228・呪いのスペシャリスト
「はあ〜〜〜〜、あんた達ったら……」
レティシアが深い──ふかーーーーい溜め息を吐き、私達にこう言います。
「一体だけならともかく、二体も同時に現れたら、こっちとしてはてんてこ舞いよ。来るんだったら来るで、事前に連絡が欲しかったわ」
「す、すみません。そういう状況でもなかったので……」
──みなさんと再び意思を一つにしてから。
私達はベルカイム王国に向かいました。
魔法の方面からでは、アルターを打ち崩せない。
ならば、呪いなら──と考えたわけですね。
だけど情けないことに、私は呪いの専門家ではありません。
なので一流の呪術士であるレティシアに、話を聞くべき。
急いでいたので、私達はドラゴンに戻ったドグラスの背に乗り、ファーヴもドラゴンとなってベルカイムの王城に辿り着きましたが──王都に住む人達を驚かせてしまったみたいです。
「……で。急いでいるんでしょ? なにか相談したいことがあるなら、さっさと言いなさいよ」
先ほどのことを水に流してくれて、レティシアは話の続きを促します。
「はい、実は……」
私達は事の顛末を、レティシアとクロードに伝えました。
するとレティシアは顎に手を当て、少し考えてから。
「なるほど……ね。確かに、そういうのはわたしの方が得意分野っぽいわね」
「だったら──」
「でも、あんたの望む答えは渡せない。きっとそれは呪いじゃない。長命竜の攻撃を、事前に防ぐ手段はない。攻撃をなんとか避けるか、結界を張るしか対策はないでしょうね」
「そう……ですか」
レティシアの言葉に、私は肩を落とします。
「あと──これはあんた達にとって、残酷なことになるかもしれないけど」
彼女はさらに言葉を重ねます。
「呪いじゃないと思う──って言ったばかりだけど、仮に黄金のブレスが呪いに由来するものだとしましょ。それでも、呪いってのは二百年も保つもんじゃない。例外はあるけどね。二百年前にも長命竜は周囲のドラゴンや木々を、黄金に変えていたんでしょ?」
「ああ」
とアルターが相槌を打ちます。
「だけど二百年ぶりに訪れた竜島では、時の聖女の形をした黄金以外は残っていなかった。二百年は保たなかったってこと。つまり例外的な呪いじゃない」
「ということは……」
「ええ。一時的に黄金になっていたとしても、そのままだったら途中で人間の姿に戻って、寿命を迎えたんじゃないかしら?」
それはアルターの「時の聖女は既に死んでいる」という言葉を、裏付けるものとなってしまいました。
視線を隣に移すと、ファーヴは暗い顔で俯きます。
彼になんと言葉をかけていいか分からず、口を噤むしかありませんでした。
「だが──時の聖女は力を発動し、エリアーヌは時を遡った。そのことは事実だ」
しかしその雰囲気を払拭するように、今度はクロードが口を開きます。
「ならば生きているという説も、自然な考えだ」
「だが、人間の寿命は二百年も保たん。どうやって生きているのだ?」
ドグラスが疑問を発します。
その疑問に、ここにいる誰もが答えることが出来ません。
ですが──。
「ここに来るまでに、考えていたことなんだけど」
ナイジェルが思案顔になって、こう言いました。
「ファーヴは時の牢獄に閉じ込められていたんだよね?」
「その通りだ」
「そこは確か、こことは次元が歪んでいて、時が静止したような空間なんだっけ?」
「それも正解だ。だが、そのことが今となんの関係が……」
そこまで言って、ファーヴはハッとした表情になります。
シルヴィさんは時の牢獄に閉じ込められている。
その可能性が私も頭に浮かび、手を叩きます。
「そうです! その可能性がありました!」
「エリアーヌから話を聞くに、アルターは慎重なドラゴンだ。ならば、シルヴィさんを殺すのではなく、利用する──と考えて、ファーヴとは違う空間に存在する時の牢獄に閉じ込めたかもって思ったんだ」
「シルヴィが生きている──」
灯った希望の光に、ファーヴの顔色も明るくなっていきます。
