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171・バカップルよ、どうぞお幸せに

本日、コミカライズ四巻発売日です!

 ベルカイム王国。


「レティシア。ウェディングケーキの苺なんだけど、王都で売られているものか──それとも違うものにするか……どっちにしよう?」

「うーん?」


 レティシアはソファーで横になって、クロードの問いにこう答える。


「どっちでもいいんじゃない? 別に苺なんて、どこで買おうと一緒でしょ?」

「いやいや、そんなわけがない。大きさや味……どれを取っても違うんだ」

「そんなに変わるものかしらね」


 レティシアはそう言うが、クロードの方に顔を向けていない。

 ソファーで寝そべって、ぐーたらしているところであった。


 一方のクロードは対照的に、机の上にカタログを広げて睨めっこしている。

 先ほどから「うーん……」と頭を悩ませ、真剣な表情を作っている。


 しかし疲れている様子はなかった。

 それどころか、どこか楽しげである。


「じゃあ苺のことは保留にするとして──会場の飾り付けはどうしようか? テーブルに敷くシーツだが……」

「だから! なんでもいいって!」


 さすがに聞いていられなくなったのか。

 レティシアがとうとう根負けし、勢いよくソファーから立ち上がった。


「というか、なんであんたがそんな細かいことまで決めてんのよ!? そんなのはスタッフの人に任せておけばいいんだから!」

「なにを言うんだ!」


 レティシアは一気に捲し立てるが、クロードは怯む様子を見せない。

 彼女に真っ向から立ち向かっていった。


「君との大切な結婚式なんだよ? こうして気を遣うのは当然のことだ。ボクにとっても大切だけど、レティシアにとってはもっとだ。だから君には絶対に喜んで欲しくって……」

「──っ!」


 そう言われると、レティシアはなにも言い返せなくなる。


(わたしのために頑張ってくれるのは分かるけど……こんな調子がもう一ヶ月も続いているわ。これじゃあ、式本番はどうなることやら……)


 と内心、心配になりつつ、だからといってこれ以上咎める気も起こらない。

 クロードが自分のために色々と考えてくれることが嬉しいのだ。


 とはいえ、レティシアは自分のそんな気持ちを見て見ない振りをしていて、なかなか素直になれなかったが……。


(そういう気持ちも自覚しちゃってるのよね。クロードほどじゃないけど、わたしも浮かれちゃってるみたい)


 レティシアはそう思いつつ、溜め息を吐いた。


「と、当日は何人くらいが来てくれるのかしら?」


 照れた気持ちを誤魔化すように、レティシアがそう話題の矛先を変える。


「国内からはもちろん、他国の要人達にも招待状は送っているからな。それもほとんどの人が参加してくれることになっている」

「まあ、それもそうよね。なにせ一国の第一王子が結婚式を挙げようとするんだから」


 中にはこれを機に、ベルカイムとの結びつきを強くしたいと考える者もいるだろう。


「エリアーヌ達も来てくれることになっている。とはいえ、これは君の方が詳しいかもしれないが……」

「ああ……お茶会の度に結婚式について聞かれてるわ。彼女、相当張り切っているみたい」


 その張り切りぶりは、レティシア以上のようにも思えた。


(わたし達を祝福してくれるみたいだけど……エリアーヌはほんとにお人好しね。元々、わたし達は彼女に酷いことをしたっていうのに……)


 しかし──昔ならともかく──今は彼女のそんなお人好しの部分を、レティシアは好ましく思っていた。

 だからエリアーヌがレティシア以上に、結婚式について並々ならぬ思いを抱いているのは予想出来ることだった。


「失敗出来ないわね。そんなに多くの人が来てくれるんだから」


 レティシアの言葉に、クロードも真剣に頷く。


 ──もしこの結婚式が中止になったり、そこまでいかなくてもグダグダになってしまえば、他の人達はどう思うのだろうか?

 一国の王子の結婚式もまともに挙げられないのか。ベルカイムの国力は衰退している。

 ……と判断されかねない。


 いわば、二人の結婚式は国力を示す祭典という意味合いもあるのだ。

 ただでさえ、一年ほど前の魔王騒ぎの一件でベルカイムを侮る他国が増加傾向にあるのも事実。

 そういった事実は国内にも広がり、民の間で動揺が広がるだろう。

 ゆえにレティシアが「失敗出来ない」と言うのも当然のことだ。


 しかし。


「レティシアはそんなこと、気にしなくていい。君は自分の結婚式を心ゆくまで堪能すればいいだけだ。面倒なことは全部放り出してしまえばいい」

「そういうわけにはいかないでしょ」


 とレティシアは呆れたように、再び溜め息を吐く。


 とはいえ、クロードが自分のことを気遣って、そう言ってくれるのは分かっていたので──無意識に顔がにやけてしまっていたが。


「それなのに先日に起こった事件は気になるわね」

「先日の事件……というと、魔王が封印されていた地下に何者かが侵入したことか」

「うん」


 レティシアの顔が真剣味を帯びる。


「しかもなにかが持ち去られた痕跡もある──って話なんだけど、一体なんんなのかしら?」

「それは調査中だが……まさか地下に忍び込んで、その辺りのゴミを持ち帰ったとも思えない。なにか重要なものが持ち去られたと見るのがいいだろう」


 ここ──ベルカイム王国の地下には魔王が封印されていた。

 その封印は解かれ、世界は未曾有の混乱に陥る寸前ではあったが──聖女エリアーヌの活躍によって、それは防がれた。

 魔王がいなくなったとはいえ、重要な場所だ。本来なら隈なく調べるべきだったのだが、街を復興していく最中でどうしても後手に回ってしまった。


 この事件が露呈したのは、調査団からの報告だった。

 本格的な調査はまだだったとはいえ、少しずつは進めていたのだが──こんな報告が上がってくるのは予想していなかった。


 だが、その場所には王城の玉座が入り口となっている。

 ゆえに部外者がそう簡単に忍び込める場所ではない──はずだったが。


「まさか隠し通路があっただなんてね。そこから侵入者は忍び込んだらしいわ」

「そうみたいだな」


 入り口は一つではなかったのだ。

 とはいえ、実際は壁を壊し穴を掘り、強引に道を切り開いた部分もあったらしいが……そこまでしてあの場所に侵入しようとする、侵入者の執念が怖かった。


「持ち去られたのが、ただの金目のものならまだいいんだがな」

「そうね。それなら、なんとでもなるわ。だけど魔王が封印されていた場所なのよ? 嫌な予感がするわ」


 結婚式当日の直前というのもまた不気味だ。

 事件のことを聞いてから、レティシアは胸騒ぎが止まらなかった。


「なにごともなかったらいいんだけど……」

本日、当作品のコミカライズ四巻が発売となりました。

ぜひ、お手に取っていただけると幸いです!

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