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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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258・氷の公爵にふさわしい剣

 その後、フィリップは「もう一度、魔族界について調べてみる」と言って中庭を後にして、書庫に向かっていきました。


「私は……ナイジェルともう一度、話し合いましょうか」


 城内にいる他の方にも話を聞いて、ナイジェルを探していると──辿り着いたのは宝物庫の前。

 神剣が封じるために特別に設けられた宝物庫ではなく、本来の宝物庫です。

 高級な宝石や絵画、中には歴史的価値が高い剣も置かれており──私も用事がなければ、滅多に足を運ばない場所。


「ナイジェル──それにヴィンセント様もいらっしゃったんですね」


 声をかけると、二人は同時に顔を私に向けました。


「お二人は一体なにを……?」

「昨日の戦いで、愛用の剣が折れてしまったからな」


 とヴィンセント様が表情一つ変えず、私の質問に答えます。


「だからこれからの戦いに備えて、代わりの剣を探していたんだ」

「昨日の会議が終わってから、武器屋を巡っていたそうなんだけど、なかなかピンとくるものが見つからなかったらしくってね。だったら宝物庫になら、もしかして……って。それでようやく見つかったんだ」


 とナイジェルはヴィンセント様の手元を見ます。

 ヴィンセント様の右手には、刀身が青く澄み渡っている芸術的な剣が握られていました。


「なるほど……さすがは宝物庫で保管されていた剣ですね。ただの剣ではなく、魔法が付与された『魔剣』でしょうか」

「さすがだな、エリアーヌ。分かるか」


 感心したように、目を丸くするヴィンセント様。


「これには氷属性の魔法が付与されている。魔法はあまり得意ではないが、これだけ上質な魔剣なら──」


 ヴィンセント様が剣に魔力を込めると、刀身を中心として氷の粒が発生しました。


「このように使える。今は加減して出力しているが、戦いの中で使えば魔族の足止めくらいは果たせるだろう」


 ヴィンセント様の剣術は、あまりお目にかかったことはないけれど──学院時代はナイジェルとパーティーを組んで、ダンジョンを踏破したという話も聞いたことがあります。

 貴重な魔剣に、ヴィンセント様の剣術が合わされば、魔族相手でも退けを取らないはず。


「助かった、ナイジェル。良い剣が見つかった。お前はいいのか? 宝物庫にはまだ、貴重な剣が残っているが……」

「うん、僕はこれで十分だから」


 とナイジェルが鞘から剣を抜き、刀身を見つめます。


「これは僕が幼い頃、誕生日に陛下に買ってもらった剣だ。これで大切な者を守れ──って。そこまで貴重な剣じゃないけど、ここまでの戦いに付いてきている。神剣がない以上、これが最高の剣だよ」

「ふっ、そうだったな。お前はそれを、学院時代から愛用していた」


 昔を懐かしむように言うヴィンセント様。


「ヴィンスこそ、その剣の使い心地はどうだい?」

「良好だ。それに……この剣を一目見た時から、()()のようなものを感じた。『氷の公爵』と呼ばれる私にはふさわしい剣だ」


 魔剣に限らず、魔法を使う際には自分がイメージしやすいものであれば、さらにその威力を引き出せます。

 そのことを考えたら、氷の魔剣はまさしくヴィンセント様にピッタリでしょう。


 ……あっ、そうです。


「ヴィンセント様のご無事を祈らせてください──あなたに女神の加護があらんことを」


 私が魔剣に手をかざすと、そこを中心として温かい光が灯りました。


「剣に女神の加護を付与させていただきました。気休め程度ですけれどね。大した効果は期待出来ないでしょう」


 女神の加護に完全適応したのは、現状でナイジェルただ一人ですからね。


 ですが、ヴィンセント様は「ふっ」と笑い、


「君と共に戦っていると思うだけで、勇気が出る。これは全てに勝る魔法だ。礼を言うぞ」


 と言ってくれました。


「では、私は他の場所に向かいます。レティシア達とも、話したいですから」


 せめて魔族界に向かう方法だけでも分かれば──。

 そう思うと、いてもたってもいられません。


 私が踵を返そうとすると、


「エリアーヌ」


 ナイジェルに名前を呼ばれて、振り返ると──彼に抱きしめられました。


 え!?


