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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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190・健やかなる時も、病める時も

「エリアーヌ、今だ!」

「はいっ!」


 ドグラスとカーティスが男を取り押さえている間に、私は手をかざして解呪魔法をかけます。


 すると暖かい色をした光が男を中心として灯りました。


「ふう……間に合って、よかったです」


 と腕で汗を拭う。


 ここまでドグラスに抱えられたまま、移動しましたが──やはり何度経験しても慣れません。

 ドグラスのことだから、私を振り落とすだなんてことはないと思いますが……ドキドキしてしまって、これはこれで緊張します。


「エリアーヌ、ケーキの方は無事に完成したのかな?」

「おかげさまで。ナイジェルとカーティスもお怪我はありませんか?」

「うん。へっちゃらだよ」

「問題ございません」


 ナイジェルが笑顔で、カーティスは生真面目に返事をしました。


「それにしても……あのコック長といい、至る所で呪いが発生しているな。やはりこれが禁術の正体だろうか」


 ドグラスが顎を手で撫でながら、そう口にする。


「わ、私はどうしてここに……?」


 考えていると、解呪した男性が目を覚ましました。

 混乱している彼に対して、ナイジェルがこう説明をします。


「君には呪いがかけられていたんだ」

「の、呪い!?」

「悪いけど、説明している時間はない。話を聞かせてもらえるかな?」

「は、はい……」


 彼は戸惑いの表情を浮かべていましたが、たどたどしい口調で喋り始めます。

 とはいえ、内容としてはあの時の暗殺者──そしてコック長と同じもの。これでは首謀者に繋がるヒントが見つかりません。


 場に落胆した空気が流れたけれど、彼は「あ、そうだ!」と声を大きくします。


「意識をなくす前。頭の中で音楽が流れていました」

「それはどのような音楽でしたか?」

「あれは……そうだ、笛の音です。式の始まりに音楽団によって演奏されていた、笛の独奏パート──あれに酷似していたと思います」


 それを聞き、私達は顔を見合わせます。


「あの時に笛を持っていた人物は、たった一人だけ」

「音楽団の団長──ディートヘルムだね」

「これだけで、まだヤツがこの事件の首謀者だと決めつけるのは早いが……無視出来ない証言だ。コック長も笛の音だというまでは断定出来なかったが、同じことを言っていたしな」


 コック長は分からなかったみたいですが、目の前の彼は笛の音だと断定しています。

 もしかしたら、禁術が完成に近付いているからかもしれません。


 そしてその鍵を握るのは、素晴らしい音楽を奏でていたディートヘルムさん。

 話を聞く必要があるでしょう。


「すぐにディートヘルムさんを探しましょう。そして彼を問い詰め──」


 と言葉を続けようとした時でした。


 城内で呪いが爆発したのは──。



 ◆ ◆



 エリアーヌ達の活躍により、結婚式は無事に進行していった。



『ではここで、クロード殿下とレティシア様の誓いの儀です』



 司会の言葉を聞き、二人は席を立つ。

 そして壇上のセンターまで移動し、お互いに向かい合った。クロードはレティシアの顔をじっと見つめる。


「……なによ。恥ずかしいじゃない」

「す、すまない。君の美しさを目の前にして、頭が真っ白になってしまっていたんだ」

「なによ。どうして今頃、そんなことになるのよ。さっきまでずっと隣にいたじゃない」

「何度見ても、同じように目を奪われるんだ」


 クロードはちょっと照れたように頬を掻いた。

 そんな彼の顔を、レティシアは可愛らしく感じた。



『誓いの儀とは、あらためてお互いの愛を確認し合う尊い儀式です。同意した後、二人は誓いの口づけを──』



 こうしている間にも、式は進行されていく。

 司会の声や、周りの雑音によってレティシアとクロードが言っている内容は、参列者には伝わらないだろう。

 まるで二人の周りに結界が張られているよう──レティシアはそう思った。


「とうとうここまで辿り着けたね。エリアーヌから禁術のことを聞いた時は、どうなることかと思ったが──無事に式も終わりそうだ」

「そうね。エリアーヌには感謝しないとね」

「もちろんだ。今でもエリアーヌはボク達のために動いてくれている。彼女には感謝してもしきれないくらいだ」

「え……?」


 思いもしていなかった言葉を聞き、レティシアは彼に聞き返す。


「さすがに気付いているよ。会場にエリアーヌとナイジェル殿下、そしてドグラスの姿が見えない。騎士も忙しそうに会場を出入りしている。ウェディングケーキのこともそうだし──きっと今もトラブルが起こっているんだろう。彼女達には迷惑をかける」

