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90・始まりの聖女

「魔王の復活?」


 ナイジェルが首をかしげる。


 そんな彼の問いに対して、フィリップはとつとつと話を続けた。


「大昔——この世界は魔王を主君とした魔族軍が、代々他の種族と戦いを繰り広げていたのだ。

 魔王はあまりに強く、他の種族達は歯が立たなかった。しかしバラバラで戦っていた種族全てが手を取り合い一つになって、魔族軍を打ち負かして今日こんにちに至る……というのが今の世界の成り立ちだ」

「ちょ、ちょっと待ってください、フィリップ。私も初耳ですよ? そんなことがあったんですか?」

「エリアーヌは知っていると思っていたが、どうやらそうではなかったらしいな」


 フィリップは驚いたように目を見開く。


「まあ……それも仕方がない。なんせ千年……いや、もっと昔の話だからな。精霊の間では代々伝わってきた伝承ではあったが、人間達の間においては伝承がいつの間にか途絶えてしまった……ということだろう」


 魔王との戦い……そんなことがあっただなんて。


「ドグラス。あなたは知っているのではないですか?」

「我が生まれるよりも前の話だな。少しは聞いていたが……いかんせん、昔すぎて年寄り共の作ったお伽噺だと思っていた」


 ドグラスが息を吐く。

 どうやらドグラスも知らなかったみたい


「その魔王が復活しようとしていると? どうして今?」

「うむ」


 フィリップが頷き、さらに話を続ける。


「長い戦いの末、人間達は魔王を封印することにした。真正面から戦っても勝てないと考えたようだ。

 そしてとある地にて魔王を封印した——それが今の王国の首都、王都。王都のどこかでは今も魔王が眠っていると言われる」

「そ、それは本当ですか!?」


 聞いたことのない事実が次から次に飛び出し、私はつい聞き返してしまう。


「でも一体誰がそんな強大な魔王を封印することが出来たのですか?」

「聖女だ」


 フィリップはそう口にする。


「俺達は『始まりの聖女』と言っている。そして代々、女神の加護を受け継いだ聖女達が王国を守っている……というのがことの慣しだ」

「始まりの聖女……魔王を封印することが出来たのですから、さぞ強い力を持っていたんでしょうね?」

「ああ——エリアーヌはリンチギハム全域の範囲くらいまでしか結界を張れないみたいだが、始まりの聖女は世界全域に結界を張ることが出来たとも言われている。まあエリアーヌのやっていることも十分規格外なんだがな」


 始まりの聖女……。

 フィリップの言った通り、私が結界を張れる範囲には限界がある。

 だから追放された時、私はあの国に張られていた結界を解いたのです。


 そして今、リンチギハム全域に結界を張っている。

 現状、今の結界の強さを維持するためには、これくらいの範囲が限界。


「それなのに始まりの聖女さんは、世界全域に張ることが出来たなんて……」


 とんでもない魔力の持ち主です。


「まあどこまで本当かは分からないがな。大昔の話すぎて、脚色された部分もあるだろう」

「そうかもしれませんが……どちらにせよ、私を含めそんな聖女の力で今まで王国だけではなく、世界の平和が保たれていたわけですね」

「そうだ。だが……」


 フィリップが顔を暗くする。


「エリアーヌが追放されて、王国を守る術がなくなってしまった。だからこそ、バルドゥルのような魔族が入り込んできたのだろう。

 ——とはいえ、今までも魔族は魔王の復活を企み、王国に侵攻しようとしてきた。しかし聖女や近くに住むドラゴンの力もあって、その企みは未然に防がれてきた」


 ドグラスの方を見ると、彼は「どうだ」と言わんばかりに胸を張っていた。


「しかし……そんなことも、ここ最近では全くなかった。だからてっきり、魔族共は魔王復活を諦めたと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。魔王が復活してしまえば、王国だけではなく世界が混乱の渦に巻き込まれるだろう。これが俺がエリアーヌの考えを尊重する理由だ」


 とフィリップは話を終えた。


 どうやら事態は私達が思っていたよりも、随分深刻だったみたい。

 聖女になる時に、こんな大事なことを教えてもらえなかったことに、少し腹が立ちますけれど……先代の聖女の姿を思い出す限り、彼女も知らなかったのかもしれない。


 一気に部屋の雰囲気がずーんと重くなったように感じた。


「……もう王国だけの問題じゃないようだね。リンチギハム……いや、世界の平和を守るためにも、魔王復活をなんとしてでも阻止しなくちゃ」


 だけどそんな空気の中、ナイジェルが真剣な眼差しでフィリップを見る。


「でも魔族はどうやって魔王を復活させるつもりなのかな? なにかアテでもあるんだろうか?」

「それは分からない。しかし上級魔族のバルドゥルは、このままでは魔力が足りないとも言っていた。おそらく王国民の命を媒介にして、魔力を補充するつもりだっただろうがな。そして俺達、精霊に手伝わせようとしたことも——だから今すぐ魔王を復活させられるわけでもないが、事態は急を要する。行動を起こすなら、すぐにそうすべきだと俺は思う」


 そうフィリップは答えた。


 ゆっくりしているつもりもなかったけれど、フィリップの話を聞いて、さらに気持ちが高ぶってきました。


 ナイジェルは自分の両頬を叩いて、


「よし……! ならば明日にでもすぐにここを出発しよう。すぐに王国に向かって、なんとしてでも魔王復活を阻止しなければいけません」


 と声を発した。


 分からないことは多い。


 魔王復活……始まりの聖女。


 でもゆっくりしている余裕はないのです。


 それに……ここまでの話を聞いて、私はとある考えを思い付いていた。

 そのために今すぐにでも、王国に向かわなければならない。


「バルドゥルは死んだとはいえ、まだ王国には魔族が残っているだろう。戦いが起こるかもしれぬ。エリアーヌに協力すると言った手前だ。我も行くぞ」

「ドグラス、頼りにしていますよ」


 私はそうドグラスに微笑みかける。


「俺も……と言いたいところだが、バルドゥルが来てすぐということもあって、まだ村は混乱したままだ。だから一度……」

「ええ、分かっていますよ。あなたは一度村に戻るべきです。落ち着いたら、私達に是非力を貸しに来てくれると嬉しいです」

「すまない」


 フィリップが申し訳なさそうに頭を下げた。


「よし……決まりだね。エリアーヌの思いを叶えるため……そして魔王復活を阻止するため、ひとまず王国に向かおう。準備が出来次第、詳細はまたみんなに伝える」


 ナイジェルの言葉に、私達は一様に頷いた。

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