74・小さなお守り
『薬師』資格を受験するにあたって。
私は王城の書庫に引きこもり、しばらくここで一人勉強することにした。
……はずなんですけれど。
「お姉ちゃん、がんばれー。がんばれー!」
私が本を血眼になって読んでいると、隣でこの国の第一王女——ナイジェルの妹、セシリーちゃんが応援してくれていた。
「ありがとうございます。セシリーちゃん」
「ううん! 大丈夫なの! 頑張っているお姉ちゃんもとってもカッコいい! フレー! フレー!」
セシリーちゃんが両手で持っている小さな旗は、手作りでしょうか……?
それが彼女に似合っていて、とても可愛らしかった。
「ふう。久しぶりにこんなに勉強していますが、やっぱり疲れますね」
一度うーんと背伸びをして、肩を回す。
これほど勉強したのは、王国で聖女に任命された時以来でしょうか。
あの時は大変でした。
平民育ちの私に対して「貴様は礼儀がなってなさすぎる!」とクロード王子が無理矢理礼儀作法のお勉強を押し付けてきましたね。
それだけではない。
治癒魔法や結界、王国の伝承についても勉強させられて、しばらく落ち着いて寝ることが出来ませんでした。
だけど今回は自分の意思でやっている勉強。しかも自分の興味のある分野。楽しいのです。
「セシリーちゃんもそろそろ学院に入学しないと、いけないんじゃないですか? 学院に入ったらセシリーちゃんもいっぱい勉強するんですよ」
「セシリー、お勉強嫌いなの! ずっとお姉ちゃんとにいにの傍にいる!」
「そういうわけにもいきませんでしょう……」
そう言うセシリーちゃんも微笑ましい。
薬師の資格勉強についてはナイジェルにも報告していた。
当初、彼は「どうして今更?」と言わんばかりの表情をしていたが、本当の意味を言えるわけもない。
「よーし、もう少しでこの本の三章も終わりです」
「終わったら、今度はセシリーと遊ぼ!」
「いえいえ。まだまだやることはありますので。セシリーちゃんと遊ぶのは、試験が終わるまでの我慢です」
「むーっ!」
頬を膨らませるセシリーちゃん。
でもそんな彼女の顔を見ていたら、元気が出てきた。
試験まではあと三日もない。
休んでいる暇はないのです!
私は本とノートを交互に見ながら、ペンを走らせていった。
…………。
ん?
「いけない。いつの間にか寝てしまいました」
目を開ける。
窓の外はすっかり暗くなっている。テーブルの上に置かれている卓上の照明が、手元を照らしていた。
寝るつもりはなかったんですけれど、いつの間にかテーブルに突っ伏して落ちてしまったようです。
「とはいえ試験に不合格になるわけにはいきません。もうひと頑張りです。勉強を再開しましょうか……」
まだ寝ぼけている頭のまま、本に視線を落とそうとした。
しかしこの時に気付く。
「……毛布?」
私の肩に毛布がかけられていたのです。
さらにテーブルの上には手紙が置かれていた。
『エリアーヌへ。
あまり頑張りすぎもよくないよ。体を壊しては元も子もないから。
でも頑張っているエリアーヌも美しい。なにかして欲しいことがあれば、すぐに僕に言ってね。
ナイジェルより』
ナイジェルからの手紙だ。
「ナイジェルに心配かけてしまっていたみたいですね」
私は毛布を手に取って、顔を埋める。
毛布はふかふかで、こうしているとナイジェルが近くにいるかのよう。
安心する。
ちょっと眠ったこともあると思うけれど、勉強の疲れが一気に吹っ飛んだ。
「眠っていたから声をかけなかったんでしょうか? ナイジェルの優しさに応えるためにも、絶対に試験に合格しないといけませんね」
よーし!
充電完了!
私は両頬をパンと叩いて、いざ本に向き合おうとした。
しかし……この時に手紙とは別にとあるものが置かれていたことを発見する。
「これは……お守り?」
ネックレスのようにも見えるそれを手に取る。
周りが暗すぎてすぐに気がつきませんでした。
ネックレスのようなお守りには翡翠の水晶が付けられている。その水晶の奥に目を凝らしてみると『合格祈願』という小さな紙が入っていた。
こういったものはよく神殿でもお布施代わりに売られてたりする。
こうして水晶の中に小さな紙を入れておくと、神のご加護があると言われているのです。
この世界で一般的なお守りだ。
ちなみに……これは『合格祈願』だが、他にも『安産御守』『恋愛成就』と書いているものも多い。
「ナイジェルがわざわざ私のためにこれを?」
私はお守りを首からかけてみた。
うん……こうしていると、なんだか元気が出てくるみたい。
彼が寝ている私にそっと毛布をかけ、手紙とこのお守りを置いている想像をすると、自然と頬が緩んできた。
「またナイジェルにお礼を言わなければなりませんね」
でも今は勉強に集中!
私は腕をまくって、今度こそ勉強を再開するのだった。
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