64・不思議な剣
フィリップから箱を受け取る。
結構大きい。女の私がなんとか両手で抱えきれるくらいのサイズだ。
「開けられないのですか?」
「ああ」
私が問いかけると、フィリップはとつとつと説明を始めた。
「これは先祖代々伝わる宝箱だ。『なにかあれば、この中のものを使いなさい』と。しかし今まで誰も開けることが出来ず、中のものがなんなのかさえ分からない」
とフィリップは肩をすくめた。
古ぼけた宝箱である。
長いこと雨風にさらされたためか、見た目はボロボロだった。
しかし厳重に封がされていて、簡単には開けられそうにない。
「少し試してみても?」
「もちろんだ」
私は試しに宝箱に手をかけ、力一杯開けようとする。
しかし。
「本当に固いですね……」
宝箱はうんともすんとも言わず、開く気配すらしなかった。
「これはなかなか難儀しそうです」
「そうだろ?」
私は一旦宝箱から手を離す。
うーん……元々開けるのが難しいように設計されているのでしょうか。
それともずっと昔から放置していたから、自然と箱が壊れてしまって開けられないようになっている?
「エリアーヌ。少し我に貸してもらってもいいか?」
「どうぞー」
ドグラスが興味深げに覗き込んできたので、彼に宝箱を渡した。
一方の私はフィリップとさらに会話を続ける。
「中のものがなんなのかも見当がつかないんですか?」
「そうだ。しかし言い伝えによると『時が満ちれば、自然と箱は開けることが出来るだろう』……らしい」
「なるほど。となると今はまだその時ではないかもしれませんね」
「その通りだ。しかし昔から村の倉庫に放置されていただけで、今となっては皆は言い伝えを本気にしていないがな。ならばふさわしいものに譲る方が、幾分かタメになるだろうと考えたわけだ」
昔から?
ということは……。
「二百年前にここを訪れた聖女も開けることが出来なかったのですか?」
「ああ。エリアーヌと同じように頼んでみたがな。だが結果は同じだった」
「そうなんですね」
聖女も開けられないとなると、ますます開けられるか怪しい。
フィリップには悪いけれど、どうやら期待に添えることは出来ないようです——。
「開いたぞ」
と思ったら。
不意にドグラスの声が聞こえてきて、みんなが一斉にそちらの方を振り向く。
「あ、開いた!?」
思わず私は変な声が出てしまう。
視線を移してみると、先ほどあれだけ力を入れてもうんともすんとも言わなかった宝箱が嘘のように開いていた。
当のドグラスは「我、なにか変なことをしたか?」ときょとん顔。
「ど、どうやって開けたのですか?」
「いや……普通に。力づくで……」
それを聞いて、なんだか肩の力が抜けたような変な感覚を私は覚えた。
「力づくって……そんな簡単に」
「とはいっても、あまり力も入れてないがな。だから箱も壊していない。どうだ、すごいだろう」
えっへんとドグラスが胸を張った。
いや……すごいけれど、そんな簡単に開いたら拍子抜けというか……。
「これは……剣?」
横からフィリップも覗き込んできて、箱の中身を取り出す。
「そうみたいですね」
「だが、随分サビてしまっている。このままでは使うことも出来ないだろう」
フィリップの言った通り、刀身も持ち手も焦げ茶色にサビてしまっていた。
これでは葉っぱ一枚も斬ることが出来ないに違いない。
それどころか、あまり手荒な持ち方をしてしまえば、そのままポロポロと崩れ落ちてしまいそうだ。
「長いこと、箱の中に入ってしまったせいで劣化してしまった……ということでしょうか」
「そうかもしれないな」
「ちょっと見せてもらっても?」
フィリップが首肯し、私は彼から剣を大事に受け取る。
うっ……重い。
近くで見てみても、剣に対する感想は変わらなかった。
しかし。
「ドグラス」
「ああ、汝も感じるか。中に微量な魔力が含まれている」
ドグラスが古ぼけた剣に鋭い視線を向けた。
「魔力?」
フィリップが私達に問う。
「はい。とはいっても魔力が含まれている剣は珍しくありません。リンチギハムでもよく流通しているような類のものですわ。しかし……」
「妙な魔力だな。まるでまだ眠っているかのようだ」
ドグラスの言う通りだ。
剣に含まれる魔力は僅かではあったが、力を全て解放していないような……そんな妙な魔力を感じる。
しかしそれ以上のことは分からず、私達は首をひねるしかないのであった。
「そうだったのか。とはいえ——やはりエリアーヌ達にその剣を譲りたい」
「こ、こんな大事そうなもの、貰えませんよ」
いや、ただのサビた剣なのだが、先祖代々伝わってきた箱の中に入っていたもなのです。
さすがに貰うのは気が引けます。
だけどフィリップは首を横に振って。
「どちらにせよ、俺達が持っていても宝の持ち腐れだ。飯の時に聞いたが、リンチギハムには魔法研究所もあるんだろう? だったらそこで分析してもらいたい」
「良いんですか?」
「ああ。もしその結果、やっぱり必要ないと思うなら捨てるなり、俺達のところへ返してもらってもいい」
「ですが……」
「精霊は約束を守る種族だ。一度言ったことは守らせてくれ」
頑にフィリップは剣を受け取ろうとしない。
このままでは押し問答だ。
フィリップは真面目な性格なんだし、私がいくら言っても考えをあらためないような気がした。
「分かりました。では貰うのではなく、預からせてもらうという形でもいいですか?」
「それでエリアーヌが納得してくれるなら」
私が言うと、僅かにフィリップは表情を柔らかくした。
こうして私達はお土産(?)を貰って、精霊の村を後にした。
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