284・東方の小さな島国
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「リンチギハムから東方にある、小さな島国です。人口はリンチギハム王都と同じくらい。独自の文化圏を築いているため、他方ではなかなか見られないような建物や服も、たくさんあるんですよ」
そのおかげで、アマツは観光客も多い。
今まで訪れたことはなく、一度は行ってみたいと思っていましたが……まさか、こんな形で機会が訪れるとは。
「特に料理は絶品が多いと言われています。冷やし素麺や梅干しは覚えていますか? あれも、元々はアマツの食べ物です」
「おお、素麺か。確か、精霊王のいる村でエリアーヌが作ってくれたな」
「梅干しっていうと、あの赤くてすっぱい実だよね? 昔、ベルカイムに行く時にエリアーヌがおにぎりの中に入れてくれたけど、美味しかったなあ」
ドグラスとナイジェルが、そう口々に言います。
東方の島国アマツ。
リンチギハムにいる誰もが、一度は耳にしたことがあるであろう国。
そんなアマツにはもう一つの特徴があります。
それは……。
「アマツは、私の結界を拒んだ国です」
元々、私はベルカイムの街や村々──追放されてからリンチギハムにしか、結界を張っていませんでした。
ですが、私は『始まりの聖女』の力に触れることによって、世界中の街や村々に結界を張れるようになります。
私の結界には、魔物や悪しき者を遠ざける効果があります。
なので、ほとんどの国は私の結界の庇護に入ることを良しとしましたが……中には拒むところも。
アマツはそんな国の一つです。
「どうして、拒んだのだ? タダで結界を張ってもらえるなら、拒む必要はないと思うが」
「いくらタダって言っても、あっちはそう受け取らない可能性もある。リンチギハムに借りを作りたくないって思っても、しょうがないよ」
ドグラスの質問に、ナイジェルが肩をすくめて答えます。
「その通りです。ですが、アマツには別の理由があって……」
「別の理由?」
「アマツには代々、『神勾玉』と呼ばれる神器があるのです。神勾玉の力で悪しき者を祓っているので、私の結界は必要ないというわけです」
それが、アマツが聖女の結界を拒んだ理由。
神勾玉がなんなのか、私にもよく分かっていません。
かつてのベルカイムほどではありませんが、アマツも秘密を抱えているということでしょう。
ただでさえ、神勾玉はアマツの心臓部分と言っても過言ではないですから。
どのような形状をしているのかは知りませんが、あまり他国に情報を渡したくないと考えるのは至極当然の話でしょう。
「うむ……神勾玉か。我も聞いたことがない代物だな。だが、どうしてそれがアマツに向かう理由になる? 観光でもするつもりか?」
「アマツの女王……ミツハ姫から、信書を受け取ってね。『アマツに重大な問題が発生した。早急にリンチギハムに相談したい』──ってね」
と説明するナイジェル。
「女王……? 姫? アマツの王は女なのか。珍しいな」
「うん。男が王を務めている国が大半だからね。でも、アマツという国は代々、女性が王を務めているんだ。だからアマツでは、王は『姫』と呼ばれている」
「それだけではありませんよ。ミツハ姫はなんと……今年、十歳を迎えたばかりなんです」
「じゅ、十歳!? まだ子どもではないか!」
私の言葉に、目を見開くドグラス。
ドグラスが驚くのも、無理はありません。
王としてはかなり若いナイジェルでも、成人を超えています。
他国ではもっと歳を重ねてから王位を継ぐケースがほとんどですし、十歳という若さは破格です。
しかし。
「さすがに十歳の女の子が、政治の全てを握っているわけじゃなさそうだけどね。アマツの王……ミツハ姫の近くには執政官がいて、普段は彼が政務をこなしているらしい。もっとも、ミツハ姫が最終決断を下す立場であることには変わりないけど」
「う、うむ、それならいけるのか? だが、いくら十歳とはいえ情けない。王になったというなら、自分一人で全て決める覚悟を持たなければならないというのに」
「その辺りは、アマツの事情かな。僕たちが口を挟む問題でもない」
「それもそうだが……」
まだ、腑に落ちなさそうなドグラス。
ですが、「まあいい」と首を横に振り。
「そんなことよりも、今まで結界を拒んでいたというのに、いざ問題があったら我らを頼るのか? 図々しいと思わぬのか」
「あなたの意見は否定しません。ですが、ドグラス。リンチギハム──私たちには大きな目標があることを、お忘れですか?」
「確か……世界平和だったか?」
「正解です」
そう頷きます。
魔王との戦いによって、世界平和という目標をより強く意識したナイジェル。
そんなナイジェルが玉座に座り、一番最初に宣言したのが『世界平和の実現』でした。
魔王は力による世界平和を実現しようとしていましたが、私たちは違います。
みんなで手を取り合い、共に歩んでいくような世界平和です。
その道のりは果てしなく険しいものになりますが、だからといって最初から臆していては話になりません。
「世界平和を実現するためには、困っている国には手を差し伸べる。今回は、アマツがそうだっただけさ」
「そうです。一度私の結界を拒んだとしても、それがアマツを助けない理由にはなりません」
「相変わらず、汝ら夫婦はお人よしだな。まあ、そういうところが我の気に入ったところではあるが」
そう言って、ドグラスはニカッと笑います。
「分かった。そう言うなら、もう文句は言わぬよ。我も汝らが目指した先が、どんな世界か興味があるしな」
「ありがとうございます」
私は礼を言います。
……ここ一年はほとんど国内のことだけに注力して、他国に目を向ける余裕はありませんでしたが、とうとう本格的に歩み始めるのです。
一体、アマツの街並みはどのようなものでしょうか?
まだ見ぬアマツの光景に胸躍らせながら、私たちは大海原を船で駆けていくのでした。





