表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

312/315

290・聖女のやるべきこと

「エリアーヌ、ナイジェル……! よくぞ、やってくれた。お主らの働きのおかげで、街の被害も最小限と聞いておる」


 城に戻ると。

 最初に通された大部屋で、ミツハちゃんが私たちに労いの言葉をかけました。


「シキもよくやった。褒めてつかわす」

「……大したことはしていませんよ」


 彼女の右隣には、先ほどの侍女──シキさんが。

 左隣には執政官のサネモリさんもいます。後処理に動き回っていたのでしょうか、彼の顔には濃く疲労の色が浮かんでいました。


「あの……シキさんは侍女だと聞きました。本当ですか?」

「本当じゃ。特に余の世話をしてもらっている」


 早速問いかけると、ミツハちゃんはすぐに首を縦に振ります。


「そうだったんですね。ですが、侍女にしては強すぎるんじゃないかと思って──」

「詳しくは私から説明いたしましょうか」


 サネモリさんが一歩前に出て、ミツハちゃんの代わりに答えます。


「シキは、記憶喪失なんですよ」

「記憶喪失?」

「はい。元々はその強さを見込んで、城の兵になってもらう予定でしたが……本人の希望と先代姫様の意向もあって、姫の侍女をしてもらっています」

「希望? 不思議なことを言う。あれほど強いのだ。どうしてシキとやらは、己の強さを活かそうとしない」


 ドグラスがそう言うのは珍しいこと。

 なにせ、ドグラスが相手の強さを認めることは、滅多にないのですから。

 それほど赤影での戦いで神速の剣を振るうシキさんに、興味が出たのでしょう。


 ドグラスの質問に、シキさんは少し迷う素ぶりを見せてから、


「私は……戦ってはいけないんです」


 と囁くように言いました。


「理由は分かりません。ですが……私が本気を出せば、とんでもないことが起こる。理屈はありません。ただ、それだけが分かるんです」

「ふむ……? 不思議な話だね。君が失ってしまった記憶に、なにか秘密が隠されているのかもしれないね」


 シキさんの話を聞き、ナイジェルも不可解そうな表情を作ります。


「まあ、すぐに記憶喪失が戻るとも思えないし、今は街で見た赤影について話そうか。赤影は──」


 気を取り直して、ナイジェルが語り始めます。


 赤影は剣や槍で攻撃すれば、形を保てなくなり、赤い煙を出しながら消滅する。

 だけど、赤影にはエリアーヌ(私)の力が通じない。赤影によって負った傷もエリアーヌ(私)の治癒魔法で治りにくく、多量に魔力を消費する。

 原因は不明で、今すぐには特定出来ない──と。


「……ということなんだ。だから仮にこの島全体に結界魔法を張っても、赤影を防げないかもしれない」

「とはいえ、治癒魔法も魔力を多量に含めば、効き目がありましたけれどね。結界も同様かもしれませんが……あまり頼りすぎるのも、危険だと思います」

「そ、そうじゃったのか……」


 ミツハちゃんの顔が、僅かな落胆の色を帯びます。


 いえ──彼女だけではありません。

 サネモリさん、そして彼女の傍に控えている兵のみんなも、一様に肩を落とします。

 顔色を一切変えないのは、シキさんくらいでしょうか。


「ならば、やはり神勾玉の正体を早急に探るべきでしょう」


 重苦しい空気が広がり始めていると、サネモリさんがこう口を動かします。


「うん、そうだね。サネモリもなにも知らないんだよね?」

「残念ながら……。神勾玉の所在は、フタバ様しか知りませんでした。執政官の──当時は大臣の一人ですが、私にも知らされなかったのです」

「はい、あなたの言う通りです。神勾玉の捜索をやめるわけにはいきません」


 サネモリさんが答えると、ミツハちゃんは暗い表情をして俯きます。


 ミツハちゃんがフタバさんから神勾玉の所在を聞いていれば、このような事態を招かなかったのかもしれない。

 そう罪悪感を抱いているかもしれません。


 しかし、ミツハちゃんは勢いよく顔を上げ、縋るように私を見ます。


「頼む……! アマツはもう、お主らに頼るしかないのじゃ! 今回のことを解決してくれれば、アマツはリンチギハムと友好同盟を結ぶことを約束しよう。報酬としては不十分かもしれぬが……余らに差し出せるものは少ないのじゃ。じゃから……!」

「え? もう協力する気でいましたよ」


 懇願するミツハちゃんに、私はこう言います。


「リンチギハムには、『困っている人には手を差し伸べよ』という言葉もあります。この国を見捨てるわけにはいきません。ナイジェルとドグラスも、それでいいですよね?」

「うん、もちろんだ。世界平和実現のためにも、このままリンチギハムに帰るわけにはいかない」

「我もだ。街に出た赤影が全てではないのだろう? ならば敵が残っているのに逃げ帰るなど、我の流儀にも反する。汝らに手を貸してやろうではないか」


 二人も迷わずに首を縦に振ります。



「お、おお……! 断られてもおかしくはなかったのに、さすがは聖女様だ……!」

「お優しい……噂通りの方々だ」

「リンチギハムにとって、アマツという小国は取るに足らない存在だというのに……聖女様が力を貸してくれるなら、心強い」



 私たちの言ったことに、他の方々も次々と安堵の息を吐いていきます。


「ありがとう……! 余も、お主らの力になる。アマツの姫じゃからと遠慮する必要はないがゆえ、存分に余を使いっ走りにでもするがいい」

「私からも礼を言います。エリアーヌ様、ナイジェル陛下、ドグラス様、本当にありがとうございます」


 ミツハちゃんとサネモリさんも表情を明るくします。


 赤影──まだ謎は多い。

 ですが、これも世界平和実現のための一歩。そう簡単に実現出来るほど、簡単な目標ではないと思っていますから。

 必ず、この国に降りかかっている災いを解決してみせます。


 新たな戦いの始まりに、私は強く決意しました。

 



 ◆ ◆



 夜。

 その人間は一人、夜空を見上げていた。


「神勾玉……神勾玉はどこにある。あの忌まわしき、あの神器」


 静かな夜だった。

 日中の騒ぎが嘘のように静まり返っている。



 ──魔王は死に、世界には平和が訪れた。



 世界中の人々は穏やかな日々を享受し、明日への希望に胸を膨らませる。


 だが、人々は知らない。

 今はまだ、束の間の平和なのだと。

 アマツの地に赤影が現れたのが、その証拠だ。赤影の脅威はやがて、世界中に牙を剥き、平和に終焉をもたらす。


「魔王という災いの()は失敗した。だが、私は同じ轍は踏まない。聖女の力は、私への対抗策にはなり得ないのだから」


 そう呟き、その場から立ち去る。



「そのための真の聖女だ。聖女よ、せいぜい私の掌の上で踊るがいい。貴様がどれだけ足掻こうとも、この世界は滅びの運命から逃れられないのだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

シリーズ累計145万部御礼
Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1103
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000355043

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新7巻が発売中!
hev6jo2ce3m4aq8zfepv45hzc22d_b10_1d1_200_pfej.jpg

☆新作はじめました☆
「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