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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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191・聖女の力を甘く見るな!

「がああああああ!」


 呪いの爆発と同時に、窓から何人もの人が飛び降りてきて、私達と対峙しました。


「これはどういうことだい!?」


 ナイジェルが緊張感のこもった声を発し、剣を構え直す。


「城の至る所から呪いの反応を感じます。ここにいる人達だけではなく、城内にいる人達全員に呪いがかけられたのでしょうか──?」


 呻き声を上げながら苦しむ人々の目は、赤く光っていました。

 体の周りには黒いもやのようなものが漂っていて、私達を見る目には敵意が込められています。


「の、呪い……先ほどの男と、同じようなことが──くっ!」


 カーティスも頭を抱え、苦悶の声を上げる。


 彼も片目だけに赤い光が宿っていました。尋常ならざる精神力で、呪いを拒んでいるけれど──これでは時間の問題。


「禁術が完成に至ったということか? このような惨状を生んでいる……と」


 ドグラスも体勢を低くし、いつでも攻撃に転じられるように警戒を募らせる。


「いえ、それはどうでしょう? 謎の男──ファーヴの言っていることを信じるなら、禁術が完成した場合、手が付けられないと言っていましたから」

「完成と決めつけるのは早計だろうね。現に僕とドグラス、エリアーヌには呪いの効果が効いていないし」


 いくら元々、呪いの耐性が高い私とドグラス──そして女神の加護が付与されたナイジェルであっても、簡単に逃れられるとは思いにくいのです。


 もしくは。


聖女わたしの力を甘く見たか──のどちらかですね」


 私はさっと手をかざします。


 呪いに侵食された人々はとうとう耐えきれず、私達に一斉に襲いかかってきました。

 ナイジェルが前に立ち、私を守ろうとしますが……この程度で守られるほど、私はおとなしいお姫様ではないですから。



「聖女の力はこんなものではありませんよ」



 一気に解呪魔法を放出。

 薄緑色の光が辺りに広がっていき、人々の体を包みます。

 そしてあっという間に人々が纏っていた瘴気は立ち消えて、ことなきを得たのでした。


「さすがだね、エリアーヌ。これくらい、君にかかれば問題ないか」

「まだ呪いがかかった直後でしたから。ですが……さすがに城全体に行き渡らせるには、私では力不足でした」


 そう言うと、ナイジェルは表情を険しくする。


「カーティスもご無事ですか?」

「え、ええ。ありがとうございます。呪いにかかってしまうとは……我ながら情けない」


 しゅんと肩を落とすカーティス。


「ガハハ。いちいち落ち込むな。ナイジェルはともかく、エリアーヌや我が特殊なのだ。これほどの濃い呪いを前にして、正気を完全に保っていられるものなどいない。もしいたとするなら、そいつは()()()()()()()なのだろうな」


 元気をなくすカーティスの肩を、ドグラスが豪快に叩きます。豪快すぎて、ちょっと痛そうに見えたくらい。


「他の場所でも、同じような光景が広がっているのかな」

「おそらく……しかしこの王城は広い。隈なく足を運んで、解呪していてはキリがありません」

「では、どうするのだ」


 ドグラスの問いに、私はこう言葉を紡ぐ。


「呪いの大元を絶ちましょう。そうすれば発動中の呪いも、全て解除出来るはずです」

「呪いの大元……やはり、君が言っていたディートヘルムを探すべきだね。もし彼が犯人なら、姿をくらましている可能性が高いけど……」

「だからといって、ここで立ち止まっている場合でもないだろう?」


 私が一瞬心配そうな顔になってしまったためか、ドグラスが嗜めるような口調でそう言いましたた。


「その通りです。ならば──クロードとレティシアのところへ戻りましょう。彼らが心配です」

「だね」


 会場もここと似たような状況になっているとするなら、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっているでしょう。


 幸せな結婚式を台無しにする、この凶行。

 呪いを仕掛けた人を許すことは出来ません。


「手遅れにならないうちに、すぐに向かいましょう! クロードとレティシアのところへ!」


 ◆ ◆



「ちぃっ!」


 神父が襲いかかってきたと同時──レティシアは咄嗟に近くの皿を持ち、彼の攻撃を防いだ。


『ふふふ、よく防ぐことが出来ましたね』


 神父の口から声が発せられる。


 しかしそれは普段聞いていた彼の声とは、微妙に違っていた。エコーがかかっていて、聞いているだけで耳が不快になってくる声音だ。


 いつも優しそうな表情を浮かべる神父であったが、今は違う。

 顔は憎悪に囚われ──そして瞳は赤色に揺らいでいた。


「一瞬、呪いが爆発したからね。だからギリギリ気付くことが出来た!」


 力任せに相手を押し返す。


 後ろによろめいていき、テーブルもろとも転倒する神父。

 しかしすぐに立ち上がる。

 かなりの衝撃だったと思うが、痛みを感じているような素振りさえない。妖しい笑みを浮かべ、ゆっくりとした足取りでレティシアに歩を進める。


「レ、レレレレティシア! ボクの後ろに! 君はボクが守る!」

「あんたになにが出来るっていうのよ!」


 神父とレティシアの間に立ち、両腕を広げるクロード。


(その気概は嬉しいけど……クロードは戦力として期待出来ないわ。わたしがなんとかしないと)


