29・お誕生日
あれ以来。
セシリーちゃんは私に懐くようになった。
「ねえねえ、お姉ちゃん。前のハンバーグ作って欲しいのー」
今でもこうしてセシリーちゃんは、そう言って私にしがみついている。
「いけませんよ、セシリーちゃん。こんな時間に食べたら、晩ご飯が食べられなくなってしまいます。それまでの我慢です」
「んー、でもお腹が空いたのー」
ぷくーっとセシリーちゃんがほっぺを膨らませる。
か、可愛い……。
でもあんまり甘やかしてはダメ。セシリーちゃんがダメな大人になってしまうからね。
私はセシリーちゃんを正しい方向に導かなければいけないのだ!
まるでセシリーちゃんの本当の『姉』になったかのように、私は彼女と接していた。
「にいにの誕生日パーティーにも、前のハンバーグをいーっぱい出して欲しいのー」
「誕生日パーティー?」
なんだそれは。そんなものがあるなんて初耳だぞ。
ちなみに一応言っておくと、セシリーちゃんの言う『にいに』とは、第一王子でもあるナイジェルのことだ。
私が聞き返すと、セシリーちゃんが舌っ足らずな言葉で続ける。
「にいにの誕生日-、もう少し。その日になったら、豪華なパーティーが行われる-。にいにの誕生日パーティーはいつもキレイで、美味しいものもいっぱい出るのー」
なにそれ、楽しそう。
というかナイジェルの誕生日?
「セシリーちゃん。にいに……ナイジェルの誕生日っていつなんですか?」
「んー、二週間後」
二週間後……ってすぐじゃないですか!
それは知らなかった。
どうして自分の誕生日が近いというのに、ナイジェルは教えてくれなかったのだろう?
……まあ聞いてもないのに、言うわけもないか。
自分の誕生日をわざわざ言うなんて……それこそ、プレゼントをねだっているようですし。
そうだ!
「ナイジェルの誕生日のお祝いに、プレゼントを用意するのも良いかもしれませんわね」
というかきっとするべきだ。
誕生日はその人にとって、一年に一度。自分の生まれた日で特別な日なんだ。
ナイジェルはこの国の王子様だ。
もちろん豪勢な誕生パーティーが執り行われ、それはそれは目を奪われるようなプレゼントを貰うのだろうけど……私もその中に混じって、密かに誕生日プレゼントを渡したい。
「セシリーちゃん、良いことを聞かせてもらいました。ありがとうございます」
「どういたしましてー」
ぺこりと頭を下げると、セシリーちゃんは自分の言ったことでおかしくなったのか、きゃっきゃっと笑っていた。
「そうと分かれば、プレゼントをなににするかですね……」
なんだろう?
せっかく渡すんだから、ナイジェルには喜んでもらいたい。
「ナイジェルが欲しがっているものとかって分かりますか?」
私がそう質問すると、セシリーちゃんは口元に手を当て「んー」と悩み出した。
「にいに、あんまり欲しがらない。贅沢言わない。だからお姉ちゃんの言ってること、セシリー答えられないの」
「ご立派な方なんですね」
というより王子様という立場上、その気になれば欲しいものはなんでも手に入るだろう。
まあそれをしないことが、ナイジェルの良いところでもあるんでしょうけど。
でもこの場合、ナイジェルの美点は私にとって少々困ったことになる。
なにをあげればいいんでしょうか……。
頭を悩ませていると、セシリーちゃんは「あ」と唐突に声を出した。
「にいに、甘いもの好きなの。もしプレゼントを渡すなら、お菓子とかあげればいいかもしれないの」
ぴきーん。
その時、私の目が光った気がした。気がするだけだけど。
「甘いものが好きって、ナイジェルにも可愛らしいところがあるんですね」
「そうなのー。昔お母さんにクッキーとかよく作ってもらったの。だからセシリーも、甘いもの好きー」
ちなみにナイジェル達のお母さん……国王陛下の正妻は、彼等が幼い頃に病気で亡くなってしまっているらしい。
セシリーちゃんは小さすぎてあまり覚えていないみたいだけどね。
「そうなんですね……それは良いことを聞きました。セシリーちゃん、本当にありがとうございました」
「どういたしましてー、ぱーと2なのー」
くすくすと笑うセシリーちゃん。
甘いものが好き……亡き母……。
決めた。ナイジェルの誕生日のお祝いには、手作りのクッキーをあげましょう。
これだったらプレゼントとしてあまり重くなく、ナイジェルも気軽に受け取ってくれるはずだ。
「そうと分かれば、材料ですわね」
幸いにも、先日のことがきっかけでキッチンの使用許可が出ている。
ナイジェルにバレないよう、あそこで密かにクッキーの開発に勤しもう。どうせならビックリさせてあげたいからね。
「せっかくだから、材料も自分で揃えましょうか」
市内に出れば、私が求めるクッキーの材料も売っているはずだ。
久しぶりのお買い物に、私は心を弾ませるのであった。
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