87・力を合わせて
【SIDE ヴィンセント】
精霊の森。
「あいつ……いきなりなにを言い出すかと思ったら、魔族退治だとはな」
ヴィンセントは魔族の大軍を眺めながら、そう思う。
領地の近くに精霊の住処があることも驚きだが……いきなり魔族退治を頼まれたことも二重で驚きだ。
だが、彼はいち早く騎士団——そして冒険者を召集し、ここ精霊の森で戦闘を繰り広げていた。
「ヴィンセント様!」
ヴィンセントが所有している兵団の長が声を上げる。
「戦況はどうだ?」
「見ての通りです! 聖水のおかげで魔族共なんてただの雑魚ですよ!」
アンデッドタイプの魔族。
斬っても斬っても簡単には消滅してくれない。
不死者であるこいつ等を倒すためには、本来なら多大な労力を割かなければならなかった。
しかしアンデッドモンスターが多数いるダンジョンによって、そいつ等の扱いに慣れている兵団——さらには冒険者にとって、不死者は最早格好の餌食であった。
(数千の魔族軍団がこんなに簡単に倒せるとは……いやはや、聖水というのは便利なものと再認識する)
こうしている間にも魔族が数を減らしていっている。
全滅させるのも時間の問題だろう。
(あの女にはまた感謝を伝えなければならないな)
エリアーヌのことを思い浮かべながら、ヴィンセントはそんなことを考えていた。
しかし戦況はヴィンセント側優勢であるものの、まだ戦いは終わっていない。
「皆の者、気を抜くな」
ヴィンセントは己も剣を抜きながら、兵団と冒険者達を鼓舞する。
「このままやれば我等の勝利は固い。もうひと頑張りだ。この大業を成し遂げれば、殿下から褒美もたくさん貰えるだろう。もう少し、私に力を貸してもらいたい」
「「「おーっ!!!!」」」
ヴィンセントの言葉で、みんなの士気がさらに上がる。
そして彼も剣——さらに聖水も携え、魔族軍団に立ち向かっていった。
◆ ◆
ここに来る前。
私達はヴィンセント様の領地に立ち寄り、今回のことをお願いした。
内容は短く——精霊の森への出兵。
敵はバルドゥル一人だけとは、端から私達も考えていなかった。部下を引き連れてやって来るでしょうと。そうなった場合はいくらナイジェルでも分が悪い。
そこで精霊の森から最も距離が近いヴィンセント様に、出兵を依頼したわけです。
当初、彼は驚いていたようだが、
『ナイジェルとエリアーヌの頼みなら断るわけにもいかない。だが、褒美はたんまりと用意しておけよ?』
ニヤリと笑みを浮かべ、すぐに兵団と冒険者の用意をしてくれた。
幸いにもダンジョンの一件があり、ヴィンセント様の領地には聖水のストックがたくさん残っている。
塔にいた魔族を見て、バルドゥルの部下にはアンデッドタイプが多いと踏んでいましたしね。好都合です。
ここからでも魔族の悲鳴が聞こえてくる。
どうやら上手くやってくれていそう。
「わ、私の……駒が減っていく……?」
それはここにいるバルドゥルにも、伝わっているのでしょう。
バルドゥルはわなわなと震え始めた。
「さあ、どうする?」
そんなバルドゥルに対して、ナイジェルが問いかける。
「もう君の負けは決まっているようなものだよ。ここからどうやって戦況をひっくり返すつもりだい?」
「…………」
バルドゥルにもこれ以上の策はないはず。
その証拠にバルドゥルは言葉を失っていた。
「どうして……? 私は間違っていたの?」
バルドゥルは震えた声でこう続ける。
「いや……私はなにも間違っていなかった。全部全部、あんた達が悪い。特に聖女——この男に女神の加護を授けているのはあんたね? あんたがいなければ、全てが上手くいった。みんなみんな、私のものになったはずだった」
「だからあなたは負けたのです」
バルドゥルに視線を向けられ、気付けば私は口を動かしていた。
「確かに私は甘いことを言っているかもしれません。私ではみんなを守るなんて夢物語かもしれません。しかし——自分の利益しか考えない、あなたのその浅ましさ。そんなあなたにだけは、私達は負けませんから」
「……その目よ」
雰囲気が一転。
バルドゥルの表情に怒りが込められる。
「その目が嫌いなのよ。そんな哀れんだ目で……私を見るなあああああ!」
先ほどまでおさまっていた闇が、さらに爆発的に増加していく。
「せめてあんただけでも地獄に落とす!」
いけません!
「ナイジェル! すぐに離れてください! その魔族、自爆するつもりです!」
「なんだって!?」
すぐに後退し、バルドゥルから距離を取ろうとするナイジェル。
間に合わない!?
魔力を分析するに、自爆の範囲は精霊の森全体に及ぶでしょう。
すぐに私は結界を張るが、このままではナイジェルを守ることだけで精一杯。
ここにいる精霊達——そしてまだ森で戦っているヴィンセント様がただでは済みません!
「間に合ってください……っ!」
それでも私は諦めずに、出来るだけ広範囲に結界を張ろうとする。
私には出来ないのでしょうか?
みんなを守ることが——。
「その心配はいらない」
——と。
絶望している私に対して、フィリップがそう声を発する。
「闇が……消えていく?」
それどころか……辺りに光が拡散していきます。
見るとフィリップ——そして周りの精霊達の体が光り輝いていた。
膨大な光魔法の魔力——。
あんなちっちゃな子ども精霊も、必死に光魔法を発動し、さらにはそれを連結させていく。
そして上空に出来上がったのは大きな魔法陣。
魔法陣から光が降り注ぎ、バルドゥルを包んだ。
「眩しい光——そうか……私は負けたのね」
自爆しようとしていたバルドゥルであったが、精霊達の魔法によって、魔力を放出することすら出来なくなったみたい。
諦めたように肩を落とし、その場で項垂れ——そのまま徐々に体が消えていった。
「すごい……」
神々しい光を見て、無意識に私の口からはそんな言葉が零れていた。
「たまには俺達もカッコいいところ見せないとな」
フィリップが照れ臭そうに鼻をこする。
バルドゥルが目の前から完全に消滅したのを見て、私はほっと一安心するのでした。
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