223・時の聖女
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大爆発。
爆発の衝撃が地上まで届き、地面を震わせます。
結界のおかげで大爆発の余波には巻き込まれませんでしたが、代わりに──。
「ドグラス! あなたが言っていることは本当ですか!? ファーヴが自らの命を犠牲にして、魔核爆裂を起こしたと──」
「その通りだ。そして……どうやら、策は成功したらしい」
ドグラスが空を見上げる。
ファーヴが命を懸けた大爆発。
その衝撃はすさまじいものがありました。
アルターは塵も残さず、消滅しました。
この衝撃に耐えられるものは、世界広しと言えども存在しないはず。
もしかしたら、これでアルターを完全に倒せたかもしれない──そんな希望を抱きます。
しかし災厄は消えなかったのです。
「ああ……蘇っていく……」
私達を嘲笑うかのように。
空に光が集まり巨大なドラゴンの形を作っていく。
この衝撃を受けてなお、アルターはまた蘇ろうとしているのです。
「エリアーヌ、逃げよう」
ナイジェルが私の手を取ります。
「で、でも……」
「ファーヴがせっかく作ってくれたチャンスを、不意にするつもりかい? 彼は僕達の未来に賭けてくれたんだ」
そう言うナイジェルも胸中では、悔しさが込み上げているのでしょう。
とても辛そうな顔をしています。
ファーヴの命を懸けた攻撃でも、アルターを完全に倒すまでには至りませんでした。
ですが、彼の目論見通り、アルターの再生速度が鈍い。
すぐに竜島から離れれば、一旦体勢を整えることが出来るでしょう。
「……分かりました。ドグラスも」
今、この場に留まっても、私達は全員アルターに殺されてしまうだけ。
そうなったら、ファーヴの死が無意味なものになってしまう。
だから私は歯を噛みしめ、その場を離れようとしますが、
「……なんでヤツはあんな顔をしたのだ」
──ドグラスが空を見上げたまま、ぽつりと声を漏らしました。
「ドグラス……?」
「死ぬとはいえ、かつての恋人のところに行けるなら、ヤツにとって本望じゃないのか。それなのに、どうしてあんな寂しそうな顔をした。我には分からぬ」
ドグラスは心ここに在らずといった感じで、立ち尽くしていました。
こんなドグラスの姿、今まで見たことがありません。
しかしそれを追及している場合でもなく、私はドグラスの腕を引っ張った──その瞬間でした。
「え……?」
私の胸に緑色の光が灯ります。
私はこれを、一度見たことがある。
リンチギハムの王城の裏手で見た、不思議な光です。
そしてそれは私だけではありませんでした。
「なんだ……この光は?」
ドグラスの胸にも同じ光が輝いています。
これは一体……?
戸惑っている間にも、緑色の光はその輝きをさらに強いものとしていきます。
そして光で満たされた時──私の意識が、ここから離れていくような感覚を抱きました。
◆ ◆
「ここは……?」
緑色の光で視界が満たされたかと思うと、次の瞬間には不思議な場所に立っていました。
まるで雲の上みたい。
立っているようで、立っていないような。
《白の蛇》の事件で、私が連れ去られた神界によく似ていると感じました。
そしてこの場所にいるのは私だけではなくて、
「どういうことだ?」
ドグラスもいました。
彼もこの謎の場所に、困惑しているよう。
「分かりません。先ほどの緑色の光が関係していると思うのですが……」
「なんにせよ、ずっとこの場所にいても仕方がない。ここにはいないナイジェルも気になるしな。ここから脱出を──」
ドグラスがそう言葉を続けようとした時でした。
「──よかった。ちゃんと発動してくれて」
第三の声が聞こえてきました。
きょろきょろと辺りを見渡すと、前方に緑色の光が。
それは徐々に形を変えて、一人の女性が現れたのです。
「あなたは?」
「私はシルヴィ。かつて、時の聖女と呼ばれた者です」
シルヴィ──。
ファーヴのかつての恋人。
その名前を聞き、私とドグラスはお互いに顔を見合わせます。
「なるほどな。あいつは言っていたが……どことなく、エリアーヌに似ている気がする」
「そうでしょうか?」
シルヴィさんと名乗った女性は、キレイな人でした。
自然と心を開いてしまうような、穏やかな空気を纏っています。
「どうして、あなたがここに?」
「そもそもこの場所はなんなのだ」
私達は続けざまに、質問を重ねました。
しかし。
「私は長命竜アルターに────そして私が今いる場所は────です」
シルヴィさん(?)の声は途切れ途切れで、肝心なところが聞こえません。
彼女は首を左右に振ります。
「やはり……ですか。私が今いる場所については、言葉に出来ないようです。アルターがなにか仕掛けているのかもしれません」
今いる場所?
シルヴィさんはやっぱり生きていた?
「そしてあなた達を、この場所に留めておくことも長くは無理でしょう。簡潔に伝えます」
私達が疑問を感じている間にも、シルヴィさんの話は続きました。
「長命竜アルターの力は強大です。二百年前、まだ不死身でないアルターにもファーヴは勝てなかった。今のあなた達でも勝てない。それは先ほど、実感したでしょう?」
シルヴィさんの言葉に、私は頷く。
ただでさえ強いのに、アルターは再生を繰り返す不死身のドラゴン。
仮にあの場所から逃げ通せたとしても、アルターは私達を諦めないでしょう。
体勢を整えたところで、簡単に勝てる相手とは思えません。
「ならば、我らに諦めろと言うのか?」
ドグラスが少し苛ついた様子で問います。
だけどそれにもシルヴィさんは首を横に振って。
「いいえ、違います。今回、あなた達も気付いているでしょう? なにも分からないまま、アルターに挑むことになってしまった──それがあなた達の敗因」
「その通りです」
ファーヴが早く竜島に行きたがっていたのは、アルターの目があったのも理由の一つでしょうが──なによりシルヴィさんを救いたいという気持ちが先走っていたためでしょう。
私達はろくに準備もせずに、竜島に向かうことになってしまいました。
今思えば、軽率すぎる行動だったと反省です。
「汝はこう言いたいのか? 一度リンチギハムに戻り、しっかりと準備をしてから再度アルターに挑めと?」
次にドグラスが質問します。
「ファーヴという竜島の外で動ける駒を失ったアルターは、もうなりふり構う必要がありません。どのような手段を用いてでも、エリアーヌを束縛しようとします。僅かな時間すらも与えてくれないでしょう。
それに──仮にアルターを倒せたとしても、ファーヴは蘇らない」
「ならば、どうすればいいのでしょうか?」
詰んでしまった状況に、私はシルヴィさんに答えを求めます。
「たった一つだけ方法があります。今度はアルターを倒す術を見つけてから、竜島に向かえばいい」
「だから! それが出来ていれば苦労はせん! いくら悔やんでも、やり直せぬのだ!」
ドグラスのイライラが爆発したのか、声に怒気を含ませてシルヴィさんに詰め寄ります。
ですが、シルヴィさんは微笑みを浮かべ、怯まずにこう告げます。
「アルターに挑む前──その時間まで、私が時を戻します」
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