255・この世界の真の王は妾だ
ナイジェルの前に張っていた結界に、剣が直撃します。その力はせめぎ合い──。
その瞬間。
体がふわっと浮き上がるような浮遊感。
ナイジェルの姿が遠く見え──。
「くっ!」
やがて結界が破壊され、衝撃によってナイジェルは吹き飛ばされます。
手元からは剣が零れ、すぐに体勢を整えようとします。
しかし剣を手にし、立ち上がろうとした瞬間、魔王の剣が彼の喉元に突きつけられていました。
「ここが貴様の限界だ」
魔王の殺気に、ナイジェルは微動だに出来ません。
「雑魚の分際でよく頑張ったとは思うが──な。弱ければ、なにも守れない。その悔いを胸に抱きながら、死ね──!」
「ナイジェル!」
咄嗟に結界魔法を張り直そうとしますが──間に合わない。
ヴィンセント様も武器を手にしないながらも、駆け出そうとし──
「ん……?」
しかし──魔王が剣を高く上げた瞬間。
剣がポロポロと、まるで幻だったかのように消滅したのです。
「……命拾いしたな。今の妾では、完全に断ち切ることは出来ぬみたいだ。今回は見逃してやる」
と魔王はナイジェルから一切の興味が失ったかのように、窓の外へ視線を移します。
そして口角を吊り上げ、こう言いました。
「ようやく準備が整ったようだ」
一体なにが──と思ったのも束の間、耳をつんざくような雷鳴。
雨が激しく窓に打ち付けられていました。
「ナイジェル、ご無事ですか!?」
私はすぐさまナイジェルに駆け寄り、治癒魔法をかけます。
先ほど一瞬、ナイジェルが遠く見えてしまうような──妙な感覚を抱きました。
しかし今はその感覚も消え失せ、今までと変わらず魔法を使うことが出来ています。
「う、うん、大丈夫。そんなことよりヤツを──」
そうしている間に魔王は私達に背を向けます。
今の私達など眼中にないようです。
「妾の力は完全には目覚めておらぬ。この決着は──次までに取っておいてやる」
そして窓の方へ歩き出しました。
「逃がさないよ!」
ナイジェルは即座に地面を蹴り、歩いていく魔王の背中に剣を振います。
また、二の舞になるのでは──。
そう思ってもなお、魔王をここで逃すわけにはいきません。
ナイジェルの剣の一閃は光となり、魔王を捉え──
「魔王様ぁぁぁああああああ!」
刹那。
剣の矛先に、突如火の玉が現れたように見えました。
そのせいで狙いが外れ、剣は現れたものを両断します。
なんだったのかを確かめる時間も与えられないまま、それは形を崩し、消滅してしまいました。
「よくぞやった。大義であったぞ」
その隙に魔王は窓を突き破り、外へ逃げていきます。
「追いかけるぞ!」
「ええ!」
ヴィンセント様も声を上げ、私達は魔王を追って、窓の方へ駆け出します。
そして窓から見た外の光景は、信じ難いものでした。
「扉が──」
王都の上空に巨大な扉が浮いています。
あれはシアドが去り際、口にしていた『重い扉』……?
扉の周りには王城に来る前に戦った、二人の上級魔族の姿もありました。
そして扉が開け放たれる。
扉の中から──闇が漏れ、王都の上空を覆います。
『貴様らとの戦いは、いい眠気覚ましになった。その礼にしばしの休息を与えてやろう』
魔王は振り返り、そう声を発します。
どのような手段を用いているか不明瞭ですが──魔王の声は拡散され、王都全域に響き渡るほどでした。
『妾は力を取り戻すため、もう一度眠りにつく。次に目覚めた時、今度こそ終わりだ』
地上では魔王の逃走を防ぐために、弓や魔法を彼らに浴びせようとしています。
しかし扉から放出される闇によって阻まれ、魔王の体に届くことすら叶いませんでした。
『そして──愚民どもよ。ここに一つ、宣言する』
魔王は眼下を眺め、こう告げます。
『本物の邪悪を見せてやる。本物の恐怖を味わわせてやる。本物の絶望を感じさせてやる。救いはない。安心しろ、妾が本当の世界平和を見せてやる』
私は結界魔法を張り、魔王を止めようと試みます。
しかし魔王の周りを漂う闇によって壊され、一つも実を結びませんでした。
『妾が世界の王となる。この世界の真の王は妾だ』
最後にそう言い残して。
魔王は扉の先に消えていきました。





