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169・かくして禁術の扉は開かれた

「黒白の花嫁」編開始です。

 ──ベルカイム王国の地下。


 先の戦いのせいで、無惨な光景が広がっている。

 元々あった螺旋階段も崩れ、瓦礫が散乱としていた。


 外から光も差し込まず、常闇のような暗さ。


 そんな場所に──彼は一本の松明を携え訪れていた。


「ここが──魔王が封印されていた場所ですか」


 男は感慨深そうに呟く。


 一年ほど前の戦いにおいて、ベルカイム──そして世界は滅亡の危機に瀕した。

 しかし女神の代行者でも聖女と隣国の王子がこの地に足を踏み入れ、魔王を打ち破ったのである。

 魔王は消え去ったとはいえ、この空間には濃度の高い怨念が残っていた。

 それは人によっては『呪い』とも称するものである。

 常人なら、ここに立っているだけでも眩暈がして、そのまま倒れてしまうだろう。



 だが──彼は心地よさすら感じていた。



 微かに聞こえる砂埃が舞う音。

 僅かな空気の流れによって、瓦礫が擦れあう音。

 それらは大半の人が見逃してしまう『音』だった。


 彼はその()()に身を委ねる。

 周囲の呪いとあいまって、それは最高級の音楽へと昇華した。


「……っと。音楽を味わっている場合ではないですね。もう少し、この場に身を浸しておきたかったですが、私にはやるべきことがあります」


 ──彼は迷いない歩調で、そこに近付いていった。


「隠れても無駄ですよ。私には聞こえている。滅びの旋律が」


 少し歩いた後、足を止めて身を屈める。松明を近くに置き、瓦礫の山をどけだした。


 すると。


「ふふふ、やはりここにありましたか」


 男は一本の笛を手繰り寄せる。

 それは一見、なんの変哲もない横笛だ。しかしこれこそがまさしく、彼が人生を賭けて探していたものだった。


「この世には光と闇がある」


 彼はそっと接吻をするように、横笛に口を付ける。


「ベルカイムは闇に蓋をして、見ないようにしてきた。それによって街は光が溢れ、人々は幸せを享受した。しかし忘れてはいけません。闇は──常にあなた達の隣にあるのですから」


 音楽が流れる。

 男によって紡がれた旋律は美しいものであった。清流のような透明。森の自然のような包容力。

 それらは複雑に絡み合い、場は完全な音楽で満たされた。




 ──かくして禁術の扉が開かれたのである。

松もくば先生による、当作品のコミカライズ四巻が10月28日(金)発売予定です。

お手に取っていただければ幸いです!

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