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50・オムライス

 キッチンにて。


「それにしてもお嬢ちゃん。今更かもしれんが、本当にお嬢ちゃんに料理させてしまっていいのか?」


 いつもの料理人の方が、私にそう声をかける。


「私は良いですわよ。それに何度も言いますが、料理は大好きですので。喜んでさせてもらいます」

「そうか。ほっんと、お嬢ちゃんは素晴らしい人柄だな。貴族の中には料理なんて、オレ等雑用がやるべきだと考えているヤツも珍しくないのに……まあナイジェル様とかは、そんなことはないが」


 正しくは貴族じゃないんですけどね。まあいちいち否定するのもおかしいだろう。


 ——あれから。


 私達は少年を連れて、王城へ戻ってきた。

 彼に料理を振る舞うためだ。


 当初ナイジェルは料理人の方に作ってもらう予定だったらしいが、そんなことは私が許さない。


 だって……せっかくだから私も料理をしたいですもの!


 やけに料理人の方々は私を気遣ってくれてはいるが、これでも楽しんでやっているのだ。


「では料理クッキング開始ですわね」


 エプロンを着け、腕まくりをしていざ戦場キッチンに立つ。


「お嬢ちゃん、なにを作るつもりだ?」

「今回はオムライスを作ろうと思います」

「オムライス? そんなものでいいのか?」


 料理人さんが怪訝そうに眉を顰める。

 まあわざわざ客人に出す料理とは思えないからね。


 私はもう大体察しは付いているものの、少年の素性は未だ不明だ。

 とはいえ、リンチギハムの料理を見てもらう絶好の機会であることも間違いない。


 料理人の方の顔を見ていると、


『おいおい、オムライスだなんて庶民的な料理なんて……なにを考えているんだ? これだから世間知らずのお嬢ちゃんは……』


 と心の声が聞こえた……気がした。


 でも私には考えがあるのだ!


「どうしたんだ? オレの顔をじっと見ているが」

「なんでもありませんわ」

「……なんかすっごく見当外れなことを思われているような気がする……」


 料理人が目を細めた。


 ……さーて、早速やりましょう!


 まずは白ご飯にケチャップを混ぜ込んで、ケチャップライスを作るとしましょうか。


 フライパンの上に油を敷き、コンロを操作して火を付ける。


 火の魔石を使うことにより、誰でも簡単に火を付けられるようになった。それがこのコンロなのである。

 なかなか高価なものなのだけど、さすがは王城。設備が整っていますわね。


 フライパンが随分温まったところで、白ご飯を投入。

 続けてケチャップも投入して、混ぜていく。


「相変わらず手際が良いんだな。惚れ惚れしちまう。お嬢ちゃん、よかったら料理人になるつもりはないか?」

「ありがとうございます。ですが、まだまだやりたいことが多いですので」

「残念だ」


 料理人が苦笑する。


 会話を楽しみながら料理を楽しんでいると、あっという間にケチャップライスが完成した。

 一度これはお皿にどけておこう。


「次は卵……!」


 私は卵を取り出して、ボウルの上に次々と割っていく。

 そしてフライパンに流し込んで、まるでスクランブルエッグを作るかのようにこれも混ぜていく。

 半熟まで温まったところで、とうとうケチャップライスの投入だ!


 卵でご飯を包むようにして……完成!