「そこまで察しが付いていたのね」

「うん」


 とクロードは頷く。


「本来なら、エリアーヌだけに苦労を背負わせるのは間違いかもしれない。だけど──ボクは今日という日を大切にしたかった。だから気付かないふりをしてた」

「……どうして、あんたはそこまで考えてるの?」

「決まっている。レティシア──君を幸せにしたかったからだ」


 二人が言葉を交わしている間にも、彼女らの隣に神父が立つ。

 優しそうな顔をした初老の男で、教会の神父長も勤め上げている。信頼の置ける男だった。


「わたしを?」

「君はこの結婚式をやりたがっていた。なら、ボクは君の希望を叶えなければならない。禁術のことがあっても、式を延期にしなかった理由──それは自国の権威にも関わると他にも説明したが、ボクの本音は違う。レティシア──君のためなら、どのような代償を払っても結婚式を成功させたかっただけなんだ」

「……わたし、そんなにやりたがっているつもりはなかったけど?」


 それは本当のことであった。

 無論、この結婚式は大切なこと。女の子にとって、一生に一度の晴れ舞台とも称されるものだ。


 しかしレティシア以上に、クロードが式を楽しみにしているのを側から見ていた。

 ゆえに自分がそこまで結婚式をやりがっていたとは、到底思えなかったのだ。


 しかしクロードは首を傾げて、


「……? なに言ってるんだ。分かりやすかったじゃないか。特にウェディングドレスを選ぶ時の君の表情は、とても楽しそうだった。あんな顔を見て、今更結婚式を中止や延期にすることなんて、とてもじゃないけどボクには出来ない」

「──っ」


 クロードの言ったことに、レティシアは言葉を失う。


 ──そうだ。

 今まで何故か忘れていた。


(だけど……クロードの言葉からウェディングドレスって言葉を聞いて、思い出した)


 あれは小さい頃──。



「新郎新婦、あなたは目の前にいる人を──」



 神父が誓いの言葉を発する。

 だが、今のレティシアにはそれがとても遠いものに聞こえた。


(あれはわたしが小さい頃──)


 近所の教会で結婚式が挙げられていた。

 その時、この世のものとは思えないくらいの美しい新婦を見てしまったのだ。

 幼い頃のレティシアは、新婦の幸せそうな表情──そして純白のウェディングドレスに目を奪われてしまった。


 しかし自分の呪いの一族の生まれ。

 こんなキレイなウェディンドレスを着ることなんてない──と諦めてしまった。


(その事実が辛すぎて……記憶を心の奥底に閉じ込めてしまったのかしら)



「健やかなる時も、病める時も、相手のことを愛し──」



 だけど今のわたしはこうしてウェディングドレスを着て、結婚式の()()になっている。

 昔のことを思えば、これは信じられないことだ。


(……ねえ、昔の自分。あなたが今のわたしを見たら、どう思うでしょうね? わたし──幸せそう?)


 昔の自分に問いかける。



「一生の愛を誓いますか──?」



「誓います」


 神父の言葉に、クロードは迷わず首を縦に振った。

 そしてレティシアの瞳をあらためて見る。

 彼女はそれを真正面から受け止めて、柔らかく微笑んだ。


「誓います」

 


 ──わたしがこんな風になれると思わなかった。



 こんな立派な結婚式の主役になって。

 キレイなウェディングドレスを着させてもらっている。


 そしてなにより──わたしの前には最愛の人がいる。


 クロードが好き。

 だが、それをはっきりと自覚したことはなかった。

 単純に恥ずかしかったというのも理由としてある。

 しかしその言葉を口にしてしまえば、それは薄っぺらくなって──消えてなくなってしまいそうだったからだ。


(人から愛を受け止めるのに、慣れていなかったせいかしらね)


 無論、クロードと出会うまでの自分は悪女だった。それはレティシアだって分かっている。

 今まで男から無数の愛を投げかけられただろう。


 だが、それをちゃんと受け止めていたのかというと──答えは否。


 愛から目を背け、気付かないふりをしていた。


 それはきっと──自分に自信がなかったから。


 相手の愛を受け止めるには、わたしは汚れすぎている。

 自分にそう言い聞かせてきた。


(だけど……クロードは違う。本当のわたしを分かっても、彼の愛は変わらなかった。そんなクロードとなら──)


 クロードの手がレティシアの両肩に乗せられる。

 彼女は少し上向き加減になって、クロードの視線を真正面から受け止めた。


(一緒に歩んでいける。この先にどんな道が続いていようとも)


 彼の唇が徐々に接近してくる。

 レティシアはゆっくりを目を閉じ、誓いのキスに備えた。



 今のレティシアは間違いなく幸せだった──。





 だが──罪は消せない。

 いくら彼女が自信を持とうが、悔い改めようが、幸せになろうが──そんなものは関係なかった。

 罪の亡霊はレティシアを決して許さず、彼女に贖罪を求めた。





「貴様が幸せになる権利などないっ!」


 クロードとの口づけ一歩寸前。

 神父が目を赤くして、彼女達に襲いかかったのだ。

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