36・眼鏡をかけている王子様も素敵です
翌朝。
ナイジェルとデート……じゃなくて、市内にお出かけすることになった私は、中庭に続く廊下を歩いていた。
「アビーさんに相談して、服を用意してもらいましたけど……変じゃないかしら?」
こういった経験が少ないためどうしていいか分からず、アビーさんに相談していたのだ。
すると彼女は急にはりきって「私にお任せください!」とおめかしの手伝いをしてくれた。
おかげで昨日私はアビーさんの着せ替え人形と化していたんだけど……そのおかげで、ちょっとは自分に自信を持てるようになった気がする。
中庭につくと、
「やあ、エリアーヌ」
既にナイジェルは到着していた。
「おはようございます。お待たせしましたか?」
「僕も今来たところだからさ。それにラルフと遊んでいたから、待った気はしなかったよ」
ナイジェルが微笑む。
それにしても……相変わらず、一つ一つの動作が舞台俳優みたいだ。男性のものとは思えないくらい指が細く、つい目を奪われてしまう。
「それにしてもエリアーヌ。今日の君はなんていうか……」
「へ、変ですか!?」
つい前のめりになってしまう。
しかしナイジェルは首を横に振って。
「逆だよ。すっごく可愛い。なにを着ても可愛いと思っていたけど、今日はまた一段と輝いて見えるね」
「あ、ありがとうございます。そう言うナイジェルもいつもと違ってて、新鮮ですわ」
ナイジェルはいつも貴族の正装を身に付けているが、今日はお出かけということもあってか、少しラフな格好だ。
だが見事にそれを着こなしており、ナイジェルの雰囲気に似合っている。
しかも……今日のナイジェルは眼鏡をかけている!
どうして普段眼鏡をかけない男性が眼鏡をかけると、何倍にも増してカッコよく見えるのだろうか。
「ふふ、ありがとう。今日は楽しみだったからね。ついつい気合いが入ってしまった」
「楽しみ……ですか?」
「うん。もちろんそうに決まっているじゃないか。だって君のような美女と二人で遊びに行けるんだよ? 楽しみじゃない方がおかしい」
美女……私が?
ダ、ダメダメ!
一瞬勘違いしてしまいそうになるが、寸前で踏みとどまる。
貴族というものは、息を吐くように女性を褒めるものなのだ。
しかしそれでも、ナイジェルに褒めてもらったこともあって、さらに気分が上がってしまう。
「じゃあ早速行こうか」
「はい」
こうしてナイジェルとのお出かけがスタートした。
◆ ◆
「おいおい、あの美男美女カップルはなんだ?」
「え、あのカッコいい男の方って……もしかしてナイジェル様?」
「バカ野郎。ナイジェル様がこんなどこにでもある喫茶店にいるわけないだろうが」
「それはそっか……でもあの女性の方も、とびっきりキレイだね」
「全くだ。男の方が羨ましい」
私達はお昼ご飯も兼ねて、喫茶店でお茶することになった。
お店の外にテーブルと椅子が設置されていたので、そこに向かい合って座っている。
しかし……落ち着かない!
「あ、あのナイジェル」
「なんだい?」
「なんだか私達、見られているようなんですが……」
「そうかな? まあ君みたいなキレイな女性、みんなに注目されてもおかしくないけどね」
とナイジェルは紅茶の入ったコップを、優雅に口に傾けた。
彼は注目されることに慣れている人間だ。さほど気にならないのだろう。
私の手元にもサンドイッチと紅茶、そしてケーキが用意されているんだけど、緊張しているせいか上手く喉に通らない。
「でも、一国の王子様がこんなところにいて本当に大丈夫なんですか? 怪しんでいる人もいますが……」
ナイジェルはいつもと違う服装、それに眼鏡もかけて変装しているため、周りで見ている人達も確信には至っていないようだ。
別に悪いことをしているわけじゃないから良いけど……なにかトラブルが起きないだろうか。
だけどナイジェルは余裕に満ちた態度で、
「こういうのはコソコソしているからバレるんだ。堂々としていればバレないよ。そう思わないかい?」
と私に尋ねた。
「そ、それもそうですわね。まさか自国の王子様が、こんな身近にいるとは思わないでしょうし……」
「だろ?」
なんだか落ち着かない気分ではあるが、ナイジェルと楽しく会話をしていると。
「あっ」
ケーキを食べようとしたら、フォークを地面に落としてしまった。
「あらら、落としちゃったね」
「す、すみません」
「どうして僕に謝る必要があるのさ? 困ったな。店員さんも近くにいないし……ちょっと呼んでくるよ」
「そ、そこまでしなくても結構ですよ!」
私が制止しようとすると「いいから」と言って、ナイジェルは席を立ってお店の中まで店員を探しに行ってしまった。
「なんでもしてくれますわね」
そのことに申し訳なさも感じながら、ナイジェルの行動に感心している自分もいた。
あんなカッコよくて気遣いも出来る素敵な男性。おモテになることは間違いないだろう。
どうして今まで婚約者がいなかったんだろう?
