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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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226・恋人を救う正義の騎士

「あなたは本気でシルヴィさんを救おうと思っているんですか?」



 すぐにその問いかけに対する答えはファーヴから返ってこず、食堂には静寂が流れます。


 しかしやがて、ファーヴが口を開き、


「なにをバカなことを言っている!」


 と私に迫ります。


「俺は、シルヴィを救いたいと本気で思っている! そのためなら君達を利用してでも、シルヴィを救おうとした! 誇り高きドラゴンにとって、それがどれだけ辛いことなのか──君には分かるまい!」

「その結果が、アルターに利用され、自分が死んで問題を先延ばしにすることしか出来ない──いわば詰みの状況を生んでしまっても……ですか?」

「そ、それは……」


 ファーヴが怯みます。


「シルヴィさんを救うために、本気で考えましたか? 心のどこかで本当はシルヴィさんは死んでいると気付いていたのでは? でもそれを信じたくないから、アルターの言葉にしがみついた。それが一番、楽な方法だったから──」


 捲し立てるように、私はさらに続けます。


「恋人を救う正義の騎士。確かに、それは耳障りのいい言葉でしょう。しかし結局あなたは、恋人を救う自分に酔っていただけなのでは? シルヴィさんを救うための方法を本気で考えず、都合のいい言葉だけを信じた。全てが甘すぎる。それが今のあなたです」


 ファーヴは心当たりがあるのか、なにも反論出来ず、私の話に耳を傾けていました。



「お、おう……エリアーヌ、なかなかきついことを言いよるな」

「エリアーヌは優しいけど、言うべき時は言う強い女性だからね。君もそれは何度か実感しているだろ?」



 視界の片隅で、ドグラスとナイジェルが話しています。


 強い女性。

 ナイジェルはそう言ってくれています。

 だけど私はそんなに立派な人間ではありません。


「きついことを言いました。すみません」


 私は頭を下げて、


「ですが、甘いというのは私も同じです。私は自分が腹立たしい。自分に酔っている──それは私も同じだったんでしょう」


 そう言って、私は彼の両手を包み込むように握る。


「だからこそ、ちゃんと情報を精査することもしなかった。信じることは力──その考えを曲げる気はありませんが、{一度目}の私は軽率すぎます」


 頭の痛くなる話です。

 だから私は失敗しました。

 ファーヴに言った言葉は、全て自分に跳ね返ってきます。


「だからこそ……今度は間違えません。シルヴィさんを救う。そのためにファーヴ──私達に再度力を貸してくれますか?」


 真っ直ぐ、ファーヴの目を見つめます。


 彼は少し悩んでから、こう口を動かしました。


「……分かった。目が覚めた。君の言葉を信じよう。そもそも、アルターを信じて君の言葉を信じない道理はないからな。裏切り者の俺をまだ信じてくれるなら、君達に力を貸す」


 そう答えてくれて、私はほっと一安心。


「というわけで──ナイジェルとドグラスも、引き続き彼と協力関係を築く……ってことでいいですか?」

「もちろんだよ」

「我もだ。色々と納得出来ないところもあるがな。だが、こういう時の汝を説き伏せられないのは、今に始まったことではない」


 ナイジェルは即答。

 ドグラスは少し複雑そうな表情を浮かべながらも、頷いてくれました。


「ファーヴ、アルターからの指示を、私達に詳しく話してくれますか? もう隠し事はなしですよ」

「わ、分かった」


 そう言って、ファーヴは語ってくれました。



 アルターはファーヴを利用して、私の聖女としての力を確かめていました。

 ベルカイム王国でもファーヴは私達を助けつつ、聖女としての力を見定めていたわけですね。


 その目的は達成されましたが──一つだけ、不明瞭なことがありました。

 それが私が世界中の街や村々に張った結界。


 当初、アルターは一人でリンチギハムに向かい、結界の力を確かめ、自らの手で私を攫おうと考えていました。

 しかしそれでは被害が広がってしまう。私以外にも犠牲になる人が現れるかもしれない。


 そう考えたファーヴは自分が私──聖女を竜島に連れてくるとアルターに約束しました。

 そうすることによって、なるべく被害を外に広げないようにしたんですね。

 アルターもシルヴィさんという人質がいるので、ファーヴが裏切ることはないと考えたのでしょう。


 アルターはその申し出を承諾し、一方のファーヴはリンチギハムに向かった──。

 


