252・謎の上級魔族
「どうした? この程度か」
ドグラスが槍を肩で背負い、そう口にしました。
五分もかからず、私達は立ち塞がった魔族の大群を退け、シアドを追い詰めるまでに至っていました。
「なかなかやるじゃん。正直、もう少し時間が稼げると思っていたよ」
しかしシアドは余裕の態度を崩しません。
それとも、本当にこの状況を危機的なものと感じていないのでしょうか──。
「やっぱこれ、便利だけど使いにくいね。仕方がない。やられちゃうのも嫌だし、遊びはそろそろ──」
「させないっ!」
シアドがなにかをする気配を察したのでしょうか──レティシアがすかさず指先から呪いの弾丸を放ちます。
彼女の攻撃は、彼に一直線に伸び──。
「なに、巫山戯てるのかしら」
ズシャーーーーーン!
レティシアから放たれた呪いに同質のなにかがぶつかり、相殺されてしまいました。
それが放たれた方向に、私達は視線を移します。
「来てくれたんだね。助かったよ」
「いくら時間稼ぎが目的だからって、遊びすぎよ。なに考えてんの?」
「君から聞いていた呪術士の子が、どんなもんか見定めたくってね」
シアドと言葉を交わしている者──それは宙に浮かび、上空から私達を見下ろしていました。
頭からフードを深く被っているせいで、その顔は拝むことが出来ません。
しかし体つきから、女性に思えました。
「ほお? また面白い者が現れたな。第二の上級魔族か」
とドグラスの声。
突如現れた魔族を、ドグラスは一発で上級魔族だと見抜きましたが、それも無理はありません。
何故なら、その魔族から放たれるオーラは、他の者達とは明らかに違っていたのですから。
「レティシア、今のは……」
「うん……今のは呪いね。小癪な真似をするわ」
レティシアも上級魔族の攻撃手段を、そう結論づけます。
それにしても、どこかで見たことがあるような……。
気のせいでしょうか?
「ここから先は汝ら二体が、我らの相手か。丁度いい」
ポキポキと拳を鳴らし、闘志を滾らせるのはドグラス。
「次から次へと強敵が現れますね。しかし……この時のために、私は剣の腕を磨いてきた。望むところです」
とカーティスも戦う姿勢を崩しません。
クロードとレティシア──私も気を抜かず、上級魔族二体と対峙していました。
だけど。
「やる気十分なとこ、申し訳ないけど……僕はこれ以上戦うつもりはないよ。面倒だからね。それに──」
シアドは頭を掻き、彼の後方──王城へ顔を向けます。
「準備も整ったようだ。悪いけど、この勝負は僕達の勝ちだね」
「なにを──」
と私が言葉を発しようとした時でした。
「……っ!? これは?」
立っていられなくなるほどの、大地の揺れ。
同時に──邪悪な魔力が爆発しました。
それは幸いにもすぐに収まりましたが、この隙にシアドは跳躍。私達の手の届かない位置まで離れてしまいました。
「行くよ。ここでの目的は達成したし、僕達は扉を開けなくちゃならない。あの重い扉は、宰相一人じゃきついだろうから」
シアドは浮遊し、フードを被った魔族と同じ高さで停止します。
だけど呼びかけられた魔族は、微動だにしません。
一瞬見えた鋭い眼光は、何故だかレティシアただ一人に向けられていました。
「もう……借りを返したいのは分かるけど、僕達のやるべきことを忘れないで。ほんと、女性の扱いってのは面倒だな〜」
「あんた一人で行きなさい」
「そういうわけには、いかないよ。君の力が必要だ。君もあの子とはこんなところじゃなく、一対一で決着をつけたいだろう?」
「ちっ……」
シアドがそこまで言うと、フードを被った魔族が舌打ちをし、ようやく私達に背を向けます。
「待て! 逃すか──」
ドグラスが手を伸ばし、二人の魔族に追いすがろうとしますが──それは叶わず、体がぐらつきます。
私が彼を支えた瞬間、『竜の騎士』が解除され、元の姿に戻ってしまいます。
その間に、二人の魔族も遥か空へと消え去っていきました。
「くっ……時間切れか」
「ドグラス、自分の身を大切にしてください。『竜の騎士』が一度解かれれば、しばらく無理は出来ないんでしょう?」
「我は無理などしていない」
ドグラスはそう言いますが、疲労が溜まっているのがはっきりと分かりました。
「わたしもさすがに呪いの力を消費しすぎた。深追いは危険よ」
レティシアも悔しそうにしながらも、落ち着いてそう口にします。
「で、でも! あと一歩のところまで、上級魔族を追い詰めていた! もう一度戦っても、ボク達が勝てるはずだ!」
暗い顔をする私達を、クロードは必死に慰めてくれます。
ですが。
「……いいえ。あいつらも言ってたけど、あっちの目的は時間稼ぎだったんでしょ。特に──シアドって呼ばれてたかしら? あの魔族はちっとも本気じゃなかった」
悔しそうにレティシアが顔を歪めます。
「飄々と攻撃を躱わして、時間を稼いだだけ──そんな印象も受けましたね。最後、なにかをしようとしていましたし──まだ奥の手を隠しているんでしょう。あのまま深追いしても、返り討ちに遭っていたかもしれません」
カーティスも状況を冷静に分析します。
「……で、こんなところで、さっきの上級魔族について、いつまでも話しててもしょうがないし、これからどうすんの?」
とレティシアは私に問いかけます。
「私はこのまま王城に入り、ナイジェルと合流します」
「分かったわ──だけど、エリアーヌ。あんたも気付いたと思うけど、さっきの地震──」
「ええ、気付きました。地震と同時に、邪悪な魔力が爆発しました。あの魔力には心当たりがあります」
魔王──。
世界を危機に貶める邪悪な災厄を、言葉にするだけでも身が震えました。
今もなお、王城の中から邪悪な魔力の高まりを感じます。
一刻も早く、その原因を潰さなければなりません。
「我も行くぞ。雑兵ごときなら問題なく戦える」
「ありがとうございます、ドグラス。レティシア達はどうしますか?」
「わたしも行く──って言いたいところだけど、まだ街中は魔族で溢れかえっているわね」
そう言って、レティシアが辺りを見渡します。
「この状況は無視出来ない。わたし達はリンチギハムの騎士や兵士に加勢して、魔族を掃討する」
「レティシア様と同意見です。私はレティシア様とクロード様を護衛します」
「ボ、ボクだってレティシアを守る!」
レティシアとカーティス、クロードが順番にそう口にしました。
街の状況が気になって、戦いに集中出来ないかもしれません。
なのでレティシア達がそう申し出てくれるのは、素直に嬉しかった。
「ドグラス、行きましょう。猶予は残されていません」
「そうだな」
そう言って、私達は一旦レティシア達と別れ、王城に足を踏み入れました。





