227・かつての仇敵は、今では味方のようです
「レティシア、大事な話があるんだ」
ベルカイム王国の王城。
その一室でクロードが真剣な声音で、レティシアに話を切り出していた。
「なーに?」
呆れ気味に、レティシアは返事をする。
ちなみに、レティシアの視線の先はクロードではない。彼女はファッション雑誌を読みながら、クロードに対応していた。
「先日の結婚式、素晴らしかった」
「うんうん。色々と事件はあったけど、結局は上手くいってよかったわね。わたしも一生に一度の晴れ舞台を、ああいう形で迎えられてよかったと思ってるわ」
「だろ? だから、あらためて──君に言うことがあるんだ」
コホンと一つ咳払いをして、クロードは両腕を広げる。
「レティシア! 愛している! これからも君のことはボクが守る!」
──と、散々もったいつけて、クロードは言った。
言われることを大体予想していたレティシアは、ここで溜め息を吐く。
「なに、あらたまってんのよ!? ってか、それを言うのは何回目?」
「そうだったか? ボクが覚えている限り、結婚後は十回くらいしか言っていないと思うが……」
「十三回よ──あんたもよく飽きずに、そんな恥ずかしいことを何回も言えるわね」
とレティシアはようやく雑誌から視線を上げる。
「ちゃんと覚えててくれたんだね! 君のためなら何度でも言うよ!」
「ああ、もう! うっさい!」
感極まって抱きつこうとするクロードを、レティシアは右手で押し返した。
クロードとレティシア。
クロードはベルカイム王国の第一王子であり、このままいくと近い将来に王位に就くことになる。
そしてレティシアは、そんな彼の結婚相手であり、王太子妃でもあった。
元々はエリアーヌがベルカイム王国追放となった、きっかけを作った少女。
一流の呪術士であり今までエリアーヌ達を苦しめたこともあったが、改心してからは彼女達の味方になっている。
(なんか結婚してから、さらに情熱的になったような……そういえば、ナイジェルもそうだったみたいだし、男ってみんなこうなのかしら?)
呆れるレティシア。
とはいえ、「愛している」と言われた回数を律儀に覚えているので、レティシアもレティシアでのろけているのだが──彼女にその自覚はない。
「レティシアはどうだい? もしかして、僕のしつこさに嫌気が差したんじゃ……」
クロードが不安そうに、レティシアを見つめる。
「そんなこと思ってないわよ。結婚式で、あんたの頼もしいところを見たところだしね」
再び溜め息を吐いて、先日の結婚式を思い出す。
──ボクはレティシアを絶対に離さない!
かつての恩師、ディートヘルムに追い詰められて。
レティシアは城の屋上から、自ら落下した。
それは自分がクロードにふさわしくない女だと思い、彼の身を案じたからである。
だが、そんなレティシアをクロードは追いかける形で自分も飛び降り、彼女を抱きしめた。
心配ないよ、大丈夫。
君を好きになって本当によかった。
このままでは死という運命には抗えないというのに──。
あの時のクロードは、そう言わんばかりの笑顔をレティシアに向けた。
今まで、クロードのことを「ちょっと頼りないな」と思ったことは、一度や二度じゃない。
しかし結婚式の一連の出来事にて、レティシアはクロードをあらためて見直したのであった。
「頼もしいところ? 結局、エリアーヌ達に助けられっぱなしだった気もするが……」
「そんなことないわよ。あんた、忘れたの? あんたがわたしの呪いの力に適合したことを」
レティシアがクロードに呪いを付与することによって、彼は覚醒した。
本来、呪いは女神の加護のように、誰かに力を与えるものではない──それなのにどうしてクロードが適合したのか。
(あとから思い出したけど……クロードって、前代聖女の子どもなのよね)
ゆえに彼にも呪いの耐性が引き継がれていた──そう考えると辻褄が合う。
「まあ……ボクは最後の最後、ディートヘルムに隙を作っただけだ。ボクだけではディートヘルムを止められなかった」
「なーんで、あんたは急に自信をなくすのよ!? 昔のあんたはもっと……なんていうか、自己肯定感が高かったじゃないの」
「今思えば、昔のボクも取り繕っていただけで、本来はネガティブだった気もするし……」
うじうじと言うクロード。
捨てられた子犬のようなクロードを見て、レティシアは母性本能をくすぐられたのか、思わず彼を抱きしめた。
「いい? あんたは素晴らしい男よ。わたしなんかには、もったいないくらいにね。わたしが愛した男なのよ? もっと自信を持ちなさい」
「レ、レティシア〜〜〜〜〜!」
クロードが情けない声を上げて、彼女の胸に顔を埋める。
(このやり取り……もう何度目になるか分からないわね)
だが、さすがに恥ずかしさが増してきた。
クロードを引き離そうとすると……。
「クロード殿下!」
一人の騎士が慌てた様子で、部屋に駆け込んできた。
「ノ、ノックもなしに、いきなりなんだ!?」
「す、すみません」
騎士の男が萎縮する。
クロードも騎士の不躾な行為を嗜めているというより、単純にいちゃいちゃしているところを見られた恥ずかしさで、声を上げている節があるが。
「ま、まあいい。それで……なんだ? なにか報告があって、ボクのところに来たんだろ?」
「はっ!」
彼は姿勢を正し、こう告げた。
「王都の上空にドラゴンが現れました!」
「そっかあ」
切羽詰まった騎士とは対照的に、クロードは生返事である。
一方。
(なんかこの光景、一回見たことがあるわね……)
レティシアは結婚するより、ずっと前──エリアーヌを追放した日のことを思い出していた。
「君は確か、最近この城に配属された騎士だったな」
「そ、そうですっ!」
「なら知らなくてもしょうがないと思うが、それは多分、ボク達の友人だ。名をドグラスという」
「ゆ、友人!? クロード殿下はドラゴンと、友好関係を築いていたのですか! 素晴らしいですっ!」
キラキラと目を輝かせる彼。
クロードは「そ、そうか?」と、ちょっと得意げだ。
「さすがクロード殿下です。まさか一体だけでもすごいのに、二体もドラゴンを手懐けているとは!」
「……ん?」
騎士の言葉に、クロードは引っかかった様子。
「おい。今、なんと言った? 二体と聞こえたんだが」
「はい。二体です。上空に現れたドラゴンは二体です。だからますますクロード殿下のすごさが際立ち──」
彼が言い終わるのを待たずに、クロードは急いで声を上げる。
「ゆ、友人なのはドグラス一人だけだ! 二体目のドラゴンがいるだなんて、聞いてないぞ!」





