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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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218・長命竜

 一瞬、周りの時が止まったように感じました。

 しかしやがてファーヴが慌てて私の両肩を掴み、そのまま揺さぶります。


「な、なにを言っているんだ!」

「……残念ながら事実です。これはあなたの愛するシルヴィさんではありません」

「な、なにかの間違いじゃないのか!? だったら、シルヴィは一体どこに……」

「ファフニール!」


 そんな怒りに満ちた叫び声が聞こえたかと思うと、ドグラスが私からファーヴを強引に離しました。

 ドグラスの表情は見たことがないくらい、怒りに染まっています。


「やはり、汝は我らを騙していたのか!? ただの黄金の塊を、かつての恋人と嘯くとは!」

「ち、違うんだ。俺はこれが本物のシルヴィだと、信じていた」

「ならば、エリアーヌが嘘を吐いているのだと言うのか!」

「それは──」


 ドグラスの声がますます怒りを帯び、今にもファーヴに殴りかかりそうです。

 いけない──そう思った私は、咄嗟にドグラスを止めようといますが、



「よくやった、裏切りの竜ファフニールよ。儂の目的──“真の聖女”をこれでようやく手に入れられる」



 威圧感に満ちた重低音の声が、島内に響き渡りました。




 その瞬間。

 周りがまるで夜になったかのように、暗闇に包まれます。


 空を見上げると──そこには一体の黒く、大きなドラゴンが突如として空に現れました。


 魔法で姿を隠していた……?

 それとも、別の場所から召喚されたのでしょうか。

 こんなに大きなドラゴンなのに、姿を現すまで誰も気が付きませんでした。


「どういうことだ!」


 ファーヴは一歩踏み出し、鬼気迫る表情で突如現れたドラゴンに叫びます。


「シルヴィは黄金のまま、生きているのではなかったのか! そしてお前はシルヴィを元に戻せるのは、聖女だけだと言っていた。だから俺は──」

「信じておったのか?」


 バカにするような口調で、漆黒のドラゴンが言い放ちます。


「そもそも儂が本当のことを言うはずもない。時の聖女は既に死んでいる。貴様に言ったことは、ここに聖女を連れてこさせるための嘘だ。実に愚かだ」

「そ、そんな……」


 ファーヴが愕然とし、地面に膝を突きます。


「絶望する者の顔は、どうしてここまで愉悦に感じるのだろうか。何度見ても飽きぬ。どれだけ時が流れようが、それは変わらぬ真理であるな」


 そんなファーヴを見て、漆黒のドラゴンは嘲ります。


「ファフニール、説明しろ。上空のドラゴンは一体なんなのだ?」


 ドグラスがファーヴの首根っこを掴み、彼を無理やり立たせます。


 ファーヴは力のない声で、こう答える。


「あれは長命竜アルターだ」

「なに? 汝は言ったではないか。時の牢獄から解放された時、既にアルターはいなかった──と」

「すまない。俺は君達に嘘を吐いていた」

「やはり汝は──!」


 そう告げるファーヴに、ドグラスが怒りを滾らせます。


 右拳を振り上げ、ファーヴに殴り──、


「待ってくれ、ドグラス。今はそんなことをしている場合じゃない」


 ──かかろうとした瞬間、ナイジェルに右腕を掴まれます。


「じゃあ、こういうことかな。黄金になったシルヴィを救うために、君は嘘を吐いた。本当は全て長命竜アルターに命令されていた……と」

「そうだ」


 ファーヴが短く答えます。


「いわば、シルヴィさんは人質だったというわけですか」


 もっとも、本物のシルヴィさんはここにはいないのですが。


 アルターはシルヴィさんを撒き餌にして、ファーヴを裏から操ろうとした。

 目的は私を竜島に連れてくること。

 しかし──ファーヴ自身も騙されており、シルヴィさんは既に死んで、ここに残されているのはただの黄金だった──ということ。


「君達には謝罪しなければならない。しかし……一点、信じてくれ。シルヴィさえ元に戻れば、俺の命にかけても君達を守るつもりだった。なんとしてでも、竜島から脱出させるつもりでいたんだ」

「そうだとしても、汝が長命竜に利用されていたのは違いない」

「──っ!」


 ドグラスの追及に、ファーヴは言葉を詰まらせます。


 気にかかるけれど、これ以上ここで彼を問い詰めても仕方がありません。

 今は目の前の脅威に向き合うべきです。


 私はファーヴから視線を切り、アルターを見上げます。


「あなたはなんのつもりですか? なにを考えファーヴを利用し、私達をここまで連れてきたのですか?」

「言っただろう。聖女──貴様が目的だ」


 嘲笑し、アルターはこう続けます。


「儂を頂点とした、ドラゴンだけの世界を築く──それが儂の目的だ。そのために貴様、“真の聖女”が必要だった」

「私の力を? 私がそう簡単にあなたに従うとでも?」

「無理やりにでも従わせるのみだ。そのための力を儂は有している」


 次に、アルターは邪悪に笑う。


「せっかく、“真の聖女”が来てくれたのだ。丁重に出迎えなければ、失礼にあたるだろう」

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