表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/306

33・ドラゴンとフェンリルが仲良しになりました

 ドラゴンことドグラスは、ひとまず私達と同じく王宮で暮らすことになった。

 ナイジェルが国王陛下に相談すると、後日ドグラスのお家も用意してくれるらしい。

 しかし急なことでもあるので、一時的に王宮で預かる……という形で落ち着いたみたいだ。


 そのことに対してドグラスは、


「我はどこでもよいぞ。贅沢を言うなら、人の姿のままというのも疲れるのでたまには元の姿……おいおい、エリアーヌ。そう睨むな。冗談だ。この街にいる間は、人の姿のままでいる。だからその手に持っているフライパンを下げろ」


 と快く(?)納得してくれた。


「まさかあの時のドラゴンと、一緒に暮らすことになるとは思いませんでしたわ……」


 中庭に続く廊下を歩きながら、私はそう溜息を吐いた。


「ドグラスも余計なことをしなければいいけど」

「誰が余計なことをするのだ?」


 突如、後ろから声をかけられ「きゃっ!」と悲鳴を上げてしまう。


「ドグラス! 驚かさないでください!」

「驚かせる? そんなつもりはなかったのだがな。ただエリアーヌの反応が見たかったから、気配を消して近付いてみた」


 とドグラスは快活に笑った。


 もう……っ! 

 悪戯好きなんだから!


「どこに行くつもりだったのだ?」

「ペットのフェンリルにご飯をあげに行く途中でした」

「なぬ、フェンリルだと? フェンリルといえば魔物でありながら、神獣の一つに数えられる存在ではないか。人間はそんなものまで従魔じゅうまにするのか」

「従魔ではありません、ペットです」

「どう違うのだ?」


 ドグラスは首をかしげた。


「よければあなたも一緒に来ますか?」

「おお、それは良い考えではないか。フェンリルといえば、高潔な種族とも聞く。我と気が合うかもしれぬからな」


 見るからにドグラスの機嫌が良くなった。


 ドラグスを一人(ただしくは一()という呼び方は変なんだけど、ややこしいからこう数えることにした)にさせておくのも不安だから、手元に置いておこう。

 いつの間にかドグラスの保護者みたいになってますわね……私。


 頭に鈍い痛みを感じながら、私達は中庭まで移動する。


『おお、エリアーヌ。来てくれたか。今日も黄金の木片を——』


 ラルフちゃんが私を見て、尻尾を振りながら近付いてこようとした瞬間であった。


『ど、どうして()()()()がこんなところにいる!?』


 ラルフちゃんは立ち止まり、ドグラスにそう言った。


「ラルフちゃん。この方がドラゴンだということが分かるのですか?」

『分かるに決まっているだろう! ドラゴンといえば、他の者達とは比べものにならない神聖な魔力を保有しておる。たとえ人の姿に化けて、ラルフを騙そうとしてもそうはいかん!』


