真の聖女である私はトレジャーハンターになりました3
──真の聖女である私はトレジャーハンターになりました。
というわけで、私とナイジェル、フィリップ、ドグラスとセシリーちゃん。クロードとレティシアの七人は船に乗り、伝説のお宝 (があるらしい)島に向かっていました。
なにが待ち受けているかも分からない、危険な旅ですが──。
「いい天気ですね」
甲板に上がり、私はフィリップに話しかけます。
見渡す限りの海──そして青空。
頬を撫でる海風が気持ちいいです。
冒険が始めっても緊張感がなく、船内にはのどかな空気が流れていました。
「そうだな」
頷くフィリップ。
「こういう時でなければ、もっと楽しめていたものを。これだけの大きい船に、たった七人の乗組員。常に気を張っていなければ、なにが起こるか分から──ふわぁ」
喋っている途中に、突然、欠伸をするフィリップ。
「もしかして、お疲れですか?」
「ん……ああ。昨日まで、精霊の村では『鎮魂祭』だったんだ。俺も精霊王として、その準備と後片付けに追われていた」
「鎮魂祭?」
聞き慣れない単語が聞こえて、私は首を傾げます。
「死者の魂を弔う、精霊たちの祭りだ。この祭りが開かれている間は、各々奏でる音楽に身を委ねながら、死者たちへの思いを馳せることになる」
「なんてこと……そんな大変な行事の後なのに、今回の旅に誘ってすみません」
「いや、構わない。そもそも鎮魂祭も君が想像しているものより、厳粛なものじゃないしな。死者の魂を弔う……という大目的はあるものの、子ども精霊の中にはそんなことも忘れ、踊りに興じている者も多い」
とフィリップは肩をすくめます。
「どうして、音楽や踊りなのでしょうか? 死者の魂を弔うというのは、尊いもの。決して、精霊たちの行いを否定するわけではありませんが──もっと静かな気持ちで、祈りを捧げるのが一般的なのでは?」
「死者の声が、音楽によって届くと言い伝えられているんだ。昔はそのための楽器──神器もあったようだが、今となっては残っていない。とはいえ、そんな神器が本当にあったのかも謎だし──」
フィリップは私の顔を真っ直ぐと見つめ。
「どのような手段を取っても、死者が蘇るわけではない。人も精霊も一度死ねば、二度と生き返らない」
「そう……ですね」
私は聖女として、破格の力を有しています。
そうでなくても、今まで出会ってきた敵──上級魔族や魔王、《白の蛇》も人智を超えた力を持っていました。
だけど、それでも──死者を蘇らせることは絶対に出来ません。
だからこそ、私たちは命を尊いものと考え、簡単に捨ててはいけないと考えているわけですが。
精霊たちの鎮魂祭も、生命と再び向き合い、明日を活きる活力にするためのものかもしれませんね。
「フィリップ、重ね重ね、ありがとうございます。そんな大切なことがあったというのに、私たちに付いてきてくれて──」
「おい、エリアーヌ! これを見ろ!」
フィリップの感謝を述べようとすると、向こうの方からドグラスとセシリーちゃんが駆け寄ってきました。
彼らの手には釣り竿と──大きな魚が。
「なかなかの大物だぞ! これで今日の飯には心配ない!」
「セシリーも手伝ったの! ドグラスを支えてあげてたの!」
楽しそうなドグラスとセシリーちゃん。
……お宝の島まで辿り着くまで暇というわけで、ドグラスとセシリーちゃんには釣りをしていたのです。
「船長」
ドグラスとセシリーちゃんの後ろから、お次はナイジェルがゆったりとした足取りでやってきました。
「ナイジェル、あなたはなにをしていたのですか?」
「書類仕事を……ね。こうしている間にも、仕事は待ってくれないから」
「おお、ナイジェル。こんな時にも仕事か? 今の我らはトレジャーハンターだ。オンとオフを切り替えられぬ男はモテぬぞ」
「ははっ、その通りかもしれないね」
ドグラスの言ったことに、ナイジェルはくすくすと笑います。
「ドグラス、ナイジェルも大変なんです。そんなことを言ってはいけませんよ」
と私はドグラスを嗜めて。
「ナイジェル、お疲れ様です。ですが……今、私のことを船長といいましたか?」
「エリアーヌは、この『真のトレジャーハンター団』の船長だろ? 特段、変な呼び方でもないと思うけど」
「船長になったことには、あまり納得していないんですが……」
それにやはり、こういった役目はナイジェルの方が向いています。
フィリップも精霊の王ですし、クロードもベルカイムの第一王子。私以外にも船長に向いている人は、たくさんいそうな気がしますが。
「むむむ」
クロードとレティシアはなにをしているんでしょう──と視線を彷徨わせていると、クロードは船の端で望遠鏡から海を覗いていました。
「どうしたのよ」
難しそうな表情をしているクロードに、レティシアが問いを投げかけます。
「いや、向こうの方にぽつりと黒い点のようなものが見えると思ってな。最初はレンズに付いたゴミだと思っていたが、どんどんと点は大きくなっていって……」
黒い点……?
一体、なんでしょうか。
ここは海のど真ん中。
魚だったらすぐに気付くでしょうし、海の上に人がいるわけがありません。
だとするなら、私たちと同じ──。
「……っ! エリアーヌ!」
私が結論に辿り着くよりも先に、ナイジェルが私を抱えて、体勢を低くします。
次の瞬間でした。
ドーーーン……っ!
大きな音が立ったかと思うと、私たちが乗っている船の近くになにかが被弾したのです。
バシャーンッ! と海水が波打ち、船が大きく揺れます。
「なんだ!?」
フィリップも表情にも緊張がこもります。
やがて、望遠鏡を覗かなくても分かるくらいに黒い点は大きくなり、ようやくその全貌が顕となりました。
「ほお……海賊か。トレジャーハンターの冒険には、付きものではあるな」
ドグラスが好戦的に笑います。
私たちの前に突如現れた船は、私たちが乗っているものとほぼ同じ大きさ。
側面に取り付けられた大砲は、存在感を放っています。
そして──帆柱の頂に掲げられた旗には、不気味な髑髏のマークが描かれていました。





