224・ハッピーエンド以外は認めないんですから!
「アルターに挑む前──その時間まで、私が時を戻します」
「そ、そんなことが可能なんですか!?」
思わぬ提案に、私は前のめりに問いかけます。
「時の聖女と呼ばれた私には、時を操る力があるとされていました」
時を操る力──。
それはファーヴからも聞きました。
「ですが、私は聖女として落ちこぼれ。今まで、一度もその力を発動することが出来ませんでした。今回も時を戻せたとしても、ほんの数時間だけ。しかもたった一度きりです」
「汝がそういう力を持っているなら、どうしてもっと早くに力を発動しなかった。落ちこぼれだかなんだか知らないが、そのせいで我々は追い詰められ、ファフニールは死んだ」
「力の発動条件は二つありました」
とシルヴィさんは指を二本立てます。
「まず一つ目。エリアーヌ──あなたの神聖な魔力。あなたがファーヴに花冠を被せた際、私の力があなたのものと反応し、少しだけ私の意思が漏れました。とはいえ、力の完全発動には至らなかったですけどね。
そしてもう一つは──それはファーヴの死亡。私はかつて、ファーヴに約束しました。彼に死ぬような危機が訪れれば、私が彼を助ける──と。たった一度きりしか使えない力。それを私はファーヴの最大の危機によってトリガーが引かれるように、仕掛けました」
「最大の危機──すなわち、ファーヴが死ぬ時ですね」
「その通りです。私にはこれが限界でした」
奇しくもファーヴの魔核爆裂は、時間を稼ぐだけではなく、シルヴィさんの力を引き出す要因になったということですか。
愛する人が死んだ時に、初めて発動する力──それは悲しく、そして儚く尊いもの。
「本当は私自身の手でファーヴを救いたい。だけど……私はここから動けない」
寂しそうに言ったのち、シルヴィさんの声は力強いものとなって、こう続けます。
「時間はもう残されていません。エリアーヌ──問います。あなたは時を遡り、アルターを打倒してくれますか? 私の代わりに──ファーヴを救ってくれますか?」
その問いかけに対する答えは、とっくに持っています。
私はこう即答します。
「──もちろんです!」
あんな終わり方だなんて、あんまりすぎる。
私、ハッピーエンド以外は認めないんですから!
「ありがとうございます」
安心したように微笑むシルヴィさん。
「……エリアーヌに任せるのが最善だな」
ドグラスも表情を柔らかくし、そう口にします。
「ドグラスも時を遡らないんですか?」
「我はファフニールを未だに信じきれていない。我が行っても、足を引っ張るだけだ。それに……そこの聖女の顔を見るに、時を遡れるのは神聖な魔力を使えるエリアーヌだけなんだろう?」
ドグラスの問いに、シルヴィさんは答えることが出来ません。
その沈黙が肯定だと感じました。
「ならば、どうして我がこの空間に来れたのだろうな。不可思議だ」
「それはきっと、あなたに後悔があったからですよ」
「我がか?」
「はい。あなたがファーヴに抱いている悔い──もっと他に方法があったんじゃないか。やり直したい。そのような強い想いが反応して、ここに来られたんじゃないでしょうか」
ファーヴのことを信じきれていないとドグラスは言います。
しかしファーヴが死んだ際のドグラスの表情を思い出すと、実は彼と仲直りしたかったんじゃないかと思えてきます。
「ふっ……面白いことを言うな。だが、答えはそれくらい単純なものかもしれぬ」
ドグラスは自重気味に笑い、
「あいつはバカなドラゴンだ。一人で大事なことを抱え込み、アルターに利用されてしまう。我が一番軽蔑するタイプだろう。だが、それでも──我の友であったことには変わりない」
私の顔を真剣に見つめ──。
「頼む、エリアーヌ。我が友を救ってやってくれ」
「はい、任せてください」
と私は力強く答えます。
「エリアーヌ、手を」
シルヴィさんが私を呼ぶ。
私は彼女の真正面に立ちます。
そして両手を握り、魔力を交じあわせました。
「私はあなたに全てを託すことしか出来ません。無力な私を許してください」
「なにを言うんですか。あなたのおかげで、私はやり直すことが出来ます。もし、二度目の世界でもあなたと出会えたら、私と友達になってくれますか?」
私が言うと、シルヴィさんは一瞬きょとんとした表情。
だけどすぐに柔らかな笑みを浮かべて、
「喜んで」
そう答えてくれました。
今度は間違えない。
ファーヴ──そしてシルヴィさんを救ってみせる。
強い決意を抱き、私は交わる魔力をさらに強いものとしました。
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