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94・変わらない『好き』という気持ち


【SIDE クロード】



 ——自分の判断は間違っていた。


 鉄格子の牢屋に閉じ込められ。

 クロードは自責の念に駆られていた。


(エリアーヌを追放したのが間違いだったんだ……彼女を追放しなければ、こんなことにはならなかった)


 しかしもう遅い。


 彼はこのことに気付くまで、多大な時間を浪費してしまったからだ。


 最初は自分の失敗を認めたくなかった。エリアーヌがいようといまいと、直にこのような事態を招いていたと。


 自分は悪くない。

 彼女が全て悪い。彼女がもっとクロードになびいていれば——巡り巡って、こんな狭いところに閉じ込められることもなかった。

 


『聖女である私がいなくなれば、この国は終わりです』



 追放を宣告した時、エリアーヌが言い放った言葉が、クロードの頭の中で何度も何度も再生される。


 始めは「なにをバカなことを」と思っていた。

 エリアーヌの力は偽物であって、国を追放されたくないからそんなことを宣っているのだと。


 そんな彼女が哀れに見えた。


 しかし……現状、エリアーヌがいなくなってから、このような事態になっているのだから認めざるを得ない。

 エリアーヌこそが——真の聖女だということを。


(どうして僕はエリアーヌを追放してしまったんだろう……)


 閉じ込められ、なにもすることが出来ない現状では嫌でも自分の行いを振り返った。


(そうだ……僕は寂しかったんだ)


 もっと女性に甘えたい。

 もっと女性といちゃいちゃしたい。


 だが、エリアーヌはそれを認めてくれなかった。


 婚前ということもあったのか、クロードが寝床に誘ってもエリアーヌは決して体を許してくれなかった。

 王子としての立ち振る舞いも口を出された。

 本人は聖女としての仕事が忙しいからといって、クロードに構ってくれなかった。


(いや……もしかしたら彼女は彼女なりに、僕に愛情を注いでくれようとしてくれたのかもしれないな)


 しかしそれはクロードが思い描く、理想の恋人像とはほど遠かった。


 彼女の顔を見ていてもイライラが募るばかりの日を過ごしていた頃、クロードはレティシアに出会った。



『わたし……あなたのことが好きになったみたいでして……』



 そうクロードに甘えてくるレティシアは素直に可愛かった。


 思えば——クロードは母親のような包容力を、女性に求めていたのかもしれない。


 そしてレティシアは常にクロードに頼った。

 レティシアのような可愛い女性に頼られて、嬉しくない男はいない。



『この瓶の蓋、開けられないんですぅ。クロード、開けてくれませんか?』



 それは王子と一伯爵家の娘という関係を考えれば、不敬とも言える行動だろう。


 だが、そんな些細なことでも自分に頼ってくるレティシアがただただ可愛く思えた。


 そして……クロードがエリアーヌと婚約破棄をし、レティシアと一緒になろうと決意した決定的な出来事がある。


 あれは雪の降る日だった。

 城内には暖炉が焚かれているものの、それだけではまだ肌寒い。


 困っているクロードに対して、レティシアはなんと手編みのセーターを編んでくれたのだ。



『わあ! 殿下にとてもお似合いです。気に入ってくれましたか?』



 クロードがそのセーターを着ると、レティシアは顔を輝かせた。


 正直……レティシアから貰ったセーターはお世辞にも上質なものではなかった。

 いつもクロードが着ている最高品質のセーターと比べれば、雲泥の差だろう。


 糸のほつれもあって上等なものではなかった。

 素材こそ一流のものを使っているものの——編み込みが甘いのか——風通しが無駄に良くて、これでは冬の寒さを凌げない。


 しかし。



『ありがとう。レティシア。僕のために作ってくれて』



 レティシアがすごく頑張ってくれているのが伝わってきて、クロードは嬉しくなって彼女を抱きしめた。


 その時、彼女の手を見てしまったのだ。

 慣れない編み物をしたためなのか、彼女の手に所々小さな傷があったのを……。


(あれを見て、僕はレティシアを一生守っていきたいと思ったんだ)


 その後、クロードがそのセーターを着ていると、側近の者が「そんな汚らしい服を着るのは止めなさい」と忠告してきた。

 もちろん、そんなバカなことを言った側近には、罰を与えたが……まああれは少々やり過ぎだったように思える。


(あのセーターをもう一度着たいな。これから寒くなってくるだろうし……)



「クロード……」



 クロードが昔のことを懐かしんでいると、不安そうなレティシアの声が聞こえてきた。

 彼女は今、クロードの肩に寄り添って下を俯いている。


「どうしたんだい、レティシア」

「ごめなさい……全部わたしが悪いんです。こんな愚かで醜いわたしを許して……」


 レティシアは独り言のように懺悔を繰り返している。


 だが。


「なあに、心配するな。君のせいじゃないさ。なにがあっても僕は君の味方だ。僕の命に代えても、君を守ってみせる」


 レティシアの肩をクロードは抱いた。


 そんな様子を見て、鉄格子の外で彼等の見張りをしている魔族がせせら笑う。


「ハッハッハ! てめえ、そんな魔物みたいな醜い女がまだ好きなのかよ! 一応女だし、少しは()()()もらおうと思ったが……そんな気も起こらねえくらい醜い! ほんと……バカなお前にはお似合いの醜い女だな」


 魔族のその言葉にクロードは腹が立ち、思わず睨みつけてしまう。


「あぁん? なんだ?」


 しかし魔族にすごまれ、すぐに視線を外す。


(ダメだ……堪えろ。ここで立ち向かっても殺されるだけだ。僕だけならまだしも、レティシアに被害が及ぶことは許されない……)


 クロードは歯を噛み締め、怒りをなんとかおさめようとしていた。


 何故だかレティシアは以前のような可愛らしい顔ではなくなっている。


 しかしクロードが彼女の好きな気持ちは全く変わっていなかった。

 それどころか、俯いて懺悔しているレティシアの様を見ていると、ますます彼女のことを守らなくては……という気持ちが強くなった。


「レティシア。きっと君を元の姿に戻してみせるからね」

「うぅ……無理ですよぉ。だってこれを治せるのは真の聖女だけ——」


 とレティシアが声を発しようとした時であった。



 ドゴォオオンン!



 耳をつんざくような破裂音が聞こえた。


「お、おい! どうした! なにが起こった!?」

「ドラゴンだ! ドラゴンがこの国に攻め入ってきやがった!」


 慌てふためいた魔族達の姿。

 城内全体が震え、クロードはレティシアを守るように両手で抱きしめた。


「ドラゴン……? もしやあの時のドラゴンか!?」


 とうとうドラゴンがこの国を滅ぼしにきたのだ。


(魔族だけでも手一杯なのに、ドラゴンも来るなんて……とうとうこの国は終わりみたいだね)


 絶望感に駆られるクロード。


(しかし……おかしいな?)


 聞こえてくる声に耳を澄ませていると、ドラゴンは魔族と戦っているようだ。

 まるでドラゴンが魔族を討ち滅ぼし、この国を守ろうとしてくれているような……。


(いやいや、楽観視はいけないな。ドラゴンがこの国を守る道理なんてどこにもないはずなんだから……)


 悲鳴と怒号が飛び交う中。

 クロードはレティシアを安心させるように、優しく背中を撫であげた。

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