「……ということだ」


 とファーヴは息を吐きます。


「し、しかし、シルヴィが既に死んでいるなら救うもなにもないのでは……?」


 続けて問いかけるファーヴの声は、恐怖で震えていました。


「アルターの言葉を信じる必要はない──と、もう気付いたでしょう? 私はまだ、シルヴィさんは死んでいないと考えています」


 と私が答えると、ファーヴの瞳に希望の光が宿ります。


「そうじゃないと、シルヴィさんの力が発動した説明がつきません」

「残留思念……みたいなものが残っていた可能性は? 強力な魔力や呪いは、死後になっても残るって君から聞いたことがあるけど?」

「いいえ」


 ナイジェルが疑問を口にしますが、私は否定の言葉を紡ぎます。


「たとえそうだとしても、あの時に見たシルヴィさんは私達になにが起こったのかを知っているようでした。そして──場所については知れなかったものの──今でもどこかで私達を見守っている、そう思わせるような言動だったのです」


 ですが、シルヴィさんは二百年前の人物だったはず。

 ドラゴンであるファーヴやドグラスは別にして、シルヴィさんはただの人間。


 どこかに閉じ込められていたとしても、とっくに寿命が尽きているはずですが──。

 もう少しのところで答えが出そうですが、なかなかはっきりとせず、私はむず痒い気持ちになりました。


「だから、ファーヴ。希望を捨てるのは早いです。みんなで運命に抗いましょう」

「あ、ああ、そうだな。君に諭されるとは……本当に俺は不甲斐ない」


 と言って、ファーヴは暗い表情をします。


 薄々思っていましたが──実は彼、後ろ向きな性格かも知れません。

 だからこそ、一人で突っ走ってしまう傾向があるのでしょう。


「ファーヴ、もっと顔を上げてください」


 私はファーヴの顎をくいっと上げます。


「そんなんじゃ、シルヴィさんと再会した時にがっかりされますよ? きっとシルヴィさんは、あなたの頼もしい姿を見たいでしょうから」

「君は──シルヴィが生きていることを、心の底から信じているんだな」

「当然です」


 そうでないと、ここに戻ってきた意味がありませんから。


「……分かった。君がそうなんだ。俺も悪い方向に考えるのはやめる。シルヴィを救う──そのために前を向く」

「その意気です。いい顔になりましたね」


 ファーヴの表情が勇ましくなったのを見て、私は手を離しました。


「汝ら、忘れているかもしれんが、問題はそれだけではない。時の聖女を救い出せても、アルターが残ったままなら、どちらにせよ我々に危機が訪れる」

「忘れていませんよ。アルターを倒すための術を考えなければいけませんね」


 一度目のことを思い出す。


 黄金のブレスを吐き、殺したとしてもすぐに蘇ってしまう不死身のドラゴン。

 なんの策も講じずにアルターに立ち向かった私達は、無惨にも敗北してしまったのです。

 あれが外に放たれれば──魔王を超える災厄が、世界中で起こることは確定的です。


「ファーヴ、アルターには私達を連れてくるように言われていると思いますが──あまり時間が空いては、アルターに怪しまれるんでしょう?」

「その通りだ」

「時間をどれだけ稼げますか?」

「アルターは今日中だと期限を言っていた。とはいえ、どこまで信じていいか分からない。せめて、夜になるまでには、竜島に辿り着いておきたい」


 今のところ、私達の優位点といえば──アルターが私を()()()()()ところ。

 不死身という能力に、絶対の自信を持っているんでしょう。

 それは確かに、打ち崩せない絶望的な壁ですが──だからこそ付け入る隙がある。

 アルターが私達の実力を見誤り、すぐに行動を起こさないなら、それを逆手に取るべきです。


「時間の猶予はもらった。だが、たった半日の間に、倒す手段を考えなければならないのか……」


 ドグラスが難しい顔をします。


 アルターは強大。

 倒すための答えを、私はまだ見つけられずにいます。


 だから。


「別方面から探ってみるのも、一つの手だと思うんです」

「別方面?」

「はい。仮に不死身ではなかったとしても、アルターは強い。彼の吐く息は、全てを黄金に変えてしまいます。あんな魔法は存在しません」

「では、ドラゴン固有の力なのか?」

「そうとも考えれます。ですが、魔法以外にも似た力は存在します」


 それは怨念を源にする力。

 先日にも、私達はその強大な力に打ち震えました。


「呪いのスペシャリストに意見を仰いでみましょう。なにか分かるかもしれません」


 私はある女性の顔を思い浮かべながら、そう口にしました。

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