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213・チーズオムレット

 ドグラス達と別れ、私は王城のキッチンまで移動しました。


「ここで料理をするのも、慣れてきましたね」


 ベルカイム王国にいた頃から、私は料理を作るのが好きでした。

 リンチギハムに来てからも、少しでも時間が空けば、キッチンに立っていましたが……今まで様々な料理を作ってきましたねえ。


「そういえば、今回はフィリップの時と似ているかもしれません」


 精霊の王でもあるフィリップも、聖女──つまり私の助けを求めて、ベルカイム王国を訪れました。

 お腹を空かせている彼に作ってあげたオムライスは、今でも自信作だと胸を張って言えます。


「そうだ。朝ごはんはオムレットにしましょう」


 そうと決まれば、早速行動です。


 本来の朝食の時間とは少しずれているためか、キッチンには料理人の姿が少ない。

 これなら落ち着いて料理が出来そうです。


 私はてきぱきとオムレットの材料を集めます。鶏卵やこしょう、牛乳やクリーム。バターやチーズなどを用意します。

 ボウルに卵を入れ、調味料を加えてかき混ぜていく。

 フライパンを中火で温め、バターやオイルを入れて溶かす。その後、卵液をフライパンに流し入れ、中火で焼いていきます。

 さらにチーズを卵液の半分の部分に乗せて、七〜八割固まってきたところで、反対側をチーズ部分に折りたたみます。

 両面をきつね色になるまで焼いて、お皿に移しました。


 ふっくらとしたチーズオムレットの完成です。


「ふふっ、なかなかのものではないでしょうか?」


 いつもより上手く出来た気がします。

 自画自賛なのです。


 チーズオムレットだけでは寂しいので、トーストやベーコン。サラダも作っていきます。


 少し作りすぎたでしょうか?

 いえ、今から私達が挑む戦いは一筋縄ではいかないもの。

 たくさん食べないと、途中で倒れてしまうかもしれません。


 最後にフレッシュジュースをコップに入れ、チーズオムレットを中心とした朝食メニューを台の上に並べていきます。


 そして食堂まで運び、みんなの前でこう告げます。



「お待たせしました! さあ、召し上がれ!」



 テーブルに座っているみんなの前に、私は朝食が載ったお皿を並べていきます。


 現在、食堂には私を加えて四人の人間がいます。

 ファーヴとドグラス──そしてナイジェルです。


「美味しそうだね」

「うむ、良い匂いが漂っておる。見ているだけでお腹が鳴りそうだ」


 とナイジェルとドグラスは並べられた料理を見て、目を輝かせました。


 よかった。

 どうやら好評みたい。


 一方、ファーヴは料理を前にして、何故だか固まっている様子。


「どうしましたか? なにか、苦手な食材でもありましたか?」

「いや、そうじゃないんだ。ただ、こうして人間の作る飯を食べるのは、二百年ぶりなものでな。昔のことを思い出していた」

「それを作ってくれた人というのは……」

「時の聖女──シルヴィだ」


 ファーヴがシルヴィさんの名前を出す時、彼はとても懐かしそうで──そして辛そうな顔をします。


「彼女も料理が得意だった。よく、俺のために料理を作ってくれたよ」

「そうだったんですね。ますます気が合いそうです」


 良いことを聞きました。

 シルヴィさんを救い出し、早く彼女と話したい──心からそう思いました。


「シルヴィさんに思いを馳せるのもいいですが……冷めないうちに召し上がってください。シルヴィさんよりは劣るかもしれませんが……」

「ありがとう。じゃあ……」


 とファーヴはチーズオムレットを口に運びます。


 フォークとナイフを器用に使っています。

 ドグラスだって、最初は苦労したのに……。

 これもシルヴィさんと一緒にいることによって、覚えたのでしょうか?


 そして何度か咀嚼して、ファーヴはこう声を上げました。



「旨い!」



 よかった。

 どうやら、ファーヴのお口にも合ったよう。


「やはり人間の作る料理は、どれも旨いな。正直、食欲がなかったんだが……これならいくらでもいけそうだよ」


 ファーヴが手放しに賞賛してくれます。


「ふんっ、人間が作る料理の中でも、エリアーヌのものは格別だ。それを食べられるなんて、汝は幸せものだな。まあ……我は頻繁に食べているわけだが!」

「そうだね。コックが作ってくれる料理も美味しいけど、エリアーヌのものはそれ以上に感じる。彼女の料理に、僕も驚きっぱなしさ」


 ドグラスとナイジェルも、自分のことのように誇らしげに、私の料理を褒めてくれます。


 二人も朝食を食べ始めます。私も自分用に作ったチーズオムレットに、再度目を移しました。


 金色に焼き上げられた卵の表面は、ふっくらとした山のような形状をしています。

 チーズオムレットにフォークを通すと、中からとろけるようなチーズがゆっくりと流れ出ました。

 一口大に切って、口に運ぶと、私が想像していたよりも何倍も美味しく感じます。


 ふわっとした卵に、まろやかなチーズ。

 二つの食感が、口の中で絶妙に合わさっています。


「おい、ファフニール。我にそのオムレットの残りをよこせ」

「嫌だ。残しているわけではない。他の料理を食べているだけだ。お前は昔から、好きなものがあったらそれを一心不乱に食べるな」

「ふんっ」


 ドグラスが鼻で息をし、ファーヴから視線を外します。


 ちょっと喧嘩腰のドグラス。

 だけど先ほどまで二人の間で流れていた不穏な空気は、随分緩和されたような気がします。



 やっぱり、美味しいものはいい。



 この朝食は、大事を成す前の腹ごしらえという一面もあるけれど、私は二人に仲直りしてほしかった。


 まだ完全な仲直りまでは程遠い気がするけれど……少しはその一助になれたでしょうか?

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