231・二百年前、時の聖女の言っていたこと
フィリップ。
精霊の王でもある彼は、過去にファーヴと同じく、聖女である私の力を求めました。
その理由は瘴気に覆われた精霊の森──そして仲間達を救うため。
私はナイジェルと共に精霊の森まで向い、無事に瘴気を払うことに成功。それから彼らとは良い関係を築いていましたが──まさか、こんなところで繋がりがあったとは。
私達はすぐに精霊の森に行き、フィリップと対面しました。
「……そうだ。確かに俺は、二百年前に聖女シルヴィと会ったことがある」
事情を説明すると、フィリップはそう頷く。
「やっぱり……!」
予想が当たって、私はパンと手を打ちます。
昔は人間と精霊の仲が、今よりも良好だったと聞きます。
そして二百年前にも一度、聖女に助けられたことがある──と以前、フィリップが言っていました。
だからこそ、フィリップは当代の聖女である私の力を借りようと、探していたわけですね。
もしかしたらそれがシルヴィさんではなかったのかと考え、こうして足を運びましたが、無駄足にならなくてなにより。
「そうか……君がシルヴィのかつての恋人だったか」
とフィリップはファーヴを見ます。
「そして、そんなことがあったとは知らなかった。シルヴィは寿命を迎え、聖女の力は次の少女に受け継がれていたと思っていた。それが慣わしだったからな。聖女をも時の牢獄に閉じ込める、長命竜の力。想像するだけで恐ろしいよ」
「一度目の僕達は、長命竜アルターを前に手も足も出なかった……ってエリアーヌが言っていた。フィリップ、アルターの不死身の力を封じる方法を、なにか思いつかないかな?」
ナイジェルがそう問いかけます。
フィリップは考え込むように、目を閉じます。
そして開かれた瞳には、力強い光が宿っていました。
「あの時、シルヴィの言っていたことが現実となってしまったか」
「シルヴィさんの言っていたこと?」
「ああ。彼女は自分のことを、聖女として落ちこぼれだと言っていた。しかし私の本来の力は強大。誰かに悪用されてしまうかもしれない──と懸念もしていた」
時を操る能力。
彼女のおかげで、私は時を遡ることが出来ました。
発動条件は難しいし、時を遡る力は一度きりと言っていましたが、その力の強さは実感しています。
「だからこそ、彼女は自分の力を封じる術を設けていた。アル、マーズ」
『はーい』
『話をしている間に、じゅんびしたよー』
フィリップが指を鳴らすと、彼の隣に小さな光が現れます。
子ども精霊です。
彼(?)彼女(?)の二人から魔力の放出を感じ取ると、私の手元にはネックレスが載せられていました。
「これは?」
「それが時の聖女の力を封じる効果を持った道具。彼女は自分の力を危惧して、俺達に託してくれていた」
「どうして恋人であるファフニールではなく、精霊に託したのだ?」
ドグラスからそんな質問が飛びます。
「きっと、彼女は危険が迫っていることを、どこかで察していたのかもしれない。ならば、ファーヴにこれを託しては、誰かに強奪されてしまう可能性も考えていただろう。ゆえに一見、繋がりがなさそうな俺達に託したのかもな。真相は分からないが」
「…………」
ファーヴはシルヴィさんのことを思い出しているのか、なにも言葉を発しようとしません。
「ともかく、このネックレスをシルヴィの首にかければ、万が一のことがあっても力の放出を止められると言っていた」
「そ、そんなすごい道具が……でも、シルヴィさんは時の牢獄内にいると考えられます。どうやって首にかければ……」
「そこで、だ」
フィリップが手をかざし、ネックレスに魔力を注ぎます。
するとネックレスは弾け、一つ一つの塊となった、いくつかの宝玉が。
「これを竜島のいたるところに置け。そうだな……一つ一つの距離は離し、なるべく均等にした方がいい」
「どうしてですか?」
「アルターの体に宝玉を埋め込むのも一つの手だが、戦いの最中でそれは不可能に近いだろう。ゆえに竜島全体を魔力起動の道具とする。設置し終え、エリアーヌが魔力をもって発動すれば、アルターが恩恵を受けているシルヴィの力を封じることが出来る」
「そんな方法が──」
思いもしていなかった策に、私は感嘆の声を漏らします。
とはいえ、容易に出来ることではありません。
別行動を取るにしても、竜島に着いた時点で、私達の存在と位置はアルターに把握されるでしょう。
アルターの足止めをしつつ、竜島に宝玉を設置していく。
それがどれだけ困難なことか──だけど不可能ではありません。
とうとう辿り着いたアルターの不死身を封じる術に、私だけではなく、ナイジェルやドグラスの顔も明るさを取り戻しました。
「ありがとう。この礼はいつかするよ。すぐに王城に戻って、作戦の打ち合わせをしよう」
ナイジェルが立ち上がる。
もっとフィリップと話したいですが……そんなことをしている猶予は、私達に許されていません。
フィリップの前を去ろうとすると、
「じゃあ、またあとでな」
彼はぼそっと、そう言いました。
「え?」
「いや──なんでもない。独り言だ」
そう言って、フィリップは視線を外してしまいます。
一体、なんだったんでしょうか?
不思議に思いましたが、それを問いただしている時間はなく、私達は精霊の森を去りました。





