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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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282・幸せ

「そんな服もあったんですね。素敵です」


 とエリアーヌが僕に感想を伝えてくれる。


「うん。王位継承の儀の時にだけ着る服でね。陛下──父上が昔、着た服と同じなんだ」


 元々は今日のために新調するはずだったけど、それは僕が固辞した。


 だって尊敬する父上の服なんだよ?


 僕は幼い頃から、父上の背中を見て育ってきた。父上は僕にとって理想の国王陛下だった。

 だから同じ服を着れるのは、素直に嬉しい。

 その当時、父上が考えていたことが頭に入ってくる感覚を抱いた。


「でも……エリアーヌも素敵だよ。もちろん、いつも素敵だけど──今日の君は一段と美しい」

「ありがとうございます」


 微笑むエリアーヌ。


「思えば、今日まで色々なことがありましたね」

「だね」


 決して平坦な道ではなかった。


 だけどここまで無事に辿り着けたのは、みんなの支えがあってのこと。


 仲間に恵まれたことに、僕はただただ感謝した。


「そして、支えてくれた人々に、今度は僕が恩返しをする番だ。国を導き、僕はみんなの理想の王となる」

「私もあなたを隣で支えます。私は──あなたを愛しているのですから。これからもよろしくお願いいたします」

「僕も君と同じ気持ちだよ。僕も君を愛している」


 穏やかな気持ちのまま、彼女の目を真っ直ぐ見つめ返す。


 これから先の未来に、なんの不安もなかった。


 こう思えるのも、彼女と何度も苦難を乗り越えてきたからだろう。

 また、どんな敵や障害が現れても、彼女となら前に進めるはずだから。


「魔王と戦う時にも言ったと思うけど、僕は君の剣となり盾となる。僕が君に支えられるように、僕も君を支える。これからも共に歩いていこう」

「もちろんです」


 頷くエリアーヌに、僕は右手を差し出す。


「さあ、そろそろ行こうか。みんなが待っている」

「はい」


 エリアーヌの手を取って、僕は歩き出す。


 扉を開けると、なにかに当たった衝撃。


「あれ?」


 視線を下に向けると、父上やドグラスが転けていた。


「もうっ! みなさん。もしかして、中の様子をうかがっていたんですか!?」

「ガハハ! すまぬ、すまぬ。どんなことを言っているのかと思ってな。だが、最高の台詞だったぞ。我らも二人を支える」


 ……どうやら扉に耳を当てて、僕達の会話を盗み聞きしていたらしい。


 あまり褒められた行為じゃないけど、ドグラスも父上も──セシリーやラルフ。ヴィンセントやクロード殿下、レティシア嬢も胸元で拳を強く握って、ドグラスの言葉に頷いた。

 頼れる仲間達をもって、僕は本当に幸せものだ。


 そして僕はエリアーヌと父上、数人の護衛と共にお城のルーフバルコニーまで移動する。


 城下では既に多くの人が集まって、僕の言葉を今か今かと待ちわびている。


 王位継承の儀が始まる。



「──今日をもって、儂はこの王冠を下ろす。これからはナイジェル・リンチギハムが王位を継ぐ。しかし皆の者、なにも心配しなくていい。ナイジェルこそ、理想の国王となるのだから。ナイジェル──ここへ」



 僕は父上の前に立ち、ルーフバルコニーの床に膝を突く。

 一瞬、父上の目が涙で潤んでいるように見えた。きっとそれは、嬉しさの涙だろう。


 僕の頭に、父上が王冠を被せた。


 その瞬間、割れんばかりの歓声。

 それは王都中に響き渡る。


 歓声の大きさによって震える大地を感じていると、まるで自然も僕を祝福しているように感じた。



「今日で僕は王となる」



 自信を持って言えた。


 きっと魔王と戦っていなければ、こんな風に真っ直ぐ言えなかったんだろうな、となんとなく思った。


「いきなりだけど、僕の夢を語りたいと思う。僕の夢は『世界平和』だ。みんなが手を取り合い笑えるような、そんな理想の世界。無論、それには困難も伴うだろう」


 先ほどの歓声が嘘だったかのように、周囲は静まり返っている。

 みんな、僕の言葉に耳を傾けている。


「しかしみんなとなら、必ず成し遂げられると思っている。どうか僕に力を貸してくれないかい?」


 そう問いかけると、再び歓声。

 隣を見ると、エリアーヌと父上も笑ってくれている。


 そうだ──僕はこんな風景を、ずっとずっと守っていきたいんだ。


 これは魔王のように力で抑え込む世界平和では、到底成し得ないことだろう。


「ありがとう。最後に──この言葉で締めさせてもらおうと思う」


 僕は握った拳を胸に当て、力強くこう言った。



「世界が幸せで満たされますように!」

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