしれない)
七瀬はとっさに看護師の知識からそう判断し、強い絶望感に支配されそうになった。
(おかしい。さっきから手を動かすたびにちらちら見えるのは……私の手?)
身動きを取ろうとするたびにパタパタ動く手がとても小さいのだ。
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それから、6年の月日がたった。
――――どうも、異世界に転生していたらしい。
七瀬は、自分の目の前で起きている出来事を他人事のように分析していた。
今日は、いつも一緒に遊んでいたカイルが転んでひざにひどい怪我をしてしまった。カイルのひどい泣き声に驚いた大人たちが集まる中、怪我は前世で見慣れているリリアは手早く処置をしようとしていた。
(まず、水で洗って清潔な布で止血しよう。それにしてもこれは痛そうね。すぐに治ればいいのに)
その時、リリアがかざしていた手からキラキラと金色の光があふれた。すると大人たちの目の前で、カイルの膝の怪我が綺麗さっぱり消えてしまった。
そして現在に至る。リリアの手から出てきたのは、光魔法かもしれないと大人たちが口々に話している。青ざめた父と母がリリアを迎えに来た。
(そういえば、小さなころから周りで不思議なことがたくさん起こっていた)
たとえば、怪我をした小さな小鳥が庭に迷い込んできた時の事。かわいそうに思ったが、助かりそうにない。悲しくなったリリアが泣いていると、不思議なことに傷ついた小鳥は元気よく飛び立っていった。
(この世界には魔法がある)
父と母は魔法が使えなかったため、七瀬の記憶を持つがまだ幼いリリアは、魔法があることに気づかなかったのだ。
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その数日後、物々しい迎えが来て、父と母と共にリリアは神殿に連れていかれた。
神殿には、優しそうな神官がいた。水晶玉のような、弱い虹色の光を放っているものに手をかざすように促され、かざしてみると水晶玉がまばゆい金に輝いた。
「間違いない。この子には光魔法が宿っています。それもとても強力な」
その言葉を聞いた両親は、喜ぶどころか青ざめていた。母親のジーナに至っては、涙を流して泣き出してしまっている。
(……喜ぶべきことではないの?)
「さて、リリアといったかな。光魔法の使い手はとても貴重で国の定めた決まりがある。16歳までは、家から神殿に通い光魔法を学んでもらう。その後は、神殿か騎士団の癒し手になるんだよ」
神官の話によると、貴族であれば高額な寄付金を支払うことで、神殿に所属しながら普通の生活ができるそうだ。
しかし、庶民にそんな大金が払えるはずもない。ほとんどの子どもたちが、16歳になるとその進路を、窮屈でも安全な神殿へと決める。
(それでお母さんは泣いていたのね)
しかし、ここが異世界であるのなら…。リリアには一つの確信にも似た予感があった。
(木下くんはこの世界にいるのではないかしら。そして彼が進むのはきっと…)
リリアは、神殿ではなく騎士団の癒し手になるのだと心に決めた。
そうでなくても、救急や集中治療室で働いていた七瀬にとって、神殿よりも騎士団の癒し手のほうが魅力的に感じた。
その後から、リリアは休息日も毎日神殿へと足を運んだ。光魔法の能力は、神官たちが舌を巻くほど高く、しかも努力家。それに加えて、七瀬として過ごしてきた現代医療の知識と怪我や病に対する心構え。
包帯を巻くのも、誰よりも早くきれいだとリリアは自負している。
すべてがかみ合って、リリアは16歳になる頃には同世代の中でも抜きんでた存在になっていた。
リリア「木下くんは絶対騎士団にいる。」
神官「能力はダントツなのに今日も神殿の庭で素振りしてる…。変わった娘だな。」
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