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28・そして実食のお時間

 広い食堂に長いテーブル。

 椅子に座っているナイジェルとセシリーちゃんの前に、料理が載ったお皿を置いていく。


「おっ、今日はハンバーグなんだね」

「美味しそう~」


 私が作ったハンバーグに、二人は目を大きくする。


 ふふふ。すぐに「私が作った」と打ち明けてもいいが、二人の忌憚きたんなき意見も聞いてみたい。

 しばらくこのままでいこうか。


「ではどうぞ」

「うん、食べさせてもらうよ。いただきます」

「いただきますなの!」


 二人が手を合わす。


 まずナイジェルがハンバーグにナイフを通した。


 じゅわあっ。


 ハンバーグに切れ込みが入った瞬間、美味しそうな肉汁が中から溢れてきた。

 こう見ているだけで、私も涎が出そうですわね。


 そしてハンバーグを口に入れた瞬間、


「……! 美味しい!」


 とナイジェルは目を輝かせた。


「なんてハンバーグだ! こんな美味しいハンバーグは今まで食べたことがない!」

「そう言ってもらえて、私も嬉しいですわ」

「セシリーも早く食べてみなよ」

「そうする!」


 ナイジェルが急かすと、セシリーちゃんも同じようにハンバーグを口に運んだ。


 それにしても……こんなちっちゃな子だけど、ナイフとフォークを器用に使っている。

 王女ということもあって、もっと小さい頃から躾けられてきたんだろうなあ。


 セシリーちゃんがもぐもぐと口を動かす。


 美味しく調理したつもりだけど……「不味い!」と言って、吐き出さないだろうか?

 んんんっ、作った瞬間は自信があったが、こうしていると不安になってくるぞ!


 しかしそれは取り越し苦労だったようで。



「おいちい!」



 とセシリーちゃんはナイジェルと同じように言ってくれたのだ。


「このハンバーグ、とってもおいちい!」

「それは良かったですわ」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 

「本当だね、セシリー。料理長、今日のハンバーグはとても美味しいよ。あ、もしかしてこのハンバーグ、エリアーヌが手伝ってくれたからかな?」


 やはりナイジェル、鋭い。

 でも少し間違っている。


「殿下」

「ん?」


 ここまで付いてきたコックが一歩前に出る。

 心配だからとここまで付いてきてくれたのだ。


 緊張しているのだろうか、コックが震えた声でこう続ける。


「お言葉ですが、それは私が作ったのではありません」

「え? じゃあ誰が……」

「彼女が一人で作ったのです。エリアーヌ様が」

「エ、エリアーヌが!?」


 これはさすがのナイジェルも予想していなかったのか、驚いて椅子から立ち上がってしまった。


「エリアーヌ! 君がこんな美味しい料理を?」

「え、ええ」

「なんてことだ……こんなに美味しいハンバーグを作ることが出来るなんて。でも今までに食べたことのない味だった。なんというか……今まで食べるものよりも美味しく感じたような? これは一体……」

「ナイジェル。実はですね、そのハンバーグには——」



 私は事の経緯をナイジェルに伝える。



「な、なんだって!? 野菜ハンバーグ? そんなの入っていることなんか、微塵も感じなかったけど?」


 おお、驚いてる驚いてる。

 大成功だ。


「私が昔にいた国では一般的な料理でしたわ。どうやらリンチギハムにはなかったみたいですけど……」


 リンチギハムは素晴らしい国だと思うけど、どうも食に関しては遅れている部分がある。

 まあ国の規模としては、王国の方が上だったからね。料理の材料や優秀なコックが集まりやすかったのだろう。


「すごい……! エリアーヌはこんなことも出来るなんて。美味しい料理をありがとう!」


 そう言って、ナイジェルは私の両手をぎゅっと握った。


 こんなイケメンの顔が目の前にあるのは、なかなか慣れない。いい加減慣れるべきだと思うけど……。


「セシリーちゃん、そのハンバーグ。どうでした?」

「へ?」


 あらあら。

 セシリーちゃん、口元にソースなんか付けちゃってる。

 どうやら私達が話している内容もろくに聞かず、ハンバーグに一心不乱だったようだ。


「ほら、セシリーちゃん。ここにソースが付いちゃってます」


 私はナプキンでセシリーちゃんの口元を拭いて上げながら、彼女と目線を合わせる。


「そのハンバーグ。セシリーちゃんの嫌いな野菜が入っていたんですよ?」

「野菜……苦くて赤くてかったいヤツとか?」

「白いものだったり、緑色のものも入ってました」

「えー!」

「でも……美味しく食べられましたよね?」

「う、うん。知らなかったから……」


 セシリーちゃんは戸惑いの表情だ。


「不味い不味いと思うから、野菜も不味くなるんですわ。でも野菜だと思わなかったら、食べることが出来る。それに野菜を食べたらもっとキレイになりますわよ」

「キレイに……」


 俯くセシリーちゃん。

 ちょっと説教じみた感じになってしまっただろうか?


「ごめんごめん、セシリーちゃん。でも——」

「野菜食べたら、お姉ちゃんのようになれる?」

「私?」


 自分を指差す。


 どうしてセシリーちゃんは、いきなりそんなことを?


 ……ははーん。もしかして、私のように料理を作りたいということか。

 だったら、野菜を食べて味を知らないと、ハンバーグの一つも作れませんわね。


「ええ、その通りですわ。野菜を食べたらきっと私のように料理が作れ……」

「だったらセシリー、頑張って野菜食べる! お姉ちゃんのようにキレイになりたい! ついでに料理も作れるようになりたいの!」


 とセシリーちゃんは私の胸に飛び込んできた。


 あれー?

 予想していた答えとはちょっと違っていた。


 でも……まあいっか。

 セシリーちゃんもこれから野菜嫌いを克服しようと努力してくれるみたいだし。

 上々の結果ではないだろうか?


「エリアーヌ」


 セシリーちゃんの頭をなでなでしてあげると、今度はナイジェルが私の名を呼んだ。


「本当にありがとう。セシリーの野菜嫌いは本当に困っていたんだ。なにかお礼をさせて欲しい」

「そうですわね……」


 まあ本当はこれくらいのことで褒美なんか与えようとしなくていい。

 だけど今の私にはしたいことがあった。


「だったらたまにでいいから、時々私にもキッチンを使わせて欲しいですわ」

「え? そんなことで良いのかい?」


 ナイジェルがきょとん顔になる。


 料理は好きだったので、以前から何度か料理を作ってみたかった。

 だけどコックの方達が忙しそうに働いている中、キッチンの一部を使わせてもらうのは抵抗があった。


 それに私の国には「コック以外は厨房に入るな」という言葉もありましたからね。

 コックの方達にとって、厨房とは神聖な場所。

 そうやすやすと入っていいものではないのだ。


「料理長。エリアーヌはそう言っているみたいだけど……」


 ナイジェルがコックを見る。


「もちろん、それくらい全然大丈夫だ! それに彼女の料理の腕前には驚いた。たまにでいいから、オレも料理を教えて欲しいほどだよ」


 とコックは肩をすくめた。


 やりましたわ!

 念願のキッチンをゲットです!

 これで王城暮らしも、さらに楽しくて刺激的なものに変わるだろう。


「お姉ちゃん。セシリーにも料理教えてー」

「もちろんです」


 これでセシリーちゃんの野菜嫌いも一件落着……とまではいかないが、改善に向けて大きく前進したと言えるだろう。


 私もたまにキッチンを使わせてもらえるようになったし、今日は収穫の多い日だった。

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