229・光の聖女の力を借りて
そして私達は急いでリンチギハムの王城に戻ってきました。
さっきからバタバタです。
だけど弱音を吐いてはいけません。
刻一刻と、タイムリミットが近付いているのですから。
だからこそ、私は彼女を急いで探します。
幸運にも、彼女はまだ中庭にいました。
「エリアーヌのお姉ちゃん?」
彼女──セシリーちゃんが私達に駆け寄ってきて、首をかしげます。
彼女の後ろにはラルフちゃんとアビーさんもいます。
どうやら、ラルフちゃんの声を聞くため、特訓を続けていたようです。
「あっ、探してた人は見つかったんだね」
「ええ、おかげさまで」
「でも、どこかに行ってたんじゃ……? ドグラスに乗って、ここを出発するのを見てたの」
目をクリクリさせます。
愛らしい顔。
彼女の顔を見ていると、つい抱きしめたくなってしまいます。
しかし──彼女はただ可愛いだけではありません。二人目の聖女として、魔王を封じる一助となっているのです。
『しなければならないこと? もしかして、なにか事件なの? セシリーの助け、必要?』
数時間前──私がドグラスと話をしようと、中庭に通りがかった時。
セシリーちゃんは、私にそう言ってくれました。
彼女を巻き込んではならない──そう考えた私は「私達で解決しますから」と、その申し出を断りました。
でも一度目では、私達でシルヴィさんを救えず、アルターに敗北したのです。
だから──。
「セシリーちゃん」
彼女と視線の位置を合わせるため、私はその場にしゃがみます。
私は生来、一人でものごとを解決しようとする悪い癖がありました。
そのせいで、ナイジェルにご迷惑をかけたことも多々。
もしかしたら、私もファーヴと似ているところがあるかもしれません。
だけど──私は一人では無力。
みんなの力を借りて、ようやく戦いの舞台に上がれるのです。
迷いを振り切り、私はセシリーちゃんにこう頼みました。
「お願いします。あなたの力を貸してください」
王城内には特別に設けられた宝物庫があります。
その中心に鎮座するように──神剣は床に刺さっていました。
「僕がここに来るのは初めてだ」
宝物庫に入るなり、ナイジェルが声を発します。
神剣はナイジェルとの親和性が高い。
だからこそ、魔王に体が乗っ取られてしまう可能性を考え、ナイジェルは宝物庫に近寄ろうとすらしなかったのです。
しかし今回はそれを逆手に取ります。
「もし、魔王に体を乗っ取られても、我が汝の目を覚まさせてやる」
「俺もその力になろう」
ドグラスとファーヴも緊張感を募らせます。
ファーヴは神剣を両手に顕現し、いつでも戦えるように構える。
「にぃに、心配する必要はないの。魔王なんて、セシリーとお姉ちゃんの二人で『めっ!』してあげるから!」
「うん、セシリーもありがとう」
ナイジェルはセシリーちゃんを見て、柔らかく微笑みます。
魔王に話を聞くため、一時的に封印を解く必要があることは、避けられません。
そのためにまず、ナイジェルが神剣を握り、わざと魔王の魂をその体に降臨させます。
しかしそれだけでは、ナイジェルが魔王に完全に乗っ取られてしまう可能性があります。なのでそうならないように、聖女の力で魔王の動きを制限しなければなりません。
魔王の恐ろしさは、身をもって実感しています。
私だけで十分──と過信出来ません。
だから私は、二人目の聖女──セシリーちゃんの助けを借りることにしました。
彼女の力は不十分ながら、光の力によって邪悪なものを浄化し、制御する力に秀でています。
それは《白の蛇》の事件の際、セシリーちゃんは魔王を神剣に封じ込め、ナイジェルを救ったことからも分かります。
そんな彼女と一緒なら、なにも怖いことはありません。
「じゃあ、いくよ」
「お願いします」
私がそう答えると、ナイジェルは神剣の前に歩み寄りました。
「……っ」
そして覚悟を決めて、神剣を引き抜きます。
その瞬間──神剣から闇が発生し、ナイジェルの体にまとわりつく。
「く……っ!」
ナイジェルの顔が苦痛で歪みます。
「セシリーちゃん!」
「分かったなの!」
私とセシリーちゃんは手をかざし、ナイジェルに光の魔力の矛先を向けます。
光と闇が衝突し、せめぎ合う──。
「強い……っ!」
「なの……」
闇に押し込まれ、光がジリジリと後退。
ナイジェルから這い出た闇は触手のような形となり、私達目がけて飛んできます。
すぐに結界を張ろうとする──しかし。
「おっと」
「ここから先は行き止まりだ」
ファーヴとドグラスが私達の前に立ち塞がり、闇の触手を払いました。
「魔王の残り滓なら、こんなものか──エリアーヌ、セシリー、これは魔王の力の片鱗が、漏れ出たものだ」
「こいつらは俺達に任せて、君達は闇を抑え込むのに集中してくれ」
「はい!」
「分かったなの!」
セシリーちゃんも元気よく返事をします。
ただ、漏れ出ただけだというのに、なんという力──あらためて魔王の恐ろしさに戦慄しました。
私達は二人に言われた通りに、さらに集中力を高めます。
ナイジェルの体を、光の鎖で闇ごと拘束します。彼はしばらく鎖を引きちぎろうと暴れていましたが、唐突に静止し、顔を伏せます。
そして彼が顔を上げた時には──瞳には光が宿っていなかった。
ゆらゆらと揺れる体の動きは、夏の陽炎を思わせます。
「──妾を目覚めさせたのは、貴様らか。なんの用だ」