「うむ、そう考えるのが妥当だろう。ならば我々のすべきことの一つは決まった。その牢獄から時 の聖女を救い出せばいい」
とドグラスは腕を組み、そう口にします。
「ですね。とはいえ、現状は時の牢獄からどうやって救い出せばいいのか……」
そして──その方法を悠長に探している猶予もありません。
うーんと頭を悩ませます。
ですが、この時──。
「……魔王だ」
ぽつりと。
ファーヴが忌々しい存在の名を口にしました。
「アルターは魔王を恐れていた。この二百年間、特に大きい動きを見せていなかったのも、魔王の存在があったからだ。魔王ならなにか知っているかもしれぬ」
「ファーヴ! グッドアイディアだ!」
とナイジェルが指を鳴らします。
それに──魔王が倒された歪みによって、ファーヴは時の牢獄から解放されたとおっしゃっていました。
世界を滅さんとするばかりの強大な力の喪失、それを再現することは不可能に近いと思いますが、魔王が鍵を握っていることは確かそう。
「しかし、魔王は君達の手で打倒された。それなのに──」
「いえ、魔王はまだ生きています」
力強い言葉で、私はファーヴに教えます。
ベルカイム王国に封印されていた魔王──私達は魔王を倒し、世界に平和が訪れたと思っていました。
ですが、魔王は自分が倒された神剣の中に潜み、《白の蛇》事件で私達に牙をむいたのです。
魔王を完全に倒しきれないと悟った私達は、ひとまず神剣に封じ込めたままにすることを決めました。
神剣は使えないままですが、今もリンチギハムの一室で、魔王と共に封印されています。
「そうね。魔王といったら、あの呪いにも昇華した怨念は現代にも残っていたわ。二百年……いえ、それ以上に残っている例外的な呪い。なにか、ヒントが得られるはずよ。だけど──」
レティシアも私の意見に賛同してくれましたが、一転して心配そうな声音になります。
「教えてくれるかくれないかは、この際一旦置いておいて──魔王に話を聞くってなら、一時的に封印を解かないといけないんでしょ? 大丈夫かしら」
「……その通りです」
始まりの聖女の力を得てもなお、私達は完全に魔王を消滅させることが出来ませんでした。
ベルカイム王国を襲った恐怖は、今もなおレティシアの胸にも深く刻まれているんでしょう。
彼女が心配するのも無理はありません。
「だけど、他に方法を探している時間はない。リンチギハムにはこんな言葉がある。『大きなことをやるなら、時には危険に飛び込む必要がある。さすれば、思った以上の利益が得られる』……って」
「まさに今がその時だということだな」
ナイジェルが言ったことに、ドグラスも好戦的な笑みを浮かべます。
魔王はただ強いだけではなく、狡猾。
《白の蛇》事件でも、ナイジェルを騙し彼の体を乗っ取ることによって、再び世界に災厄をもたらそうとしました。
私だけでは、魔王と交渉するには力不足かもしれません。
「やはり……彼女の力を借りる必要がありそうです。リンチギハムに戻りましょう」
と私が席を立とうとすると、
「……気になるな」
クロードが呟きました。
「なにがだい?」
ナイジェルが問います。
「いや……長命竜が二百年間、大きな動きを見せなかった理由だ」
「ファーヴは、アルターが魔王を恐れていたからって言ってたけど?」
「不死身の力を得るために、時間が必要だったとも考えられます」
「そうなんだけど……なんか違和感が残る話でな。ボクにしたら、長命竜が時が来るのを待っていたようで──」
しかしそこでクロードは首を横に振って、
「すまん、ボクの考えすぎだ。忘れてくれ」
と話を打ち切ります。
考えすぎだと言っていますが、クロードはたまに勘が鋭いところがあります。
もし分かるなら──魔王に聞いてみるのも、よさそうですね。
「なんにせよ、お二人とも──ありがとうございます。希望が湧いてきました。全てが終わったら、またあらためてお礼をさせてください」
「これくらいお安いご用よ」
「また僕達の助けが必要になったら、言ってくれ。応援してる」
私達は別れを告げ、王城を去りました。





