5・怪我人を治癒しました
馬車に乗って、隣国のリンチギハムを目指していると……。
「ん……?」
突然、御者の方が声を上げた。
「どうかしましたか?」
「いや……どうやら道の真ん中で馬車が止まってやがる」
「休憩しているだけでは?」
「そうではなさそうだが……」
窓から外を見ると……確かに、前方には御者が言った通り馬車が立ち往生していた。
これは私の勘なんだけど、ただ事じゃなさそうだ。
まいりましたわね……。
こういう時の私の勘って当たりますから。
どちらにせよ。
「話だけでも聞いてみましょう」
「お嬢ちゃん、良いのか? 面倒臭いことに巻き込まれるかもしれないが……」
「構いません。どちらにせよ急ぎの旅ではありませんから。リンチギハムにはその後ゆっくり向かおうではありませんか」
「そうか。なら良いんだ」
御者の方にそう頼んで、私達は馬車が立ち往生している場所まで向かった。
すると……傷ついた人々が、馬車の中だったり周りで苦しんでいる姿が見えた。
「なんてこと……!」
私はすぐに馬車を降りて、その中の一人に声をかける。
「どうされたんですか!?」
「くっ……旅の者か……?」
髭を生やした、いかにも屈強そうな男が私に顔を向ける。
「魔物に襲われちまってな……なんとか逃げることは出来たんだが、ご覧の有様だ」
「魔物……」
平和なベルカイム王国で暮らしていて忘れそうになるけど、元々街の外は魔物で溢れかえっている。
それなのに王国に魔物が一匹たりともいないのは、私が今まで結界魔法を張っていたからだ。
「悪いが、ポーションがいくつか余ってないか? 言い値で買う。せめてナイ……」
男がなにかを言いかけるが、私はさっとそれを手で制す。
「ポーションなど必要ありませんわ。どちらにせよポーションの手持ちはありませんし」
「必要ない……?」
「ちょっと右腕、失礼しますわよ」
私は彼の傷口に手を当てる。
血がどばどば出ている。痛々しい傷であった。
「ヒール」
私がそう唱えると、傷口を中心にしてぼわっと優しい光が現れた。
それは傷口を包み、光がなくなった時にはすっかり傷は塞がっていたのだ。
「なっ……ち、治癒魔法だと!?」
彼はとても驚いたご様子。
「お嬢ちゃん、治癒士だったのか!?」
「んー……まあそういうところでしょうか」
王国で『聖女』やってました。
……なんて言ったら、無用な混乱を招いてしまうだろう。
今はそんなことで時間をくっている場合じゃないでしょうから。
「話は後です。まだ傷ついている方がたくさんいるではないですか。すぐに治癒しますので、怪我人は私の前へ」
「わ、分かった!」
怪我人達が私の前に列をなす。
「じゅ、重傷者から先に手当をしてやってくれ。この中では……」
「その必要はございません」
私はもう一度、さっと手で制す。
「まとめて治しますから——ワイドヒール」
怪我人達の上空から、等しく癒しの光が降り注いだ。
見る見るうちに怪我人の傷が塞がっていき、あっという間に皆が元気になってくれたのだ。
「だから言ったでしょう? 必要ないと」
重傷者から先に手当……なんてまどろっこしい真似をしなくても、こうやってまとめて治癒してしまえばいいのだ。
ふふーんと、私が得意気になっていると。
「た、助かった! あんたはまさしく聖女様だ!」
せ、聖女!?
最初に治癒した男が、私の両手を握ってそう言った。
あれ……?
いきなりバレました?
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