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165・光の聖女

「それじゃあセシリーちゃんには、以前から女神様の声が聞こえていたんですか?」


《白の蛇》を作り替え、ナイジェルの体を乗っ取ろうとした魔王を制御した後──女神の力で私達は無事に、元の世界に戻ることが出来ました。


 でもその時も活躍したのは私ではありません。

 セシリーちゃんです。


 帰った直後は、とても疲れていたので他の人達からの祝福もそこそこに、すぐに自室で寝てしまいました。

 だけど私はセシリーちゃんと、話をしなければなりません。


 というわけで翌日──私はあらためて彼女と話をしていました。


「うん……」


 セシリーちゃんは俯いて、申し訳なさそうにそう返事をした。


「どうして、そのことを言わなかったんですか?」

「だって……お姉ちゃんが心配すると思ったから。だからセシリーだけの秘密にしておこうと思って……」


 確かに……セシリーちゃんにも聖女の力があると分かれば、私は驚いていたことでしょう。


 そして同時にこう思ったはず。

 セシリーちゃんがこの力を上手く使いこなせず、自滅してしまったら──って。


 私も当初、この力を使いこなすのに随分苦労しましたから。

 それに私が聖女としての力を授かったのは、お母さんを亡くしてすぐのこと。生活が一変し、精神的に不安定な時期が続きました。

 だからセシリーちゃんも同じ目に遭うのではないか……と。


 でも。


「すみません、セシリーちゃん。問い詰めるような真似をしてしまって。でもセシリーちゃんが、私と同じ力を持てて嬉しいです」

「ほんと?」


 セシリーちゃんが首をかしげ、私を見上げる。


「本当です。でも大きすぎる力は、時に身を滅ぼします。聖女の先輩として、私がしっかりセシリーちゃんをサポートしてあげますからね!」

「ありがとーなの!」


 そう言って、セシリーちゃんが私の体に抱きついた──。


 このことは女神からも詳しく教えてもらっていました。

 普通、聖女というのは世界でたった一人だけ。同時に二人の聖女がいるということは、今までに前例がなかったみたい。


 だけど……女神は薄々セシリーちゃんに聖女としての素質があると分かっておきながら、力を授けようとしませんでした。

 大きすぎる力は、時に身を滅ぶすから。私……エリアーヌがいるのに、わざわざ二人目に神託を授ける必要はないと。私と同じような考え方ですね。


 とはいえ、そうも言ってられなくなりました。

 セシリーちゃんが神界に連れ去られたのです。


 ヨルは私の力を警戒していました。

 だからセシリーちゃんを人質に取ってまで、あんな回りくどい手を使ったのです。


 だから女神はヨルに気付かれないように、セシリーちゃんに聖女の力をもたらそうとしました。

 それがあのギリギリのところで間に合って、ナイジェルを救った──というわけです。


「そういえば……以前、セシリーちゃんは女神の言っていることを理解していましたね」


 中央広場で時計台消失事件に立ち会った際。

 私は女神の声を聞いて、《白の蛇》を存在を知った。

 だけど《白の蛇》という言葉を、あの場で一度たりとも口にしなかった……はず。

 それなのにセシリーちゃんは「蛇のこと、にぃにに伝えないと」と言いました。


「今思えば……あの時もセシリーちゃんは、女神様の声が聞こえていたんですね」

「うん」


 とセシリーちゃんは頷く。


『……すみません。私も確証が得られたのは、セシリーが消えた後のことです。ナイジェルがピンチに陥った際、セシリーの魔力が爆発的に増加しました。おそらく、あれが覚醒のトリガーとなっていたのでしょう』


 と女神の声が響いてくる。


「そのおかげで、女神様がセシリーちゃんに力を譲渡することが出来たわけですね」

「ありがとーなの!」


 おそらく今現在も、セシリーちゃんには私と聞いているものと同じ声が、頭の中に響いているのでしょう。

 もう隠す必要もなくなったためなのか、今では彼女も普通に女神様の言葉に反応しています。


『……とはいえ、始まりの聖女の力を得たエリアーヌと違い、セシリーの力は限定的なものです』

「そうなんですか? セシリーちゃんにも女神様の声が聞こえているということは、同じ力を得たものだと思っていましたが……」


 元々、私はこうして女神の声を聞くことが出来なかった。

 だけど聞けるようになったのは、私が始まりの聖女の髪を入手して、女神との間に《道》を架けたから。


 私の疑問に、女神はこう答える。


『セシリーの力は、あなたとは少し性質の違うものです。結界魔法や治癒魔法はあなたほどではないですが、光の力によって邪悪なものを浄化し、制御する力に秀でています。もっとも──あなたがその力を有していないわけでは、決してないのですが……』

「なるほどです。聖女にも長所と短所があるということですか」

『そういうことです。元々歴代の聖女達の中でも、やれることが違っていました。一度、結界魔法が不得意な聖女がいたこともあります。彼女は他の魔法使いの手を借りて、ベルカイム王国に結界を張っていたのですよ』

「それは初耳です」


 ……なんでも出来る、私が特別だったということでしょう。


 それにしても──光によって邪悪を払う力。


「言うなれば、セシリーちゃんは光の聖女といったところでしょうか?」

「光の聖女! カッコいいのー! 今度からセシリー、光の聖女を名乗るー!」


 と笑うセシリーちゃんはとてもキレイでした。


「では──セシリーちゃんの話は終わりにしましょう。聖女としての訓練は後々考えるとして……私達には行くところがあります。セシリーちゃん、一緒に行きましょうか」

「うん!」


 そう言って、セシリーちゃんは私と手を繋ぐ。


 彼女が聖女の力に目覚めたとしても、彼女は彼女。

 私にとって可愛い義妹いもうとです。

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