真の聖女である私はトレジャーハンターになりました2
「まさか、今頃見つかるだなんて……」
掃除を終えて。
宝物庫で見つけた宝の地図をナイジェルに見せると、彼は驚きで目を見開きました。
「なにか知っているんですか?」
「うん」
頷くナイジェル。
「これはリンチギハム王家に、代々伝わる宝の地図なんだ。まあ、僕は話に聞いていただけなんだけどね。なくしてしまったと聞いたけど、宝物庫の奥に眠っていたということか」
「王城の管理も行き届いておらぬな」
「耳が痛い話だね」
腕を組んで、ドグラスはそう口にすると、ナイジェルは苦笑で応えました。
「まあまあ、この際、いいじゃないですか。今はこの宝の地図です。もしかして、本当に『×』印のところに宝があるんじゃ……」
「さあ……分からないね。かなり昔からあるものだと聞いていたし、もう他の人が取ってるかもしれないよ。でも──」
ナイジェルの表情が一転、真剣味を帯びてこう答えます。
「王家には代々、こう伝わっている。このお宝を手にしたものは、どんな願い事も一つだけ叶えられるって」
「なんだと?」
今まで興味なさげに話を聞いていたドグラスが、目を細めます。
「そんなものが本当にあるのか」
「分からない。だけど全くの出鱈目なら、こうして僕たちの世代まで語り継がれていないんじゃないかな?」
ナイジェルは首を傾げます。
うーん……どんな願い事も一つ叶えられる、ですか。
どんな魔法でも、そんなことが可能になるとは思えません。
女神の代行者であり、聖女である私でも……です。
「それは面白いな」
ニヤリと笑うドグラス。
「金銀財宝なら興味がなかったが……なんでも願いが叶うと聞いたら、話は別だ。我らでそのお宝とやらを手に入れようではないか」
「私たちで……ですか?」
「そうだ。エリアーヌだって気になるだろう? それに、なんでも願いが叶うものが本当にあったとするなら、争いの火種にもなる。我々で保管するのが得策だと思うが?」
とドグラスは目を輝かせます。
彼の言うことにも一理ありますが……。
「ですが、この地図によると無人島にあります。そこまで、どうやって行けばいいんでしょうか?」
「我の背に乗って、そこまで飛んでいけばいいだけではないか」
「あ、あまり、あなたのお力は借りたくないんです。いつまでも、あなたに頼りっぱなしではいけないと思いますからね」
本当は高いところが怖いだけだとは、口が裂けても言えません。
「航海できるような船があれば別ですが……ナイジェル、そんなものはありませんよね?」
「え? あるよ」
ずこーっ!
即答すぎて、つい転けてしまいそうになりました。
「あ、あるんですか!?」
「うん。近くの港町に停泊させているんだ。僕とエリアーヌ、ドグラスが乗っても、まだ十分余裕があるくらいの大きな船が……ね。僕、なにか変なことを言ったかい?」
そうでした……。
ナイジェルはリンチギハムの第一王子。私たちを乗せる船の一つや二つくらい、持っていてもおかしくありません。
「決まりだな」
ドグラスが楽しそうに、指を鳴らします。
「その船に乗って、大海に乗り出そうではないか。そして我々で伝説のお宝を手にするのだ!」
「面白そうだね。僕も付き合うよ」
「ちょ、ちょっと、二人とも! 話が急すぎます!」
そう言いますが、二人はもう乗り気のよう。
今すぐ王城を飛び出して、お宝探しに出かけてしまいそうです。
「仕方がない……ですかね」
それに私だって、伝説のお宝に興味がないかと言われると嘘になります。
もし本当に願いが叶うとしたら……私はなにを望むのでしょうか?
お金持ちになること?
この世のあるとあらゆるものを手にする力?