 急な彼の行動に、思わず驚いてしまいます。


「頑張りすぎるな──とは言わない。だけど悩んだら、すぐに相談してね。僕だけじゃない。他の人にも同様だ。君の話なら、みんな聞くだろうから」

「は、はい。分かっています」


 こうしてナイジェルに抱擁されていると、彼への愛情がさらに膨らんでいきます。

 大好きで心がいっぱいになり、幸せで満たされました。


「…………」


 しかしそんな私達を、じーっと見つめる視線が。

 ヴィンセント様です。


「す、すみません。恥ずかしいところを見せてしまい……不快でしたか?」

「恥ずかしい? 不快? なにを言ってるんだ? 仲がいいのは好ましいことではないか」


 淡々と言うヴィンセント様。


「だが、私からも君に言いたいことは同じだ。困ったら、人を頼れ。君達夫婦は、すぐに一人で解決しようとするからな」


 と続けて、「魔剣の試し斬りをしてくる」と言い残し、彼は私達の前を去っていきました。


「頑張りすぎる……って言ってたけど、それはヴィンスも同じだと思うけどね」

「そうですね」


 ヴィンセント様も努力を誰かに見せるタイプではないため、気付きにくいものの、人一倍の頑張り屋さん。

 先ほどのやり取りも淡々としているように見えましたが、魔族との再戦に燃えているでしょう。



「二人とも──なにをそんなところで、いちゃいちゃしておる」



 二人でそんな会話を交わしていると、次にドグラスが片手を挙げて、こちらに近付いてきました。


「い、いちゃついてなんかいませんよ。そんなことよりドグラス──あなたはなにをされていたんですか?」


 ドグラスをよく観察すると、褐色の肌に汗の粒が浮かんでいます。じゃっかん体に熱を帯びているようですし、今起きてきたところには見えません。


 私の質問に、ドグラスは「うむ」と頷き、


「ベルカイムの強き者──確か名をカーティスといったか。ヤツに求められ、稽古をつけてやっていたのだ。あいつも我らと共に戦うつもりだったからな」


 と答えました。


「そうだったんだね。カーティス騎士団長もベルカイムの民だというのに、一緒に戦ってくれるのは有り難いばかりだ」

「そうだな。騎士団長といったら……アドルフといい、あの第二王子といい──ベルカイムの騎士団の連中はなにをしているのだ?」


 ドグラスから質問が飛ぶ。


「昨日、話を聞いていなかったんですか? 街の警備をしてくださっているんです。それに……街から逃げる人々の護衛ですね」


 このままでは、再び王都が戦場になる可能性が高い──。

 ゆえに人々の避難は急務なこと。

 街の外も安全とは限りませんが、避難を希望する人達を募ることになりました。


 ですが。


「ほとんど希望者は現れなかったけどね」

「その通りです」


 ナイジェルの言葉に、私は首を縦に振ります。


「そういえばそうだったな。我、その辺りの話は聞いておらぬかった。ガハハ!」

「もう……っ! 大事なことなのに」


 ドグラスを嗜めてから──私はこう疑問を口にします。


「だけど……どうして避難せずに、ほとんどの人が街に残ったのでしょうか? 希望者もやむを得ない方々だけだったと聞きましたし……」


 いくら避難にも危険が伴うとしても、このまま王都に残るよりは安全なはず。


 それなのに、どうしてわざわざ街に残る選択を──?


「あ? 分からぬのか?」


 私の疑問に、ドグラスはきょとんとした表情でそう言いました。


「なにがですか?」

「自分で気付け。街に出れば、なにか分かるかもしれぬぞ?」


 問いを重ねようとしましたが、ドグラスが答えてくれる気配はありません。

 ナイジェルにも視線を移しますが微笑むだけで、彼も答えてくれませんでした。


「まあ……今は他にも考えるべきことが多い。魔王や魔族界について──だな」


 そうドグラスが言うと、ピリッと空気が引き締まったように感じました。


「我も一晩、考えてみたのだが──もしかしたら、あの古代遺跡の壁画がヒントになるのではないか?」

「それは私も考えました」


 王都に魔族が襲来し、魔王の封印が解かれる前。

 私とドグラスは古代遺跡に足を運び、そこで大昔の魔王との戦いが記された壁画を目にしました。


「“真の聖女”についてもなにか書かれてたみたいだけど、解読する前に遺跡が崩れてしまったんだっけ?」


 ナイジェルにも昨日のうちに、古代遺跡で見たことは説明済み。

 彼の問いに「はい」と頷きます。


「その他の気になる記述といえば──『魔王が手にする剣の真の力』についてですね。ですが、文章が途中で途切れており、それも結局なんなのかは分かりませんでした」

「エリアーヌもナイジェルと共に、魔王と戦ったのだったな? 確か、結界を斬ったと言っていた。それが魔王の持つ剣の力では?」

「それが一番有力ですね。私の結界を壊すほどの力は、なかなかありませんから。でも……」


 わざわざ壁画に書いて、後世に伝えるほどではないように思えます。


「結界を壊すだけのものなら、さほど脅威にはならないでしょう。何度でも張り直せばいいだけですから」

「それもそうだな」


 だけど──一つ、気にかかることがあります。


 魔王が剣を振るった時、一瞬だけ全身の力が抜けたような感覚を抱きました。

 あの時と同じ感覚を、私は抱いたことがあります。


 それは《白の蛇》を打倒するため、神界に入った時。

 あの時と似ているようで……。


「そうです。神界です」


 私はポンと手を打ちます。


「神界に入る際にも、《入り口》が必要となりました。魔族界に繋がる《入り口》さえ見つければ、魔王の元へ辿り着けるかもしれません」

「それは名案だね。あの時、上空に浮かんだ扉もその《入り口》だったのかな?」

「しかし、なんにせよその《入り口》を見見つける必要がある。現状、その目星はあるのか?」


 ドグラスから投げかけられた問いに、私とナイジェルも答えることが出来ません。


 神界の時は、セシリーちゃんのぬいぐるみが《入り口》でしたね。

 私は堕天使であるヨルに連れ去られましたが、ナイジェルは女神の力のおかげで神界に侵入したはず。

《入り口》も、女神の声が聞ければ簡単に分かっていたのかもしれません。



 ──どうして、女神様の声が突然聞こえなくなったのでしょう。



 その答えを、私達はまだ持っていません。


「まあ、いつまでも嘆いてばかりでは、前進は出来ぬ。それに──仮に魔王が完全に力を取り戻したとしても、我が捻り潰せばいいだけの話だ」


 とドグラスが怖い顔をして、ポキポキと拳を鳴らします。

 それがドグラスなりの励ましさだと気付き、私は前を向きます。


 ──こうしている間にも、魔王は着々と準備を整えているはず。


 魔王が力を取り戻した時、ベルカイムで見た、あの巨大な姿に生まれ変わるのでしょうか。

 必ず魔王を倒さなければならない──あらためて決意し、私は拳をぎゅっと握りました。

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「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
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