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39・好きな人に好きと伝えること

 その後も私達はしばらく買い物を楽しんだ後、夜ご飯を食べて王城に戻った。


「今日は楽しかったよ」


 ナイジェルが私の部屋の前で、そう言ってくれる。


「こちらこそありがとうございました。おかげさまで充実した一日でしたわ」

「そう言ってもらえて僕も嬉しい。またデートに付き合ってくれるかな?」

「え、ええ。もちろん」


 一瞬『デート』という響きにたじろいてしまったが、いい加減私も慣れたものだ。


「…………」

「どうかされました?」


 これで今日はお別れかと思っていたが、なにやら彼の様子がおかしい。

 まるでなにかを言おうとしているみたいなのだ。


「い、いや、なんでもない。じゃあまた明日だね」

「はい。また明日」


 彼に手を振り、私は自室へ入った。


 先ほど、ナイジェルがなにを言い出そうとしたか気になるが、無理に詮索するのも嫌らしいだろう。


「ふう」


 扉を閉めて一息吐く。


 今日は疲れた……でも楽しかった。

 まるで夢のような一日だった。


 今思えばお出かけの最中、なにを考えていたか分からない。彼に嫌われないように必死だったように思える。

 自分の小さな発言を反省し、彼がどう思っているか気になった。


「でも……楽しかったと言ってくれていますから、それを信じていいのですわよね? ナイジェル」


 一人、そう呟いた。


 なにはともあれ、今日は本当に楽しかった。またナイジェルと一緒に行ければいいなと心から思う。


 よーし、今からベッドで横になって今日の振り返りだ! 

 反省が多くなりそうですけど!


 だけどその前に……。


「ドグラス、出てきなさい。分かっていますわよ」


 ナイジェルの足音が聞こえなくなった頃を見計らって、扉の外にそう話しかけた。


 すると。


「よく分かったな」


 扉の向こうからドグラスの声。

 ドアノブを捻り扉を開けると、そこにはドグラスのきょとんとした顔があった。


「いつから気付いていた?」

「最初からです! あんなバレバレの尾行、私でも分かりますから!」

「うむ。さすが元聖女だな。隠蔽魔法も使っていたのだがな。これくらい見破るのは容易いことか」


 ドグラスは感心したように何度か頷いた。


 そう。

 ドグラスは今日のお出かけの最初から最後まで、私のことをつけていたのだ!


「はあ……」


 溜息を吐く。


「どうしてこんなことをしたんですか?」

「ナイジェルに頼まれていたからな」


 ナイジェルに?


「ああ。いくらなんでもお忍びデートとはいえ、一国の王子が護衛も付けずに市内を歩き回るのは危ないだろう。そういうわけでなにか危険があれば、我が対処するつもりだった」

「ま、まあ確かにそうですけど……」


 筋は通っている。だけど何故か気にくわなかった。


 ナイジェル、どうして他の者に頼まなかったんですか!? いや、ドグラスだったらどんな暴漢でも叩きのめしそうですが! だけど今日の私の発言とか、ドグラスに全部聞かれてたとなったら、なんだか恥ずかしいじゃないですか。


「まあ……護衛が必要というのも分かっていましたから、黙認していた私も私ですけどね」


 ああ、頭痛がする。


 しかしドグラスは私のそんな気も知らないのか、


「喫茶店の時は悩んだぞ。汝がナンパア? をされていたからな。出て行って、八つ裂きにしてやろうと思った」


 得意気に口を動かした。


「どうしてたかがナンパごときに、そんなことをしなければならないんですか!」

「まあ悩んでいる最中に、ナイジェルが助けに入ったからことなきを得たがな。さすがに我もヒヤヒヤしたぞ」


 当たり前だけど、喫茶店の一件も全て見られていたようだ。


 ということは……。


「宝石店の一件も?」

「もちろんだ。ネックレスに呪いをかけるなどとは、人間もおかしなことをするものだな。どうして同じ種族で争い合うのか。我には理解が出来ぬ」

「それは私も同じ考えですが……」

「それにしても、ネックレスの呪い。あの者のオーラに似ておったな……」

「あの者?」

「いや、我の考えすぎかもしれぬ。忘れてくれ」


 そう言って、ドグラスは手をひらひらさせる。


 追及したいが、喋ってくれる気配もなかった。なにか彼の思い違いだったんだろうか?


「だが、それにしても随分楽しそうではなかったか」

「ええ、楽しかったですわ」

「かっかっか、それはなによりだ。このデートをセッティングしてやった我のことを、もっと褒めるがいい」

「それは致しません」

「不服だ」


 ドグラスは表情一つ変えずに言った。


「しかし今日のデートで——いやナイジェルもそうだと思うが——反省すべき点が一つある」

「え……そ、それはどこですか!?」


 つい前のめりになってしまう。


 当然だ。今から今日の反省会を一人でするつもりだったのだ。

 客観的な意見というのは気になる。


 ドグラスは人差し指を立てて、


「告白しなかったことだ」


 と、とんでもないことを口にした。


「こ、告白!?」

「うむ。我が見ている限り、汝はナイジェルのことが好きなのだろう? どうして告白しなかった。チャンスはいくらでもあっただろうに」

「そ、そんな……私が」


 私はナイジェルのことが好きなのだろうか?


 ……分からない。

 彼と一緒にいると楽しい。胸がドキドキするのも実感する。


 しかし……やはり身分の違いのせいだろうか、彼と幸せな家庭を築いているイメージがどうしても浮かばなかった。

 私にとって彼はアイドルみたいなもの。手が届かない存在なのだ。


「まあ汝に()()言うのもおかしな話なのだがな。好きなら好きでさっさと告白してしまえばいい」

「か、仮にですよ? 私がナイジェルのことを好きだったとします。良いですよ? 仮の話なんですからね。だけどもし相手がそうでもなければ、嫌われてしまうかもしれませんし……」

「……? なにを言う」


 ドグラスは心底不思議そうに思っている表情で、こう答えた。



「好きな人に好きと伝えて、どうして嫌われなければならぬのだ? 人間というものは分からないものだな」



 ——。


 それはドグラスにとって、混じりっけなしの純粋な疑問だったんだろう。


 だけど今の私にとっては、その答えはあまりにも眩しく。


「まあいい。今日は疲れただろう。さっさと寝るがいい。我も寝るとしよう」

「お、おやすみなさいませ」


 欠伸をするドグラスを見送ってから、私は扉を閉めた。


「ドラゴンにとっては、人間なんて回りくどいことをしているだけの生き物に見えるのでしょうか」


 ドグラスの真っ直ぐさが私には羨ましかった。


 ベッドで横になるが、先ほどのドグラスの言葉が頭に焼き付いて取れなかった。

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