「デミグラスソースを添えてもいいと思いますが、ここはオーソドックスにケチャップにしましょうか」


 またもやケチャップを取り出して、オムライスの上に『ようこそ(ハート)』と文字を書いておいた。

 こういう味だけではなく、見た目も楽しめる料理のことを世の人々は『える』と言っている。

 その基準でいくと、このオムライスも十分に映えるものであろう。


 うん。

 我ながら上手く出来たものだ。


 私は人数分のお皿にオムライスを載せて、食堂まで持って行く。



「出来ましたわ」



 食堂に行くと、既に長机にナイジェル……そして隣には妹のセシリーちゃん。対面には例の少年が座っていた。


「早く食べたーい!」


 セシリーちゃんがスプーンを持ち、待ち切れないといった感じで足をバタバタさせた。


「セシリーが食べる必要はないんだよ?」

「にいには意地悪なの! セシリーもお姉ちゃんのご飯が食べたいの!」


 セシリーちゃんがぷくーっと頬を膨らませている光景を見て、思わず笑ってしまった。


「良いですわ。一人分作るのも、三人分作るのも手間は一緒ですもの。どうせなら、たくさんの人に食べてもらいたいですので」


 どちらにせよオムライスは三人分用意してある。


「悪いね……って()()?」

「セシリーちゃんとその子……そしてナイジェルですわ。食べたくないんですか?」

「い、いや。是非食べさせてもらいたい。エリアーヌのご飯は絶品だからね。有り難く食べさせてもらうよ」


 そう口では言っているものの、わざわざテーブルの前に座っているということは最初から期待していることがバレバレだ。

 いつもは凛としてカッコいいのに、こういう時はちょっとした可愛さを感じる。


「これは……?」


 みんなの前にお皿を置くと、不思議そうに視線を移したのは例の少年。


「ええ。オムライスという料理ですわ」

「オムライス……初めて聞く」

「そうですか。とても美味しいので、是非食べてみてください」


 少年の反応に、ナイジェルは首をかしげていた。


 それも仕方がない。

 だってオムライスなんて料理、特に珍しくもないですからね。

 どこの家庭にも出される料理ですし、知らない方がおかしいくらいだ。


 それなのに彼は『初めて見た』と言った。

 その反応を見て、少年の正体が私の中でまた一歩確信に近付いた。


「じゃあ遠慮せずに食べさせてもらおう」


 少年がゆっくりとスプーンを卵に入れる。


 すると……。


「おお!」


 声を上げる少年。

 卵が内から弾けるように、とろとろの黄身が中から溢れ出してきたのだ。


「ふわふわ卵のオムライスです」


 えっへんと私は胸を張る。


「すごい……俺の()にもこんなものはない」

 少年はスプーンの上にオムライスを載せて、不思議そうに眺めていた。


 そしてゆっくりと口に入れ……、



「旨い!」



 と目を輝かせた。


「美味しいですか?」

「あ、ああ。こんなもの美味しいものを食べたのは初めてだ。これは本当に君が作ったのか?」

「ええ。その通りです」

「すごい……!」


 堰を切ったかのように、少年がオムライスを食べていく。


 ここまでの良い食べっぷりだと、作った甲斐があるというものだ。


「エリアーヌ。相変わらず君の料理は美味しいね」

「お姉ちゃんの料理は最高なの!」


 それはナイジェルとセシリーちゃんも同じだったようで、二人もふわふわ卵のオムライスにご満悦のようであった。

 自信はあったものの、好評なようでほっと一安心だ。


「ごちそうさま」


 見ると、あっという間に少年がオムライスを完食してしまっていた。

 口元をナプキンで拭いている。


「あら。それで十分なのですか?」

「どういうことだ?」

「まだオムライスはありますわよ」

「……!」


 少年の体がビクリと動く。


 先ほど、料理人の方に伝えておいてオムライスの下準備をしてもらっている。

 そもそもあまり手間のかからない料理だし、もう一度作るのはお手の物だ。


 少年は少し悩んでいたようであるが、


「オ、オカワリ……」


 と震える手でお皿を差し出した。


 それを私はにっこりと微笑み受け取る。


 やっぱりオムライスを選んで正解のようですわね。

 形式張った料理も美味しいが、空腹で苦しんでいる男の子には物足りないと思ったからだ。

 どうせならお腹いっぱいに食べてもらいたいですしね。


 私は再度キッチンに行き、オムライスを作った。




 ……それから一時間後。


「助かった、ありがとう。治癒魔法だけではなく、こんなものまで食べさせてもらって」


 食事を終わらせた少年が、あらためてナイジェルと対峙していた。


 ちなみに……セシリーちゃんは自分の部屋に帰らせている。

 まだいたそうだったが、これからは大事な話になってくる。まだ彼女を参加させるのは早いだろう。


 少年の顔色もすっかり良くなっている。

 どうやら元気をなくしていたのは、怪我のこともあるが単純にお腹が減っていたことが大きかったらしい。


「礼ならエリアーヌに言ってくれよ。彼女の料理の腕前はすごいものだろう?」

「ああ。こんな美味しいものを食べさせてくれるとは思っていなかった。他の国でちょっと嫌なことがあったもので、警戒していたが……どうやらこの国は全く別らしい」


 他の国?

 これは私の勘だけど、なんだか知っているところな気がしますね……。


「そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね。君は?」


 ナイジェルが少年に問いかける。


 あっ、そうそう。そもそも名前を聞くのを忘れていた。

 料理を作るので必死だったから……。


「名乗り遅れて失礼した……それに不躾な態度を取って、不快な思いにさせてしまっていたら申し訳ない。ここからは真面目な話をさせてもらいます」


 少年の雰囲気が一変した。

 今までざっくばらんな話し方だったのに、急に丁寧な言葉遣いに変わった。


 ナイジェルの観察するような視線を、彼は真っ直ぐと受け止めて。


「俺はフィリップ——精霊王のフィリップです」

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