真の聖女である私はトレジャーハンターになりました4
「オレらは、泣く子も黙る『ドクラッシュ団』だ! 命が惜しければ、抵抗せずに水と食料を渡しな!」
突如やってきた船の甲板で、一人の男がそう叫びます。
歳は四十代くらい。立派な口髭を蓄えた、ダンディーな男性です。
……と、そんなことを言っている場合ではないというのは、分かっているつもりですが。
「海賊かあ。そういうこともあるかと思ってたけど……まさか、本当に出会すだなんてね」
「セシリー、海賊、初めて見たの! カッコいいの!」
ナイジェルとセシリーちゃんの天然兄妹は、どこか緊張感がなく、迫り来る海賊団をぼーっと眺めていました。
こうしている間にも、海賊──ドクラッシュ団は私たちの船に接近し、そのまま船上に乗り込んできます。
「おい……てめえら、どうして逃げようとしねえんだ?」
「まあ……今までの敵を思ったら、海賊くらい、恐るるに足らずといいますか」
「今までの敵? 訳の分からねえことを言うな。美人のお姉ちゃん」
そう言って、ドクラッシュ団の船長らしき男性は、手に持った棍棒を掲げます。
「オレたちの望みは水と食料だ。さっさと持ってきやがれ。言っとくが、抵抗するんじゃねえぞ? オレだって、無闇にお前らを傷つけたくない」
「心にもないことを言うな。どうせ水と食料を渡しても、我らをタダで帰すつもりはないのだろう?」
嘆息するドグラス。
「ほ、本当だ! ただでさえ、この船には子ども二人……? が乗ってんだろ。子どもには手を上げたくねえよ」
子ども……セシリーちゃんとフィリップのことでしょうか?
もっとも、フィリップは精霊王で、私なんかより何倍も長く生きているんですが。
「船長! こいつら、やっちまおうぜ! このままじゃ、オレらが餓死しちまう!」
「ま、待て。暴力はいけないこと──」
船長らしき男性が制止するよりも早く。
ドクラッシュ団の船員の一人が前に出て、棍棒を振います。
──距離的には論外。
そこで振るっても、私たちに届くはずがありません。
ですが、振るった棍棒はするりと彼の手からすっぽ抜け、私目掛けて飛んできました。
「エリアーヌ!」
すかさず、ナイジェルが私の前に躍り出ようとします。
ですが、それを視線で制して、棍棒が私に直撃──。
──することもなく、棍棒は私に当たる直前で、まるで見えない壁に当たったかのように床に落ちていきました。
「はあ?」
目を丸くするドクラッシュ団の方々。
……そもそも海賊が現れたと知った瞬間から、ここにいるみなさんの周りに結界を張らせてもらいました。
その中には当然私も。
聖女である私の結界は、魔族の侵攻すらも食い止めます。
無論、世界中の村々に張っている結界と比べると、薄い結界ではありますが──賊の手からすっぽ抜けた棍棒くらいなら、容易に防げます。
「エリアーヌ、もう気が済んだだろ? こやつら、話をしてくれる気がないぞ。まずは制圧だ!」
「な、なんで、こいつら……全く怯まな──ぐはあっ!」
まるで疾風のごとく、ドグラスがドクラッシュ団の男性の後ろに回り込み、そのまま地面に叩きつけます。
「ガハハ! トレジャーハンターらしくなってきたな! 釣りにも飽きてきた頃だったのだ!」
……はあ。
こうなると分かっていたから、話し合いで解決しようと思っていたのに……。
もう誰にもドグラスを止められません。
それが開戦の合図だったのでしょう。フィリップとレティシアも、ドグラスに加勢します。
「な、なんだ、この子ども!? 子どものくせに魔法を使えるんのか!?」
「子どもだというのは失礼だな。こう見えて、俺は君たちより歳上だ」
フィリップは雷魔法で、ドクラッシュ団の乗組員たちを次から次へと無力化していきます。
「ほらほら、これ以上近付いたら呪うわよ? わたし、実は魔族なの」
「う、うわあああああ! お終いだ! なんだよ、あの女の周りにある黒いオーラは! 本当に魔族なのか!?」
レティシアが体の周りから呪いを奔流させ、ハッタリで彼らの戦意を削いでいきます。
「あ、あ、あ……」
あまりに一方的な状況に、船長らしき男性はまともに指示も出せず、その場で腰を抜かしてしまいました。
「どうしますか? これ以上戦っても、あなたたちでは私たちに勝てませんよ。まだ頑張るおつもりで?」
こうなったのを見計らい、私の彼の前まで歩み寄り、そう問いかけます。
彼はわなわなと震えた声で、
「こ、降参します……」
と敗北を宣言したのでした。





