4・聖女の一人旅
「それで聖女様。あなたは今からどこへ?」
騎士団長から当たり前の質問が飛んできた。
「そうね……」
私は口元に手をつけて、もう一度考えてみる。
特に行くあてなどない。
頼れる知り合いとかもいない。
気ままに一人旅でもして世界を見てみようか?
いや……聖女としての力があればなんとかなりそうだけど、外の世界は危険が蔓延っている。
ちょっとでも痛いことは嫌なのだ。
となると……。
「隣国にでも行ってみましょうか。あそこだったら、身分不詳の私でも紛れ込めそうですし」
隣国リンチギハム。
大昔は長きにわたって、王国と戦争を繰り広げていたらしい。
しかし今はもう平和な世の中。
表面上は仲良くお手々を繋いでいる友好国となっている。
あの国の特徴としては、外国の人が多く、多種多様な民族や種族が入り交じっているところだ。
そのような懐の大きさもあって、リンチギハムは繁栄しているんだけど……。
「リンチギハムですか! 良いじゃないですか!」
「でしょ?」
騎士団長も賛同してくれる。
良かった。「あそこは悪い国です」とか言われたら、ますます行くあてをなくしてしまうところだった。
「馬車を用意させてもらいますよ」
「良いのかしら? 私、もう聖女でもなんでもないんですけど」
「構いません。自分にはこれくらいしか出来ませんから」
それに……と騎士団長は続ける。
「たとえ王子があなたを『聖女ではない』と言おうとも、自分の中ではあなたは立派な聖女です。世界中が敵に回ろうとも、自分だけはあなたの味方です。もっと胸を張ってください」
「~~~~~~~~!」
そんな真面目な顔して、言われたら顔が赤くなっちゃうじゃない!
あ~あ。ほんとに残念イケメンなんだから!
◆ ◆
その後、無事に城を後にした私は、騎士団長の手配で馬車に乗ることが出来た。
「よろしくお願いします」
御者の方にぺっこりと頭を下げる。
「はは、随分礼儀正しい子だね。騎士団長様の知り合いだと聞いたから、どんな無愛想な女だと思ったが……こんな可愛らしい子だったなんて」
と御者が私に見とれる。
ちなみに……『元』聖女である身分は隠している。
聖女が追放されたことは、まだ街の人々は知らないだろうし、無用な心配を抱かせてしまうと思ったからだ。
というわけで、私は平民用の服も着て『隣国にいる叔母の家に帰る』という適当な理由を御者の方に伝えている。
「では出発しようか」
「はい」
パカラ、パカラ、パカラ。
馬がゆっくり歩き出す。
予定では半月くらいはかかるらしいけど……まあ気ままに行こう。別に急ぐ必要もないんだから。
「それにしてもお嬢ちゃん、平民とは思えないほどキレイな髪をしているね」
「そ、そうでしょうか?」
クロードから、
『僕の婚約者でもあり、聖女であるなら常に美しくなければダメだ!』
と言われ、化粧品とかシャンプーとかは一級品のものを使わせてもらっていたからね。
でも面と向かってキレイだなんて言われると……つい照れてしまう。
「もしかして……貴族の子とか?」
「そ、そんなことありませんわ!」
「はっはは! ごめんごめん。踏みこみすぎたな。安心しな。あんたに手を出したら、騎士団長様に殺されちまう。オレのことは人形とでも思ってくれればいいさ」
御者の方が笑った。
ふうー……一瞬バレそうになったけど、なんとか切り抜けられた。
額に浮いた汗を、腕で拭うのであった。
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