 ラルフちゃんが「ぐるる……」と威嚇しても、ドグラスは余裕げに笑みを浮かべているだけだった。


「はっはは。なかなか好戦的なフェンリルではないか。気に入ったぞ。汝よ、我の遊び相手となるがいい」

『誰がなるか!』


 警戒心を解かないラルフちゃん。

 だけど私は黄金の木片……もとい鰹節をドグラスに持たせる。


「ほら、ドグラス。ラルフちゃんと仲良くしてあげてください」

「これは……?」

「ラルフちゃんはそれが大好物なのです。親愛の証としてそれをプレゼントするのです」

「こんなしょうもないプレゼントで、フェンリルほどの存在が懐くとは思えぬが」


 鰹節をまじまじと見つめるドグラスは戸惑ったご様子。


『そうだ! 高潔な種族であるフェンリルは、黄金の木片ごときでは懐かぬ。今すぐそれを持って、立ち去るがよい!』


 ラルフちゃんが相変わらず「ぐるる……」と敵意を飛ばしている。


 だけど私は見てしまった。

 鰹節を見たラルフちゃんが、尻尾を嬉しそうに左右に振っていたのを。


「ドグラス」

「なんだ?」

「その鰹節を遠くに投げてみなさい」

「ん? こうか?」


 ドグラスが軽く下手投げで、鰹節を放ろうとする。


 だが。



 ぴゅーん。



 そんな音を立てて鰹節が上空高くに舞い上がった。

 そのまま鰹節が高く上がりすぎて、見えなくなってしまう。


「わおーん!」


 ラルフちゃんが遠吠えを発した。


 やがて鰹節がゆっくり降下していき、ラルフちゃんの目の前に落下しようとした。


 しかしラルフちゃんもさすがはフェンリル。

 鰹節が地面に落ちるよりも早く、素早い身のこなしでそれを口でキャッチしたのだ。


『ふむふむ。なかなか面白いことをしてくれるではないか。気に入った。そなたをラルフの鰹節係に任命してやろう』


 なにくわぬ顔でラルフちゃんは鰹節をかじかじした。

 意外にちょろかった。


 そんなことよりも……。


「ドグラス! なにもそんなに高く放り投げなくてもいいじゃないですか!」

「はっはっは、すまぬすまぬ。力の加減が分からぬのだ。我は軽く放ったつもりだったんだがな?」


 注意するが、ドグラスは全く反省の色を見せていなかった。



 それから私達はしばらく、ラルフちゃんと一緒にまったり日向ぼっこをしていたが……。



「ん……あれはアビーさん?」


 建物と建物を繋ぐ渡り廊下。

 メイドのアビーさんが、何冊も本を抱えてその廊下を歩いているのを発見した。


「でもとても重そうですわね……」


 その証拠に、何冊も積み重ねられた本がぐらぐらしている。

 心配だ。


「ドグラス、行きますわよ」

「うむ。またな、フェンリルよ」

『また鰹節を持ってくるがいい』


 私達はラルフちゃんに手を振り、アビーさんの元に小走りで駆け寄った。


「アビーさん、なにをしているんですか?」

「ん……この声はエリアーヌ様ですか?」


 アビーさんは重そうに抱えた本のせいで、どうやら前がよく見えないらしい。


「はい。エリアーヌです」

「悪いですが、今はあまり喋りかけないでくれますか? この本をナイジェル様にお持ちする必要があるのですが、喋る余裕がなくって……」


 アビーさんの言う通り、こうして立ち止まっているだけでも相当辛そうだ。


「お手伝いしますよ。何冊か私も持ちます」

「いえいえ、客人にそんなことをさせるわけには……」


 そうは言うものの、こんなものを見てしまっては見過ごせるわけがない。


 アビーさんから本を何冊か受け取り、一緒に運ぼうとすると……。


「なんだ、まどろっこしい。このようなもの、我一人でも抱えられるぞ?」


 ひょいっとドグラスが私の隣から、アビーさんの本を奪い取ってしまった。


 しかも片手……しかも人差し指でバランスよくたくさんの本を載せて!


 ぐらぐらしているが、不思議なことに本は崩れない。

 力もそうだけど、すごいバランス感覚だ。


「あ、ありがとうございます……」


 アビーさんは礼を言うが、ドグラスの力に唖然としている様子であった。


 まあそんな反応にもなりますよね。

 ドグラスがドラゴンであることは、アビーさんにはまだ知らされていないと思うし……。


「よし、行くぞ。ナイジェルというと昨日出会った男のことだな? 女にこのような重いものを持たせるとは、男の風上にも置けん。我がガツンと言ってやろう」


 そのままドグラスは歩き出そうとする。

 これだけのことをしているのに、全く重そうにしていない。さすがドラゴン。いくらおさえられているとはいえ、人間とは比べものにならない力を持っている。


「ド、ドグラス! ちょっと待ってください。私も一緒に行きます! アビーさんも!」

「は、はい!」


 そもそもドグラスだけじゃ、ナイジェルがどこにいるのかも分からないだろうに。

 やっぱりどこか抜けている。


 でもドグラスの言ったことには私も賛成だ。

 少しナイジェルにお説教してあげよう。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

シリーズ累計145万部御礼
Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1103
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000355043

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新7巻が発売中!
hev6jo2ce3m4aq8zfepv45hzc22d_b10_1d1_200_pfej.jpg

☆新作はじめました☆
「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