 神父が腕を振り上げ、クロードに襲いかかる。

 その手刀がクロードの首を斬り裂こうとした時──レティシアは呪いを放出させ、彼の攻撃を受け止めた。


 しかし。


「きゃっ!」


 短い悲鳴を上げ、レティシアが床に尻餅を付く。

 一瞬だけ相手の動きを止め、クロードが避ける時間は作ったものの、相手の勢いに負けてしまったのだ。


「レティシア! 大丈夫か!?」

「平気!」


 クロードの手を取ってすぐに立ち上がり、その場から逃げる。

 二人がいた床を、神父が踏みつける。すると衝撃波が起き、地面にヒビが入った。


(呪いで体が強化されているのね……でも、戦いなんてしてこなかったはずの神父さんが、ここまで強化されるのなんて本来は有り得ない)


 レティシアがSS級冒険者アルベルトに呪いを施した時も、彼はたった一人でリンチギハムの騎士相手に大立ち回りを演じてみせた。


 しかしあれは本来のアルベルトの強さがあってこそである。

 呪いは魔法のように便利なものではない。本来なら人間が出せない全力を、無理矢理引き出しているだけ。


(なのに、こんなに強くなってるってことは……この呪いのすさまじさが分かるわね)


 そして凶報は、呪いによって正気を失った人物が神父だけではなかったことだ。



「ぐ、が……、クロード、レティシア……殺す殺す殺す」

「偽の聖女……抹殺。クロードにふさわしくない……」

「死ね死ね死ね死ね死ね!」



 ──会場にいた人々が顔が歪ませ、レティシア達に殺意を向けていたことだ。

 彼らはふらふらとした足取りながらも、レティシア達の元へ殺到していく。


「くっ……!」


 あまりの劣勢のせいで、レティシアは歯軋りする。


「レティシアに近付くな!」


 クロードは近くのナイフを持ち、襲ってきた人々に反抗する。そのナイフはウェディングケーキを切るために使ったものだった。


(……まさかそんな使い方をすることになるなんてね)


 レティシアは寂しそうな表情を作るが、すぐに気を取り直して、彼ら・彼女らを真っ直ぐ見た。

 彼女が呪いで人々の動きを封じている間、こんな言葉が投げられた。



「レティシア……貴様は自分がなんなのか分かっているのか?」

「貴様は呪術師。この国に災いをもたらすもの」

「レティシアによって、今まで幾多の人間の人生がおかしくなってきた。それなのに今更、幸せになれるとでも思っているのか?」

「貴様にはクロードの隣はふさわしくない」



 それはまさしく、()()の言葉だった。


「──っ!」


 レティシアはそれに対して、なにも言い返せない。


(彼らは呪いによって、正気を失っている。だからこんな言葉、気にする必要はないはずなんだけど……)


 覚悟もしていた。


 しかしここまで真正面から、クロードとの結婚を反対してくる者はいなかった。

 クロードが防波堤になってくれたからだ。


 ゆえにこうして恨みつらみを浴びせられると──レティシアの心に暗幕がかかる。


「黙れ!」


 クロードは手に持つナイフで相手の攻撃を防ぎなら叫ぶ。

 だが、その手つきは危ういもの。なんなら誤って自分を傷つけてしまいそうだった。


「お前らにレティシアのなにが分かる! レティシアは確かに、悪いことをやってきたかもしれない」

「クロード……馬鹿正直に耳を傾ける必要なんてないから……」


 レティシアの言葉が耳に届いていないのか、クロードはさらに続ける。


「しかし……悪いことを全くやっていない人間なんているのか? 大なり小なり、そういった体験があるんじゃないのか? 大事なのは罪を認め、前に進むことだ。それもしないで、レティシアだけを責めるのは──お門違いだ!」

「…………」


 そう──クロードはわたしをいつでも守ってくれる。


 しかしわたしは、いつの間にかそれに甘えていたのではないか?


 わたしと結婚する以上、こういった声は絶え間なくクロードの耳に入るだろう。

 その度に彼の手を煩わせることになるのか?


 ──という考えが頭の中でグルグル回る。


 そのせいで呪いの力も、上手く使いこなすことが出来なくなっていた。



「ははは──良い声です。レティシア様、良いお方に守ってもらえてよかったですね」

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