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38・呪いのネックレス

 呪い。

 相手への強い怨念が、魔法のような所業を生む。

 呪いというものは素人目から見て判別しにくく、それを解くためには聖女や呪殺士といった専門職が必要になってくるものだ。


「呪いだって? はっは、お嬢様は面白いことを言いますね」


 しかし店主はそれを信じていないようだ。


「私も宝石店の店主をして長い。呪いがかかっている宝石を見たことは何度もある。そんじょそこらの呪いなら、私でも見分けられるよ」

「では、そんじょそこらの呪いではなければ?」

「なんだって?」


 店主が目を丸くする。しかしまだ半信半疑のようであった。


「ナイジェル」

「ああ」


 だけど私の言うことを信じてくれる人がいる。

 言わずもがな、ナイジェルのことだ。


 彼は一転して、鋭い視線をネックレスに向けた。


「このネックレスに呪いが……とてもそうは見えないね」

「ナイジェル。あまり触らない方が良いですわ。その瞬間にあなたに呪いが移らないとは限りませんから」

「それもそうだね。失礼」


 ネックレスに伸ばそうとした手を、私が制止する。


「気付かないのも無理はありません。強く……そしてかなり巧妙に偽装されています。専門職の方ならともかく、普通の人ならまず絶対に見極めることは不可能でしょう」


 だけど私の目から見て、ネックレスから禍々しいオーラが漏れているのがはっきりと分かる。

 どこかで見たことがある。あれはどこだったか……。


「呪いだなんて、ラルフの時みたいだね。どうしてそんな強い呪いがかけられているのだろうか」


 ナイジェルの言葉に、私は思い出した。


 そうだ。ラルフちゃんの時だ。あの時に見たオーラと酷似しているのである。


「殿下……お嬢様のおっしゃっていることは、本当のことですか?」


 ナイジェルと私の反応にようやく店主も異常に気付いたのだろうか。

 狼狽した様子で彼に問う。


「ああ。彼女は優秀な呪殺士でもあってね。呪いを見る目は確かなんだ」


 治癒士になったり、呪殺士になったり……私もなかなか忙しいですわね。

 だけどその二つの能力を兼任出来るのが、聖女とも言えるんだけど。


「そ、そんな……呪いがかけられたネックレスを仕入れてしまうなんて……」


 唖然とする店主。


 しかし。


「心配いりませんわ。これくらいの呪いでしたら、すぐに解除することが出来ますので」


 私は安心させるような口調で店主に言い、ネックレスに手をかけた。


 うっ……見ているだけで、気分が悪くなってくるオーラだ。さっさと終わらせたい。

 でもこのオーラ……やっぱり前に見たことがある。

 ラルフちゃんの時ではない。もっと以前から見たことがあるような……?



 私は目を瞑り魔法を発動し、あっという間に呪いを解除した。



「終わりました」


 作業を終えた私は、ナイジェルと店主へと顔を向ける。


「も、もう終わったんですか!?」

「ええ。呪いは完璧に解きましたので、普通にお売りすることが出来ますよ。良いネックレスであることは間違いないと思うので」

「いや……一度こうなってしまったら、もう売ることは出来ませんよ。気味が悪いですし、お客さんとトラブルになるのも嫌なので」

「そうですか」


 まあそれが無難であろう。

 宝石店の店主にとっては高い買い物になったけど、このお店ならすぐに損失分を取り返せるような気もする。


 ネックレスにかけられていた呪いは解除した。


 しかしこれで一件落着とはもちろんいかず……。


「だけど……その怪しげな商人。少し調査してみる必要があるようだね」


 ナイジェルが真剣な眼差しで、ネックレスを見ていた。


「店主。その怪しげな商人について知っている情報を、もっと詳しく聞かせてくれないかい?」

「は、はい。とはいっても、私もそこまでは知らないのですが……」


 とつとつと店主は語り始めた。



 なんでもその商人、半年前くらいからちらほらリンチギハムを訪れていたらしい。

 最初は怪しすぎるということもあって、誰も相手にしなかった。

 しかしその商人が持ってくる品物がどれも一級品で、値段も妥当であったことから他の人達もこぞって取引を始めたということであった。



「どういう方々が取引していたんですか?」

「武器屋や防具屋……雑貨屋。ああ、そういえば冒険者ギルドも取引してたらしいですね。良質な魔物の肉も持ってくるらしいので」

「ま、魔物の肉だって!?」


 ナイジェルが前のめりになる。


「え、ええ。魔物の肉を買い取って報酬金を渡すのは、ギルドにとって普通のことでしょう?」


 確かに店主の言う通りだ。

 しかし私とナイジェルにとって、それは大きな意味を持つ。


「もしかして……ラルフちゃんにあげていた魔物の肉に、呪いがかけられているものが混じっていたんでしょうか?」

「うん。そうかもしれないね」


 ギルドが買い取った魔物の肉を、他のお店に流し、それを王城の者が購入する。

 そしてラルフちゃんがそれを食べ……あのようになってしまった。有り得る話だ。


「事態は思ったより深刻かもしれない。店主、ありがとう。また後日、話を聞きに来るかもしれない」

「これくらいお安いご用です。あ、あと一つ!」

「なんだい?」


 店主は「これは私の勘なんですが」と前置きをして、こう続けた。


「あの商人……どうもあれが()()じゃないと思うんですよ」

「どういうことだい?」

「多分、冒険者が商人のふりをして、私達と取引をしていたと思うんです。筋肉の付き方が商人っぽくなかったですし、取引もまるで素人のようでした。まあ……そういう商人も少ないですがいないことはないですし、私の思い違いかもしれませんが……」

「分かった。ありがとう。参考にするよ」


 商人のように見えて商人じゃないような人……。


 うーん、ますます事態がややこしくなってきましたわ。

 しかし今はまだぽつぽつと点がある状態とはいえ、もう証拠は揃っているような気もする。

 あとはこれを一つの線に繋げればいいだけ……そんな予感もした。


「エリアーヌ、ごめんね。デートの最中に、こんなことをさせてしまって。気を取り直して買い物を続けようか」

「か、構いませんわ」


 思考モードの私ではあったが。

 ナイジェルの口から出た『デート』という言葉に、すぐに元の頭に戻るのであった。

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