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63・夏にぴったりの料理

「おお。ここが精霊達の集落か」


 精霊の村に着くと、ドグラスは興味津々に辺りを眺めた。


 ちなみに……森は入ろうと思えば誰でも入れるが、村に至ってはそうではない。結界が張られているからだ。

 しかし私達が村の前まで到着すると、自然と結界はなくなり中に入ることが出来た。

 私が来ると、精霊達が分かるようになっていたのでしょうか。


「こら、ドグラス。あまりウロウロしてはいけませんよ」


 たしなめるが、ドグラスは私の注意なんか聞かずに近くの葉っぱをクンクン匂ったりしていた。


 私はここに来るまでに疲れてしまって、そんなことをする余裕はない。

 いや、私はドグラスに抱っこされていただけですけどね。精神的に疲れたのです。


『どらごーん』『どらごーん』


 そうこうしていると、小さな光がドグラスの周りをふわふわと回り出した。

 子どもの精霊だ。


「精霊か。さすがだな。我がドラゴンだということが分かるのか」

『もちろーん』

『むらが焼きつくされるー。おうーに言わなくちゃー』


 間延びした声。

 不穏なことを宣っているが、当の精霊達の声には危機感はない。


「あっ……大丈夫ですよ。ドグラスは良いドラゴンですから。そう警戒しなくても……」


 フォローを入れようとすると、



「エリアーヌ。来てくれたか」



 どこからともなくフィリップが姿を現した。


「彼は……ドラゴン? どうしてエリアーヌとドラゴンが一緒に?」


 怪訝そうな目でドグラスを見る。


「実は……」


 かくかくしかじか。


 私はドグラスについて説明する。


「なるほど……彼もリンチギハムの住民なのか。彼のことではないが、ドラゴンにあまり良い思い出がなくてね。変な目で見てしまってすまない」

「良い思い出がない? なにかあったんですか?」

「ああ。昔——追いかけ回されたことがあるんだ。まああっちにとったら遊んでいるようなものだろうがな。それ以来ちょっと苦手だ」


 なんか犬に追いかけられたみたいな話ですね。


「そうなんですね。ですが心配いりません。ドグラスは()()()()浅慮なところもありますが、良いドラゴンですので」

「エリアーヌがそう言うなら、俺も信頼する」

「おい、ちょっと待て。今我の悪口を言われた気がしたが……」


 ドグラスが問い詰めてくるが、私はそれを無視して、


「さて。丁度お昼時ですし、料理を作りにきました。フィリップ達はお昼ご飯はまだですか?」


 私が問いかけると、フィリップは頷いた。


「エリアーヌ、無視するな。我の話はまだ終わって……」

「ではドグラス。リンチギハムから持ってきた例のものを出していただけますか?」

「……ちっ。承知した」


 私が無視し続けるとドグラスは諦めたのか、舌打ちをして収納魔法からとあるものを取り出す。


「これは……」


 フィリップがそれをマジマジと眺める。


「今日のお昼ご飯は『冷やしそうめん』にしようと思います」

「冷やしそうめん?」

「東方の国では一般的に食べられている料理らしいです。すぐに出来ますので、少しだけお待ちくださいね」


 私はちゃちゃっと料理を始める。

 とはいっても麺等の一式の下準備はしてきたので、作るのはそう手間のかかるものではない。


 どうやら精霊の村には、元々キッチンと呼ばれるものがないらしい。料理を作るにはなかなか難儀する。

 ゆえにここに来るまでに下準備をする必要があった。


 ドグラスに魔法で火を起こしてもらってから、私はそうめんを茹で上げた。

 もちろん、精霊の水をたっぷり張ってだ。


 この水はポーションを作る触媒としても優秀だけれど、単純に飲料水として使うだけでも天に昇るような美味しさだ。このことは実証済み。


 私は底が深いお皿に、これまた精霊の水を張り氷を入れる。

 最後に茹でた後、冷やしたそうめんをその中に入れて完成だ。



「どうぞ召し上がれ」



 場所は村の中にある広場。

 木製のテーブルもいくつか置かれていたので、私達はそこで冷やしそうめんを食べることにした。


 私が料理を用意すると、他にも大小様々な精霊が広場に集まってきた。

 賑やかになってきました。


「じゃあ早速頂かせてもらおう」


 フィリップがまずはフォークで器用にそうめんを()()に付けてから、口に運ぶ。


 すると……。



「旨いっっっっっ!」



 と目を大きくした。


「でしょう?」

「シンプルな料理のようだが、これほどまでに旨いとは。さっぱりとした味付けが暑い夏によく合う」

「そう言っていただけて嬉しいですわ」


 フィリップが食べ出すと、他の精霊達も冷やしそうめんを食べ出した。


 ちなみに……小人サイズの精霊はともかく、小さな光のような精霊はどうやって食べるのかと注目していると、魔法かなにかで麺を持ち上げて少しずつ食べているようであった。

 端から見ると、そうめんが少しずつ消えていっているようにしか見えなかった。

 まあ食べることが出来ているようなら問題ない。


「このタレはなんなのだ? あまり感じたことのない味だが……」

