301・怪しげなシキ
コミカライズ12巻、本日発売です!
翌日から。
私たちは同じように街に出て、赤影の情報を集めていましたが、結果は芳しいものではありません。
海哭蛸以上の情報が出てこないのです。
サネモリさんでも海哭蛸に埋め込まれていた魔石を調べてもらっていますが、やはりなにも進展はありませんでした。
アマツに来てから一週間ほどが経過していますし、次第に焦りが募っていきます。
「ですが、諦めるわけにはいきません。ナイジェルとドグラスに相談しに行きましょうか」
と私は部屋を出て、ナイジェルたちの部屋に向かいました。
ですが、ナイジェルとドグラスも──いません。
「どこに行ったんでしょうか?」
「──聖女様」
ナイジェルたちの部屋の前で首を傾げていると、廊下の向こうからサネモリさんが近寄ってきます。
「サネモリさん、ナイジェルとドグラスがどこにいるか、知りませんか?」
「いえ……私は存じていません。他の者に聞けば分かるかとは思いますが」
質問すると、サネモリさんは首を横に振ります。
「そうですか……」
「聖女様、捜査はいかがでしょうか?」
ナイジェルたちがどこに行ったのかを考えていると、サネモリさんがそう問いかけてきます。
「正直な話……あまり芳しくないですね。先日、ミツハちゃんと一緒に海哭蛸を倒して以来、有力な情報は得られていません。サネモリさんの方はいかがですか?」
「いえ、こちらも同じようなものです。海哭蛸から獲れた魔石を解析していますが、聖女様が言っていた以上のことは分からず、行き詰まっています。申し訳ございません」
サネモリさんの表情も、心なしか暗いように感じます。
「謝らないでください。サネモリさんも執政官の仕事の傍、お忙しいのは分かっていますので」
「そうおっしゃっていただけると、少しは気が楽になります」
「海哭蛸から獲れた魔石も大事ですが……神勾玉の方は、なにか見当が付きましたか?」
「いえ、そちらも全く見当が付かず……すみません」
「そうですか」
とサネモリさんは息を吐きます。
その様子は、とても落胆しているようでした。
「なんにせよ、聖女様しか頼れるお方はいないのです。信頼していますよ。シキとは違い……」
「シキとは違い?」
「はい、ここだけの話ですが、私はシキをあまり信頼していません。素性も知れない下賤の者だということもありながら、彼女はなにか隠しているような気がして──」
「──私がどうかしましたか?」
突然。
声が聞こえたかと思ってそちらに顔を向けると、そこには無表情で近付いてくるシキさんの姿がありました。
「シキ……っ!」
シキさんを見てサネモリさんが、鬱陶しそうに顔を歪めます。
「なんでもない。シキがミツハ姫の侍女になった経緯を、聖女様に説明していただけだ。特段、問題はないだろう?」
「はい、問題ありません。ですが、サネモリ様、エリアーヌ様と距離が近過ぎます。エリアーヌ様は、リンチギハムの王妃である身。こそこそと内緒話をして、変な噂を立てられても困るでしょう?」
「……言う通りだな」
諦めたように溜め息を吐き、サネモリさんは背を向けます。
「では、エリアーヌ様。私が先ほど言ったことを、どうかお忘れなく」
「わ、分かりました」
そのままサネモリさんは逃げるような早足で、その場を後にしていきました。
残されたのは、私とシキさんだけ。
「エリアーヌ様、大丈夫でしたか? サネモリに変なことをされていませんか?」
「は、はい。少しお話ししていただけですので」
「それはよかった」
そう胸に手を当てるシキさんはいつものシキさんで、特に不審な点は見当たりませんでした。
「あっ、そうです。シキさんは、ナイジェルとドグラスがどこに行ったか、知りませんか? 二人が部屋にいないんです」
「ああ、それでしたらお二人は兵の訓練所にいます。案内いたしましょうか?」
「でしたら、お願いします。ですが、訓練所? どうしてですか?」
「お二人は──」
シキさんから答えを聞き、私はいてもたってもいられなくなって、彼女の案内で訓練所に急ぐのでした。
◆ ◆
その頃、レティシアは……。
「「「「レティシア様! わたくしめと結婚してください!」」」」
魔王信教の支部。
そこで彼女は、信者の男たちに求婚されていた。
「わあ、キレイ! 嬉しいですぅ!」
膝を突き花束を掲げる男──魔王信教の信者たちに、レティシアはとびっきりの笑顔を向ける。
(どうして、こうなったのかしら……)
レティシアは考える。
エリアーヌたちの力になるため、単身で魔王信教の支部に乗り込んだ。
信者と偽り、そこにいた男たちに愛嬌を振り撒くレティシアに、誰も疑いを持っていなかったが……一つ、問題があった。
彼らの目から見て、あまりにもレティシアが魅力的な女性であり、支部中の男どもを虜にし過ぎてしまったことだ。
(程々でいいのに……今更、後戻りも出来ない。この状況をどう切り抜けるか……)
レティシアが思考している間にも、彼らは花束をぐいぐいっと前に突き出し、顔を上げようとしない。
「ありがとうございますぅ」
一転、レティシアは寂しげな表情を浮かべ。
「でも、ごめんなさい。みなさん、魅力的な男性ですけど……一人を選べません。誰を選んでも、誰かを悲しませてしまう結果になるから──」
「「「「レティシア様……」」」」
今にも折れてしまう花のようなレティシアの姿に、男たちはうっとりとした表情になる。
困ったように内股でくねくねと動くレティシアは、まさしく『守ってもらわなければ生きられない、弱い女の子』そのものだ。
──実際はここにいる男どもが束になっても敵わないくらい、なんなら上級魔族を前にしても後れを取らない、呪術士だというのに。
(忘れそうになってたけど、わたしってなかなか大した女優だったのね)
クロードと結ばれていなかったら、舞台女優にでもなっていたのかしら──頭の片隅でそんなIFストーリーを想像した。
(だけど、肝心の情報はろくに手に入らないし……アテが外れたかしら。ここは支部だし、大事な情報はない? ないならないで、さっさと退散するのも……)
と、レティシアが考え始めた時であった。
「あっ、そうそう。レティシア様」
男の一人がふと、そう声を発する。
「どうしましたか?」
「実は、レティシア様のお耳に入れたい情報が……」
ごにょごにょと、レティシアの耳元で囁く男。
それを聞き、レティシアは思わず驚きで目を見開くのであった。
おかげさまで、松もくば先生によるコミカライズ12巻が本日発売となりました。
小説と併せまして、お楽しみいただけますと幸いです!





