癒し手と薬師は出会う
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「あの。どういうことですか?」
騎士団の訓練に参加しようとしていたリリアは、一人の男性に詰め寄られていた。眼鏡が似合う、グレーの髪と瞳が印象的な人だった。
「だから、あなたの知識がほしいんです」
「えっと。言おうとされていることがいまいち理解できていないんですが」
「ポーションで人々を救うことができると思いませんか」
「え?ポーションですか?」
リリアは思わず身を乗り出した。この世界には薬があまりない。
それは七瀬の記憶があるリリアからすれば、信じられない事実だった。もちろん、レオン団長にとってもそれは変わらないだろう。
ポーションはあるが、大量に飲まなくてはならず高価であり、その金額を払えるなら癒し手に頼む人が多い。
「ポーションが効かないのは、人間の胃が持つ食べ物を消化する力のせいだと思っているんです。癒し手殿は、どう思われますか?」
多くの成分が胃酸や消化酵素により不活化する。それは仮説としてはあり得るとリリアも思う。
「それは、あり得るお考えだと思います」
「そうですか。ところで癒し手殿はそれに関する一つの答えをお持ちですよね?」
「え?それは……」
事実だけ言えば、リリアはその答えのヒントくらいならいくつか持っている。でも、それを今ここで答えるのは憚られた。
「あの、その」
「こちらは関係者以外立ち入り禁止ですよ?リリア、大丈夫?」
「アイリーン先輩」
「あー。熱くなると後先考えずに動いてしまうのが僕の悪い癖だな。……申し訳ありません。許可は頂いてます」
そう言って男性が出してきた騎士団訓練場への入場許可証には、驚くべきことに国王陛下直筆のサインが入っていた。
「改めまして、王立魔術院所属のテオドールと申します。以後お見知り置きを……」
「あっ。癒し手のリリアと申します」
長い前髪をかき上げたアイリーンが、少し口調を強くして言う。
「……私は団長直属部隊隊長のアイリーンよ。たとえ陛下の御許可があろうと、王立魔術院だろうと無理に情報を得ようとするのは無粋ではなくて?」
「その通りですね。リリア殿、失礼を致しました。本日は出直します」
そう言って去って行ったテオドールは胡散臭かったが、リリアはポーションの研究にかなりの興味を惹かれた。
(……正式に話してみたい)
「その顔はものすごく興味があるって顔ね」
「そう見えますか?」
アイリーンがリリアの頬を、その長い人差し指でぷにぷにっと軽く押した。
「……王立魔術院に1人で関わってはいけないわ。私かレオン、ルードの誰かに付き添ってもらうこと」
「ありがとうございます」
「訓練の時間よ。行きましょう?」
その日は珍しくルード副団長による訓練だった。優しい見た目と違い、基礎と理論をとことん突き詰める厳しい訓練で、リリアは精神的に地獄を見た。
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そしてその日の午後、リリアは騎士団長室に呼び出された。団長の机には書類が山積みになっている。
その書類を真剣な表情で見ていたレオン団長が顔を上げた。
「疲れているところ来てもらって悪いな。火急の要件の処理で、あまり時間が取れないんだ」
「そんな忙しいのに、どうしたんですか?」
「……王立魔術院から人が来たって聞いた」
「そうなの!ポーションについて話がしたいって」
長いため息が聞こえた。
「関わるなとは言わない。ただ、王立魔術院はほとんど貴族だ。1人で関わってはいけない。分かるな?」
「わかりました」
「こっちに来てくれるか?」
「はい。他にも何か用件が?」
レオン団長は近づいたリリアの手を掴み、瞑目すると自分の頬に添えた。
「ここ数日、リリアに会えなかったから深刻なリリア不足なんだ。補充させて」
「なっ、なに言って?!」
「毎日会いたい、欲を言えば片時も離れたくない」
その時、ガチャンと前触れなくドアが開いて、リリアは体を硬直させ、レオン団長は目を開けて眉をひそめた。
「お楽しみのところ悪いですが、リリアに会えないのは団長が書類を溜め込むからでしょう?」
「ルード副団長、いいところだったのに」
「用件は伝えただろう?リリア、一言言ってやってくれるかな?」
「はい。……団長。書類が終わるまで会えませんね?」
そのあと、連日夜遅くまで騎士団長室に灯がついていたとアイリーンが教えてくれた。
ルード「リリアに会いたければこの書類の山を片付けるんだな。」
レオン「ルード、悪役みたいな顔になってるぞ。」
ルード「……会いたくないのか?」
レオン「やります!」
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