220・VS アルター
エリアーヌが去ったあと。
ドグラス達は苦戦を強いられていた。
「くっ……!」
アンデッドドラゴンの攻撃を、ドグラスが防ぐ。
返す形で、拳の一撃をアンデッドドラゴンに繰り出した。
じゃっかんダメージは与えられたものの、倒れる気配がない。
「頑丈だな。ますます厄介だ」
内心、ドグラスは舌打ちをする。
戦っている最中、ドグラスの頭をよぎるのは、アルターが言った『半人』という言葉だ。
心当たりがない。
だが、アルターの言った言葉は呪いとなり、余計なことを考えてしまう。
「せめて聖水があれば……」
アンデッド系の魔物やドラゴンには、聖魔法が有効だ。
それが付与されている奇跡の水は、アンデッドドラゴン達にも有効だが……ないものねだりをしても時間の無駄である。
こんなものが出てくるのは知らなかったから仕方がないものの、ドグラスは準備不足を悔いた。
「おい、ファフニール」
アンデッドドラゴンから視線を切らず、ドグラスはファーヴ──ファフニールに声をかける。
先ほどから、ファフニールはアンデッドドラゴンを前に、大立ち回りを演じている。
そこに一切の邪念はない。
(どうやら、我らの味方になるという言葉は本当だったようだ)
だからといって、完全に信頼したわけではないが。
「なんだ?」
ファフニールから言葉が返ってくる。
「汝、なにを考えている?」
「まだ俺のことを信用ならんとでも言うつもりか?」
「そうではない。何度も同じ言葉を繰り返すほど、我は暇ではない。我が聞きたいのは違うことだ。汝、戦いに集中しきれていないな?」
無論、悔しいが──ファフニールの強さは本物で、これだけのアンデッドドラゴンを前にしても、押されていない。
だが、何度もファフニールと戦ってきたドグラスだからこそ分かるのだ。
今のファフニールは、もうどうなってもいい──そのような破滅願望を感じた。
それがファフニールが戦いに集中しきれていない理由でもあるのだろう。
「一応言っておくが、変な気は起こすなよ? 汝には贖罪が待っておる」
「……分かっている」
言葉を噛みしめるように、ファフニールが頷いた。
再び双剣を振るい、アンデッドドラゴンに向かっていく。
(我も他人のことを気にしている余裕はない。今はこやつらを片付け、早くエリアーヌ達のもとへ駆けつけなければ)
◆
「エリアーヌ! 大丈夫かい?」
「はい!」
ナイジェルに手を引っ張られながら、私はそう答えます。
島の頂上までの道は険しく、倒れてしまいそうになります。
だけど、ここで立ち止まるわけにはいきません。
息切れしながらなんとか頂上に辿り着くと、そこでは漆黒のドラゴン──アルターが待ち構えていました。
「来たか──“真の聖女”よ。待ちくたびれたぞ」
荘厳さすらも感じさせる空気の中、アルターはそう声を発します。
「エリアーヌを手に入れ、世界を支配する──って君は言ってたけど、本気かな?」
全長が視界におさまらないほどの巨体を前に、ナイジェルは一切臆さず、そう問いを投げかけました。
「いかにも。そのために儂はこの二百年間、耐えて時の流れに身を任せていた」
「そんなことが本気で出来ると思っているのかな? あの魔王ですら、出来なかったことだよ」
「魔王……か。ヤツの力は強大だった。しかし魔王は誤った。“真の聖女”と敵対したのだからな。敵対するくらいなら、真の聖女”の力を利用すればよかろうに」
そう言って、アルターは両翼を広げます。
「つまらぬ話をするより──さあ、戦おう。戦いの中でしか、お互いの主張をぶつけることは出来ぬ」
アルターが宣言し、戦いが幕を開けました。
「エリアーヌ! 加護を!」
「もちろんです!」
私はナイジェルに女神の加護を授けます。
ナイジェルは私を抱え、その場から退避。少し離れたところで私を下ろし、剣を抜いてアルターに立ち向かっていきました。
その光景はさながら、御伽噺の中にある邪悪なものと戦う勇者そのもの。
「シルヴィさんは本当に死んだのか?」
剣を振るいながら、ナイジェルはアルターに問いかけます。
「まだそのようなことを言っておるのか。嘘ではない。ヤツなら儂が直々に殺してやった。ヤツの悲鳴は、実に愉快だった」
とアルターが嘲笑混じりに言い放ちます。
戦いの最中も、その声は余裕に満ちていました。
──やっぱり、アルターは嘘を吐いている。
根拠は薄い。
だけどアルターの言葉の端々からは、なにかを隠しているような狡猾さを感じます。
なんとしてでも、アルターから情報を聞き出さなければ──そう思い、戦いに集中します。
「うむ……儂の言葉に疑念を抱くか? ならば、真実を語ろう。全ての幕が下りた後に──!」
背筋が凍るような嫌な予感。
アルターが大口を開けます。
──いけませんっ!
すかさず強力な結界を、ナイジェルの前に張ります。
アルターの深い喉から、ブレスが発射されます。
それは太陽の光を凝縮したような眩しさを放つ、黄金のブレスです。
黄金のブレスは結界に当たり──そして消滅。相殺される形となり、結界も壊れましたが、ナイジェルは無事です。
しかし。
「ああ……周囲が黄金に!」
ブレスに触れた地面。そして木々。
それらが黄金に変わり果てていました。
「一度きりとはいえ、我が黄金の一撃を防ぐか。やはり、貴様が“真の聖女”だという儂の見立ては正しいようだ」
攻撃が防がれたというのに、アルターは少しも焦らず、それどころか愉悦さすら感じさせる言葉を吐きます。
これがファーヴの言っていた、周りを黄金に変えてしまうアルターのブレスですか。
とてつもない威力です。
即席とはいえ、私の結界を軽々と破る黄金のブレスに、唖然としました。
「すごいね。でも……当たらなければ、どうってことはないよ!」
ナイジェルの持つ剣が、光り輝きます。
「はああああああ!」
跳躍。
アルターの頭上まで舞い上がり、そのまま光る剣を振り下ろします。
目にも止まらぬ早業にアルターは反応出来ず、剣の一閃をそのまま受け止めます。
両断され、断裂部分から光が発せられ、周囲を白く染め上げました。
「やりましたか!?」