……いいえ。私にはそんなもの、必要ありません。
ナイジェルとずっと一緒にいられれば、それで──。
ですが、それは今でも変わりません。
そんなことを願わなくても、ナイジェルは私の傍にずっといてくれると思っているから。
──そして、日を改めて。
私たちはリンチギハム王都近くの港町に行き、船に乗り込もうとしていました。
ですが……。
「セ、セシリーちゃん。本当にあなたも付いてくるんですか? 安全だとは限りませんよ」
「大丈夫なの!」
ナイジェルの妹──セシリーちゃんがにぱーっと笑います。
「にいにとエリアーヌのお姉ちゃんがいるから! 危ないことがあっても、にいにたちが守ってくれるの!」
「我もいるぞ」
不遜な態度で、隣からそう口を挟むドグラス。
当初は私たち三人だけで行こうとしましたが、セシリーちゃんがどこからか話を聞きつけ、こうして付いてくることになったのです。
セシリーちゃんがいると、周りがパッと明るくなったように感じます。
そして、お宝探しの同伴者は彼女だけではなく……。
「フィリップもすまないね。伝説のお宝は、僕が生まれるよりずっと前から語り継がれていたことなんだ。だから、君もなにか知っていると思って」
「構わない。宝の話は聞いたことがなかったが──なにか力になれると思うからな。そんなことより、君たちが俺を頼ってくれて、嬉しく思っているほどだ」
精霊王のフィリップも。
「クロードとレティシアもありがとうございます。ですが、ベルカイム王国は大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。わたしたちが抜けたくらいで、どうにかなってしまう方がおかしいわ。こいつとの結婚式も、まだ先の話だからね」
「そうだぞ。まあ……ボクは危なそうだから、あまり行きたくなかったが……レティシアがどうしても行くと言ってるからな。彼女一人にはさせてられない」
ベルカイムの第一王子とその婚約者、クロードとレティシアも。
いつものお茶会でレティシアに伝説のお宝のことを話したら、乗り気になってしまって、彼女たちも付いてくることになったわけです。
こうして──私とナイジェル、ドグラス。セシリーちゃんとフィリップ。クロードとレティシアの七人で、伝説のお宝探しに繰り出すことになりました。
「まるで、トレジャーハンター団みたいだね」
一堂に介している光景を眺めて、ナイジェルがぽつりと呟く。
「トレジャーハンター団……船に乗って、世界中のお宝を探し求める一団でしたっけ?」
「うん。まあ、トレジャーハンター団の割には緊張感がないけどね」
肩をすくめるナイジェル。
その話が聞こえていたのか、ドグラスが不適な笑みを浮かべます。
「ほお……トレジャーハンターか。少し待っていろ」
そう言ったかと思うと、ドグラスは一人で船の中に乗り込んでいきました。
一体なにを?
疑問に思っていましたが──程なくしてドグラスは戻ってきます。
その右手には、あるものが。
「三角帽?」
左右に赤いリボンが飾り付けられている、カッコいいとも可愛いとも言える帽子です。
ドグラスはそれを私の頭に被せました。
「だったら──このトレジャーハンター団の船長は、エリアーヌ。汝だ。なにかで読んだことがあるが、トレジャーハンター団の船長はそのような帽子を被るのが一般的なのだろう?」
「わ、私が船長ですか? なんでこんな帽子が船の中に……」
「そういや、これは元々トレジャーハンター団の船だったらしいんだ。だから、残っていたんじゃないかな」
また! ナイジェルは! 大事なことを事前に言わない!
なんだか恥ずかしくなって、すぐに三角帽を脱ごうと思いますが、集まったみなさんは楽しそうに私を見ています。
そのせいで、脱ぐタイミングを見失ってしまいました。
「だったら、トレジャーハンター団の名前を決めるのー! 『真のトレジャーハンター団』っていうのは、どう?」
「真の……? セシリーちゃん、トレジャーハンターの偽物がいるんですか?」
「分からないの。だけど、セシリーたちが一番強い! 他のトレジャーハンター団は、どれもまやかしだ! っていうくらいの気持ちで挑まないといけないと思うの!」
はしゃぐセシリーちゃん。
「『真のトレジャーハンター団』……いいじゃないか」
「真の聖女であるあんたが、船長なんだからね。ぴったりな名前じゃないかしら」
「その帽子もなかなか似合ってるぞ。ま、まあ! レティシアが一番似合うと思うがな!」
フィリップとレティシア、クロードも文句はないみたい。
……はあ。
ここで私がなにを言っても、覆りそうにはありませんね。
だったら、『真のトレジャーハンター団』の船長。見事にやり遂げてみせようではありませんか。
もう、半ばヤケクソなのです。
──こうして、真の聖女である私はトレジャーハンターになりました。
だから冒険はまだ始まったばかりです。





