176・王子は彼女の笑顔に気付く
「レティシア、さっきからずっと笑っているな」
「はあ?」
エリアーヌたちが去った後。
クロードにそんなことを言われて、わたしは思わずそう聞き返してしまった。
「なに言ってんのよ。笑ってるつもりなんてなかったけど?」
「……ん、そうか? ボクには君が笑っているように見えたが……」
不可解そうにクロードが首をかしげる。
慌てて自分の頬に手を当ててみるが……やっぱり笑っていない。それはエリアーヌたちがいる時も変わらなかったはずだ。
(笑ったりしたら、浮かれているように思われそうで恥ずかしいからね。気を付けていたはずだけど……)
とレティシアは内心、不思議に思った。
「ここ最近のレティシアは笑顔も多くなって、ボクも嬉しいよ。昔の君はそうでもなかったから……」
「──っ」
それを聞いて、言葉を失う。
エリアーヌがまだいる頃、レティシアは偽りの仮面を被っていた。いつも笑顔でいることを心がけていた。そうすれば、バカな男どもが寄ってくるからだ。
しかし仮面を脱ぎ捨て、楽な表情のままでいよう──そう決めてからは、本当に楽しい時にしか笑った記憶がない。
レティシアのことをよく知らない大人たちは「いつも不機嫌な顔をしている」と陰口を叩いていることも、彼女は知っている。
(それなのに……こいつだけは『昔に比べて、笑顔が多くなった』と言ってくれている)
しかも自分のそんな感想を、全く疑っていなさそうで──。
レティシアはクロードに、なんと言葉を返していいか分からなくなってしまった。
「レティシア。ボクは君を幸せにする」
そう言ってクロードは歩を進め、レティシアの両手を握る。
「結婚しなくても、君への愛は変わらない。しかし結婚式という一大行事は、一つの節目になるだろう。だからレティシア──これからも君には笑顔でいて欲しい」
クロードの顔が、ゆっくりとレティシアに迫っていく。
思えば──レティシアのことを真に理解してくれるのは、クロードだけだった。
彼はレティシアの顔が酷い有り様になっても、正体が呪術師だということが分かっても、変わらず自分に愛を囁いてくれた。
直接言葉に出すことは少ないが、そんなクロードに──レティシアは救われたのだ。
(わたし、この人と一緒になれて──)
クロードの唇がレティシアの唇に触れようかとする瞬間。
「な、なーにやってんのよ。こういうのは、結婚式当日まで置いておきなさい!」
むぎゅっとクロードの顔を手で押した。
「な、なに言ってるんだ! 結婚式当日までなんて我慢出来ない! 君への好きという気持ちが、このままでは爆発してしまう!」
「もーう! 結婚式当日ってもう少しじゃない! そういうとこは、ナイジェルと一緒なんだから!」
「ボクがナイジェルと一緒……? ま、まさか! ナイジェルも君のことを好──」
「そうじゃないわよ!」
無論、ナイジェルもクロードも、パートナーへの愛情を恥ずかしがらずに表に出す部分──だ。
レティシアは顔を真っ赤にして、クロードを叱る。
しかしすぐに表情を元に戻して。
「……いつもありがとね」
「ん? レティシア、なにを言った……」
「なんでもないわよ!」
近くの枕を持って、クロードに投げつける。枕はクロードの顔に直撃。しかし彼は怯まず、レティシアに先ほどの言葉を問い質すのであった。