「それは『めんつゆ』です。大豆を発酵させるところから始めましたので、手間がかかっていますのよ」

「なるほど。どおりで……」


 するするとフィリップがそうめんを食べていく。


「しかし食べにくいのが難点だな」

「ああ、それなら……」


 私はとある食器を取り出す。

 二本の短い棒のようにも見える食器だ。


「これは……?」

「『お箸』といいます。これも東方では一般的に使われる食器です。使いにくいと思いますが、慣れたらこっちの方が食べやすくなると思いますので」

「そうだったのか。早速やってみる」


 フィリップは私から箸を受け取り、そうめんを食べ出そうとした。


「むむっ……どうやって使えば?」

「これはこうしてですね……」


 箸を前に戸惑っているフィリップに、私は箸の持ち方をレクチャーする。


「確かにこっちの方が食べやすいな」


 彼はあっという間に箸を器用に使いこなして、そうめんをすすり出した。


 次から次へとなくなっていくので、私はそれに負けないようにそうめんを追加していく。


「おい、エリアーヌ。早くオカワリを寄越すのだ。ドラゴンの我からすると、人間共の食事は少なすぎるぞ」

「はいはい。というかドグラス、お箸を使うのが上手くなりましたね」

「バカにするな。我はドラゴンだぞ? 人間共が使う食器を使うことなど容易い」


 ドヤ顔のドグラス。


 こうは言っているものの、リンチギハムに来た最初の頃は手づかみで食べようとしていて、大変だった。

 それではあまりにはしたないと思いまして、私が指導しましたけど……今では立派にお箸を使いこなしていた。

 


 しばらくすると、持ってきた麺もなくなってしまった。

 冷やしそうめん『完食』だ。



「旨かった」


 満腹なのか、フィリップが幸せそうな表情をした。あまり感情を表に出さない精霊だから分かりにくいけれど。


「それは良かったです。ですが、これでまだ終わりではないですよ」

「まだなにかあるのか?」


 フィリップの瞳が期待で光った気がした。


「はい。食事の後にはデザートが付きものでしょう? ちょっと待ってくださいね——ドグラス」

「おう」


 これまたドグラスに頼んで収納魔法で持ってきてもらった、卵と牛乳。さらには砂糖と生クリームを取り出す。


「えーっと、まずは生クリームと牛乳を温めて……っと」


 その間に卵黄と砂糖をボウルの中でかき混ぜておく。


 十分に煮えたところで、生クリームと牛乳を混ぜたものをボウルの中へ少しずつ投入する。

 かき混ぜて……っと。

 これを容器に流し込み……。


「最後の仕上げは……ドグラス」

「人使いが荒いぞ」


 ドグラスは文句を言いながらも、ひゅーっと容器に息を吹きかけてくれた。


 もちろん、ただ息を吹きかけたわけではない。

 彼の吐いた息に小さな氷晶が混じっており、容器に入った『とあるもの』があっという間に固まった。


「デザートは『アイスクリーム』です。こちらも召し上がれ」


 私はスプーンを精霊達に渡して、アイスクリームを食べてもらう。


「ひんやりしててこれも旨いな。人間はこういうものを毎日食べているとは……羨ましい」

「毎日ではありませんけどね。たまにの贅沢なのです」


 アイスクリームは冷やしそうめん以上に好評だったようで、いくら作ってもハイペースでなくなっていく。

 子どもの精霊でも食べやすかったことが良かったのだろうか。


 フィリップだけではなく、



『おいちーい』

『せいじょーは料理がおじょうずー』

『頭がきーんってするー』



 と他の精霊も舌鼓を打っていた。


「エリアーヌ。我にも早くアイスを食べさせろ」

「ドグラスはちょっと待っていてください。精霊さん達のために来ましたから、あなたは後回しです」

「不服だ……」

「リンチギハムで山ほど食べていますでしょう」


 ドグラスが「むぅ」と顔をしかめているのを見て、私は微笑みながらアイスクリームを作っていった。



 やがて……アイスクリームもなくなり。



「エリアーヌ、本当にありがとう。こんなに旨いものを食べられて、俺達は幸せだ」


 とフィリップは私にお礼を言った。


「いえいえ、そんなことありませんよ。あなた達の水がよかったから美味しいものを作ることが出来ました」

「だが本当に良いのか? 水と野菜をたまに渡すだけで、こんな美味しいものを作ってもらえるとは……」

「もちろんです。というより礼を言うのはこちらの方ですわ。さすがに毎日は無理ですけど、これからも定期的に作りに来ますね」


 にっこりと私はフィリップに笑いかける。


 ナイジェルからあらかじめ受け取っておいた、対価であるお金も渡したがフィリップ達はあまり興味がなさそうであった。

 やっぱり彼等にとって、人間界で流通している貨幣はどうでもよさそうですね。


「ああ、そうそう。エリアーヌが来れば見てもらおうと思っていたんだが……」


 フィリップが指を鳴らすと、他の精霊がどこからともなく一つの箱を私達の前に持ってきた。


「これを見て欲しい。そして——この箱を開けることが出来たら、中身はエリアーヌ達に譲ろう」

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