225・二度目
時が遡り、私が見たのはいくつもの時計の針が巻き戻っていく情景。
次の瞬間。
私は王城にいました。
「……? どうした、エリアーヌ。似合っていないか?」
目の前には私の作った花冠を被ったファーヴの姿が。
「ここが分岐点だったということですか」
どういう仕組みかは分かりませんが。
あの時に見た緑色の光は、やはりシルヴィさんのものでした。
「分岐点……? なにを言っている。不思議なヤツだ」
沈黙し考え事をしている私を見て、ファーヴはなにも分からずに目を丸くします。
「まあ、いい。そろそろナイジェルが戻る頃ではないか? 早く竜島に向かおう。こうしている間にも、シルヴィは一人寂しく待っている」
そう言って、ファーヴが私に背を向け歩き出そうとします。
シルヴィさんがくれた、もう一度のチャンス──。
こうしている間にも、ファーヴがどんどんと離れていく。
抗えない運命の大きな唸りを感じました。
時を遡ってきたと言っても、ファーヴは信じてくれるでしょうか?
そして仮に信じてもらえたとして、本当にアルターを倒す術を思いつくことが?
様々な懸念がありましたが、咄嗟に私は──。
「ダメ──ッ!」
服の袖を掴み。
私はファーヴを引き止めていました。
「なんのつもりだ……?」
ファーヴが怪訝そうな顔つきで、振り返りました。
一度息を吸い込んでから、私はこう告げます。
「お話があります」
その後、先ほど朝食を取った食堂まで戻り、私達は一堂に会していました。
メンバーは私とファーヴ──そしてドグラス、ナイジェルの四人です。
「長命竜アルターは生きています」
私がみなさんの前でそう告げると、ファーヴは椅子からガタッと立ち上がります。
「……っ!? 一体、なにを言い出す?」
「そういう演技はいりません。私はこの先に起こることを知っていますので」
慌てるファーヴに私が言葉を投げかけると、彼は絶句していました。
「……ファフニール、汝は我らを騙していたのか?」
静かな怒りを押し込め、ドグラスはファーヴに鋭い視線を向けます。
ファーヴは「くっ……」と声を漏らし、申し訳なさそうに伏し目がちになります。
「す、すまない。長命竜アルターが生きているのは事実だ」
「どうして、その情報を伏せていた?」
「アルターに命令され、私達を竜島に誘き寄せる必要があったから……ですよね?」
私が問いかけると、ファーヴは少し悩んでから首を縦に振りました。
ドグラスはとうとう我慢しきれなくなったのか、ファーヴに詰め寄ろうとします。
「ドグラス、落ち着いて」
しかしすかさずナイジェルがドグラスを制止します。
「ナイジェル、離せ! 我は裏切ったファフニールに断罪を下さなければならない!」
「ファーヴが嘘を吐いたことを、問い詰めるのは後だよ。エリアーヌ、まだ話は終わっていないよね?」
「はい」
ナイジェルの言葉に、私は頷きます。
私もまだ混乱しています。
だって時を遡るだなんて行為は、夢にも思っていませんでしたから。
頭の中で情報を整理しながら、私はゆっくりと語りだします。
「私は時の聖女──シルヴィさんの力で、時を遡ってきました」
一度目の私達はこのまま竜島に向かいました。
そこではシルヴィさんの形をした黄金が残っており、アルターとそのしもべ──アンデッドドラゴンが待ち構えていたのです。
そして、私達はアルターに「時の聖女は既に死んでいる」と告げられました。
「アルターの言ったことは、今でも全て覚えています。彼はドグラスのことを半人と称していました。混ざっている……とも」
「半人……」
私の言ったことに、ドグラスはなにか引っかかったのか考え込みます。
説明は続く。
不死身のアルターを前にして、手も足も出ずに。
ファーヴは自らの命を犠牲にし、魔核爆裂を起こすことによって、私達が逃げる時間を稼ごうとしました。
ですが、奇しくもそれがきっかけとなり、シルヴィさんの力が発動。
アルターを倒すための術を見つけるために、私だけが時を遡ってきたのです──。
そういうようなことを語り終えると、みなさん一様に驚いた様子でした。
「そんなことが……たった一度きりで数時間前とはいえ、時を戻せるのはすごいことだね。さすが時の聖女と呼ばれているだけあるよ」
「我らが長命竜アルターに敗北するというのは本当か? エリアーヌの言うことだから、信じるしかないが……」
ナイジェルとドグラスが口々にそう言います。
半信半疑といったところでしょうか。
とはいえ、真摯に説明した甲斐もあって、二人は私の言葉を信じているようでした。
だけど。
「俺は君の言うことを信じられない」
ファーヴは頭を押さえ、首を左右に振りました。
「確かに、シルヴィには時を操る力があったのは本当のことだ。だが、エリアーヌにはさっき言ったと思うが──彼女は自分のことを『聖女として落ちこぼれ』と言っていた」
「それはシルヴィさんからも直接聞きました」
「今まで一度も力を発動することが出来ていなかったんだ。それが俺のピンチに発動する? 信じられない。そしてなによりも信じられないのが──」
ファーヴが辛そうな表情をして、さらに続けます。
「シルヴィが既に死んでいる──という話だ」
「…………」
「他のことは信じたとしても、それだけは信じられない。シルヴィが死んでいるなら、俺はなにと戦っている? なんのために戦っている? なにを犠牲にしてでも、シルヴィを救おうとした俺の想いは? もし死んでいるなら、俺はもう戦う理由が──」
「ファーヴ」
話を遮り、私はファーヴの名前を呼びます。
なにを言われるのか見当がつかないのか、ファーヴはきょとんとした表情をします。
彼だって辛いのは分かります。
ファーヴはシルヴィさんを救うために動いていました。シルヴィさんが死んでいるなら、彼の行動原理そのものが否定されます。
だけど私は過去──いえ、未来の出来事を経験して。
ファーヴに、ある想いを抱いていました。
淡々と私はこう問います。
「あなたは本気でシルヴィさんを救おうと思っているんですか?」





