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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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257・本来のフェンリルの姿

 アビーさんと別れ、城内を歩いていると、


「エリアーヌ」


 声をかけられ振り返ると、フィリップがこちらに近寄ってくるところでした。


「フィリップ、どこかに行かれるところでしたか?」

「ああ。フェンリルのラルフにもう一度、話を聞きにいこうと思ってな。魔族界に入る方法のヒントを、なにか掴めるかもしれない」


 ラルフちゃんも、かつては神に仕えていたと言われる種族であるフェンリル。

 見た目は可愛くて大きな犬なので、忘れがちになりますけれどね。

 ラルフちゃんも昨日の時点では分からなかったそうなのですが、夜も明けてなにか思い当たっているかも。


「それはいい考えですね。ラルフちゃんなら、お城の中庭にいるでしょう。案内します」


 その後、私達は一緒に中庭に場所を移しました。


 するとそこには──ラルフちゃんを枕にして、すやすやと寝息を立てるセシリーちゃんの姿もありました。


「あらあら、仲がよろしいですね」


 ラルフちゃんも昔は、『セシリーは触る時の手つきが痛い』と嫌そうにしていましたのに。

 今では──聖女としての力に覚醒したことも起因すると思いますが──このお城で一番仲良しのコンビかもしれません。


 微笑ましい気持ちになり、なるべく物音を立てずに近寄ります。


「よく眠っているようです」

『うむ』


 話しかけると、ラルフちゃんがこくりと頷きました。


「ん……エリアーヌのお姉ちゃん?」

「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」

「ううん、別にいいの」


 とセシリーちゃんは瞼を擦りながら、ゆっくりと立ち上がります。


「こんなところで寝ていては風邪を引きますよ。体調は悪くありませんか?」

「ばっちり! いっぱい寝て、元気になったの!」


 明るい声でセシリーちゃんは言って、勢いよく立ち上がりました。


「ラルフよ。昨日も聞いたと思うが──魔族界に関して、なにか知っていることはないか? このままでは魔王が復活するのを、みすみす待つだけになってしまう」


 こうしている間に、フィリップがラルフちゃんに話しかけます。


『……すまない。ラルフにも分からぬ』

「そうか……しかし謝らないでくれ。俺も一緒だから」


 とフォローを入れるフィリップ。


「お姉ちゃん、ラルフはなんて言ってるの?」

「なにも分からないと言っています」


 私はセシリーちゃんに、そう伝えてあげます。


 フェンリルであるラルフちゃんの声は、通常は人間には聞くことが出来ません。

 今、お城にいる中で例外なのは聖女である私──そしてドラゴンのドグラス。精霊王のフィリップくらいでしょうか。

 セシリーちゃんも何度か声が聞こえていたそうですが、その力を安定させるのはまだ難しそう。


「ありがとうなの、お姉ちゃん。セシリーも早く、ラルフの声がいつでも聞けるようになればいいのに……」

『気にするな、セシリーよ。声が聞こえずとも、ラルフらは心と心で繋がっているではないか。それは言葉を交わすことよりも尊いものだ。落ち込む必要はない』


 イケメンスマイルでラルフちゃんは慰めますが、やっぱりセシリーちゃんには聞こえないよう。


「まあまあ、セシリーちゃん。ラルフちゃんは言葉が通じずとも、心と心で繋がっていると言っていますので」

「うん! セシリーもそう思うの! セシリー、ラルフのこと大好き!」


 セシリーちゃんが嬉しそうな顔をして、ラルフちゃんに抱きつきます。

 ラルフちゃんも満更ではない顔で、彼女を受け入れていました。


「本当はラルフと遊びたいけど──そんなことしてる場合じゃないの。セシリーもお姉ちゃんの力になりたい。だって、セシリーは聖女で王女だもんっ!」

「そのお気持ちだけでも十分なんですよ?」

「お姉ちゃんの優しさに、甘えてばっかりじゃダメなの。少しでも変なことがないか、城内をパトロールしてくる!」


 とセシリーちゃんは胸元に拳を当てます。


『ラルフも行こう。背中に乗れ、セシリー』

「うん!」


 体勢を低くして背中を向けるラルフちゃんを見て、セシリーちゃんも彼がなにを言いたいのか分かったのでしょう。

 ラルフちゃんの背に乗って、中庭を後にしていきました。


「ふふっ、心と心で繋がっているというのは本当だったようです」


 セシリーちゃんとラルフちゃんを見ていると、ほっこりします。


「…………」


 一方、フィリップはセシリーちゃん達が去っていった方向を見て、なにやら思案顔。


「どうかされましたか?」

「いや……あのフェンリルがよく懐いていると思っていてな。あれほどまでに、人間に懐いているフェンリルを見るのは初めてだ」

「そうですね。大きな体をしていますし、なにも知らない者が見れば驚くかもしれませんが──」


「そういうことを言ってるんじゃない」


 私の言葉を遮って、フィリップが続けます。


「そもそも、フェンリルというのはドラゴンに並び立つくらい、好戦的で獰猛な生き物だ」

「そうだったんですか?」

「ああ。ましてや人間に懐くことなんて、断じて有り得ないはず。これは理屈ではない。フェンリルの本能として、他種族──特に自分達とは全く異なる人間を、忌避するように出来ているんだ」


 そういえば……かつてラルフちゃんは人になかなか懐かなかったとも聞きます。

 私が初めてラルフちゃんと出会った時も、ナイジェルは『ラルフは簡単に自分の体を触らせない』というようなことを言っていましたしね。

 今ではすっかり、メイドのアビーさんにも懐いていて、忘れていましたが──元々はそういう子なんです。


「それなのに、あんなに懐くのはよほど愛情をもって育てられたということだろう」

「はい。このお城にいるみんな、ラルフちゃんが大好きなので」


 フィリップの言葉に、私は同意するばかりでした。

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