ますます不思議になった。
「お、そこのお嬢ちゃん」
ナイジェルが席を離れてすぐに。
三人組の男性に声をかけられた。
「私ですか?」
「そうだ。どうしてこんなところに一人でいるんだ。今からオレ達と遊びに行かないか?」
男達はニヤニヤと笑みを浮かべている。
え……もしかしてこれってナンパ!?
男達が今来たばかりにせよ、席の向かい側にある紅茶セットに目がいかないのだろうか?
どう見ても一人じゃないのに……。
バカなのかしら?
それともわざわざナイジェルがいなくなったのを見計らって、声をかけてきた?
ならば余計に悪質だ。
「いいえ。結構です」
毅然な態度で告げる。
こういうのは曖昧な返事をしているから、つけ込まれるのだ。
きっぱりと断れば、すぐに立ち去ってくれるはず。
しかし私の予想よりも、男達はしつこかったようで……。
「いいだろ、別に。さっさとどっかに行っちまおうぜ」
強引に男達が私の腕をつかもうとした。
「止めてください!」
私がそれを振り払うと、男は顔を歪める。
どうしましょう?
結界魔法でも使って、男達を退けることは可能だ。
しかし今はせっかくの休暇。騒ぎは起こしたくない。
「へへ。お前みたいな気の強い女も嫌いじゃねえぜ」
男達は懲りていなかった。
再び私の手を取ろうとした瞬間。
「そこでなにをしているんだい?」
その腕をつかむ男性が現れた。
ナイジェルだ。
「悪いが、この子は僕の彼女だ。彼女に手を出そうとされて、黙っていられるほど僕もお人好しじゃないつもりだけど?」
「てめえみたいなひょろひょろの男がオレに逆らうつもりかよ。タダじゃおかね……い、いてててて!」
ナイジェルは男の腕を捻り上げ、関節技を決める。
あらら、相当痛そうですわね。
「どうするんだい? 反抗するなら僕も自分の身を守るために、戦わなくちゃいけないけど」
男はなんとか体をひねり、力ずくで逃げ出そうとする。
しかし出来ない。
「わ、分かった! まいった! もうお嬢ちゃんは諦める!」
「本当だよね?」
ナイジェルが手を離すと、男達はそそくさとその場から走り去ってしまった。
「ナ、ナイジェル! お怪我はありませんか?」
「ははは、小さい頃から鍛えられていてね。王族たる者、戦いの最前線に立つべきだという父からの教えなんだ。剣や格闘術一式なら習得している。あれくらいの輩なら問題ないよ」
確かに……先ほどのナイジェルの動きを見ていると、とてもじゃないが一朝一夕で身に付いたものとは思えない。
ナイジェルの新たな一面が見れた。
「ありがとうございます、ナイジェル。あなたのおかげで助かりましたわ」
「こちらこそすまない。君に不快な思いをさせてしまって……それに男達をどこかに行かせるためだったとは言え、『彼女』だなんて言ってしまって」
「い、いえ! 私は全然気にしていませんですので!」
それにナイジェルに『彼女』と言われた時、嬉しくなってしまった。
だってそうでしょう?
こんな素敵な男性にそんなことを言ってもらえたのですもの。嘘とはいえ、あれで嬉しくならない女性はいないですわ。
「それにしてもリンチギハムの治安も悪くなったものだ。早急に関係部署に連絡して、治安の強化に努めなければ……」
「あら、ナイジェル。仕事モードの顔になっていますわよ? 今はそんなこと、忘れましょう。それにあんな輩はどこにでもいますわ。私は気にしていませんので」
「そうかもしれないね」
と私はナイジェルと顔を見合って笑った。
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