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34・ドグラスはワガママだ

 ドグラス達とナイジェルの部屋に入ると、彼は私達を見て何故だか驚いた様子だった。


「そ、それは……?」


 ナイジェルの言葉に答えず、ドグラスがどさっとテーブルに本の山を置いた。


「ほらよ。か弱い女性にこのような重いものを持たせるな。紳士が聞いて呆れるぞ」


 そうドグラスが言うと、ナイジェルはドアの前にいるアビーさんに視線を移した。


「アビー……リンチギハムの近辺にいる魔物についての文献を、お願いしたと思うんだけど……?」

「は、はいっ! 魔物についてですよね? ナイジェル様がそう言うのだから、魔物が国に与える諸影響についても調べると思いました。そう考えたら、どんどん持ってくる本が多くなりまして……」


 アビーさんが頭を下げる。

 どうやらこれだけの量になることは、ナイジェルの想定範囲外だったらしい。

 この口ぶりだと、せいぜい二・三冊だと思っていたっぽい。


「アビー、頭を上げておくれ」


 ナイジェルが口にすると、アビーさんはおもむろに顔を上げた。


「すまない。アビーはそういう子だったね。僕の考えを先読みして行動してくれる。持ってくる本がこれだけの量になることは、容易に想像出来た。気遣いが出来なくて申し訳ない」

「や、止めてください! ナイジェル様に謝られると、私……どうしていいか分からなくなってしまいますよ!」


 あたふたとアビーさんが慌てている。


 ふむ……ナイジェルもこれだけ反省しているようだし、説教しようと思ったが気が削がれましたわね。

 なにはともあれ一件落着?


「そしてドグラス。客人なのに、このような仕事をやらせて申し訳なかった。そしてアビーを助けてくれてありがとう」

「これくらい運動にもならん。それにエリアーヌも、なにやら汝の部屋に来たがっていたからな。ついでだ」

「わ、私!?」


 急に話を振られて、私は変な声が口から出てしまう。


「エリアーヌが……?」

「ド、ドグラス! 私がいつそんなことを言いました!?」

「なんだ、会いたくなかったのか?」

「そうは言っていません!」


 私はドグラスを叱るが、彼は「なにが悪かったのだ?」ときょとんとしていた。


「くくく。エリアーヌよ。今の汝は顔が真っ赤だぞ? 熱でもあるのか?」

「!!」


 そう言われて、私は後ろを振り向いて自分の両頬に手を当てた。


 ほっぺたが熱くなっている。

 鏡を使わなくても、今の私はとてもナイジェルには見せられない顔になっていることが想像出来た。


「はは、賑やかだね。君はドグラスと本当に仲が良いね」


 ナイジェルは微笑ましそうに私達を見ていた。


 どうして私、ナイジェルのことになるとこんなに冷静さを失ってしまうんだろう。

 ドグラスの減らず口なんて、適当に受け流せばよかったのに。


「エリアーヌ。さっきのはドグラスの冗談だと分かっているけど……それでも、もし君がそう思ってくれているなら嬉しい。君さえよければ、いつでも僕の部屋に来てもいいんだよ?」

「そ、そんな恐れ多いっ!」


 ナイジェルは気軽そうに言うが、彼はこの国の王子。

 私だって、王国にいる頃はクロード王子の婚約者だったけど……彼とはなにもかもが違う。

 その証拠にこの胸の高鳴りは、クロードの前だったら一度も経験したことのないものであった。


「で、では今日のところは失礼させていただきます。ドグラスも行きますわよ!」

「うむ、そうだな。今日のところはこれくらいで勘弁してやろうか」


 これ以上ここにいると、またドグラスがなにを言い出すか分からない。


 私は彼の首根っこをつかみ、無理矢理部屋から出て行った。



 ◆ ◆



「さっきのあれはなんのつもりですか!?」


 ナイジェルの部屋から退散して。

 私は周りに人がいないことを確認してから、強い語調でドグラスにそう問い詰めた。


「なんのつもりだと? なにを言う。ナイジェルは我の発言を『冗談』と決めつけていたが、必ずしもそうではないぞ」

「というと……?」

「汝は確かにナイジェルに会いたがっていた」


 ドグラスが断定する。


「い、一体なにを見てそう思うんですか?」

「会いたくなかったのか?」

「い、いえ……だからそうではありませんが……でもああいう言い方をすれば、ナイジェルが変な勘違いをしてしまうでしょうし、それは私の本意ではないと言いますか……」


 つい言葉もたどたどしくなってしまう。


 それを見て、ドグラスは「ははーん」と顎を手で撫でて、


「やはりな。エリアーヌ、汝はナイジェルのことが好きだな?」


 とんでもないことを口にしたのだ。


「は、はい!?」


 すぐに詰め寄り否定しようとするが。


「分かる、分かるぞ。汝の考えがな」

「す、好きというのは『人間』としてですわよね? それだったら、確かにナイジェルのことは好ましく思っていますが……」

たわけたことを言うな。もちろん男女の仲としてだ」


 ああ、目がくらくらしてきた!


 今日はドグラスにペースを持っていかれがちですわね……。

 念話している時は、こんなヤツだとは思っていなかった。


「……一体あなたはそんな知識、どこから得たんですか」

「汝からだ。汝がよく、念話で好きな恋愛小説とやらを聞かせてくれたではないか。あれは面白かったぞ」


 そういえばそうだった……。


 ドラゴンと共通の話題があるはずもなく、自分の好きな恋愛小説を語ったこともあるのだ。

 好きなものを他人に語るというのは、どうしてあんなに気持ちのいいものなのだろうか。


「まあ良いではないか。汝は今まで不運な人生を送ってきたからな。そろそろ男の一人や二人と、本気で恋をしてみてもいいと思うぞ。汝の聞かせてくれた恋愛小説もそうであったからな」

「たとえそうだとしても、相手は王子様なんですわよ? 聖女の名を剥奪された私では……」

「とにかく」


 ドグラスは私の話を遮って、にやりと愉快そうに口角を上げる。


「乗りかかった船だ。我が汝の恋のキューピット……もとい恋のドラゴンになってやる」

「は、はあ!? そんなこと、誰が頼みましたか!」

「くくく。我も退屈しているのだ。少しくらい楽しんでも罰は当たらないだろう?」


 必死にドグラスを止めるが、彼はにやにやと笑みを浮かべているのみである。


 こいつ……っ!

 ただ面白そうだから言っているだけですわね。


「はあ……」


 いつの間にか私は溜息を吐いてしまっていた。


 こういうのは無理に止めても、余計に酷くなってしまう。

 それに私がどれだけ言っても、こいつは自分の思うがままに行動するだろう。

 元来、ドラゴンというのはそういうワガママな存在なのだ。


「別にあなたの好きにすればいいですが……ただし! ナイジェルの迷惑になることは止めてくださいね! それが絶対条件です」

「無論だ」


 ドグラスの謎の自信満々な顔を見て、私は再び重い溜息を吐くのであった。

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